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ヘミングウェイ「移動祝祭日」

移動祝祭日 (新潮文庫)移動祝祭日 (新潮文庫)
(2009/01/28)
アーネスト ヘミングウェイ

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【概要】
晩年のヘミングウェイが、かつてパリで過ごした日々を回想する自伝エッセイ。

【感想】
注釈読むと、事実とは異なる点が多々あるようです。
わざとそうしている部分もあるでしょうし、単に記憶違いという所もあるでしょう。

作中には愛人の名前が出てきません。
しかし、「破滅的な夏」など、最初の妻との不和・離婚を表す言葉は、時々出てきます。

自分と愛人とを出会わせた人と、愛人自身を呪うような文が入っています。
巻末解説によれば、「リッチな連中を憎悪したこともあったけど、不倫は本当は自分の失敗だった。」と反省していたのだそうです。
草稿からそういった部分をカットしたのは、メアリー夫人とのことで、どんな意図があってそのような事をしたのでしょうか。
「最初の妻ハドリーが再婚したと知り、罪の意識から開放された。二人目の妻ポーリーンを心から愛せるようになった。」という趣旨の文もバッサリ切られたそうです。
なぜ切る。
メアリー夫人は、ヘミングウェイのイメージをコントロールしたかったのでしょうか。
「過去を省みず我が道を行く男」的な。
力強いけど、「いい人」からは程遠い何かです。
物分りの良い善人よりは、わがままで何でも他人に責任転嫁していく強引な人物の方が「文豪」って感じはしますね。

ヘミングウェイは、闘牛が好き、という印象だったのですが、競馬や競輪にもハマっていたようです。

カフェで見かけた女性に心奪われ、「いまきみはぼくのものだ」と創作意欲に燃えるシーンが作家ぽくてかっこよかったです。短編を書き終わり顔を上げると、その娘はもういませんでした。

妻のミスでそれまで書き溜めた原稿を1つ除いて全て失うという事件がありました。
大惨事!

「壁に掛けられない」作品というのは、きっと品がなかったり後ろ暗かったり神聖じゃなかったりするものだと思うのですが、そういった作品の中にも名作はあると思います。むしろそういう作品だからこそ。

悪口の多い本です。
「本当はそのとき、"このくだらない連中に好かれたのだとすると、どこか欠点があるのでは?”と反省すべきだったのである。」とかすごい言い様です。
当時そう思わなかったとすると、その後に嫌なことがあって、それが回顧録に反映されているのでしょうね。
ひょっとすると悪口にはフォローがあったのかもしれません。
それを、ヘミングウェイの死後、メアリー夫人が削除したのでは。違う可能性も大ですが。

最初の方は「空腹感」という言葉が繰り返し登場します。
実際には、貧乏ではなかったと言いますから、物理的に腹が減っていたのではなく、精神的な飢餓感を抱えていたのではないでしょうか。

ヘミングウェイは、いくつかのロシア文学を読んでいました。
知人とドストエフスキーについて語る部分があります。
知人はドストエフスキーを悪く言うのですが、「糞と聖人を書くときが最高」「悪文なのに読者を感動させる」という点では認めているみたいです。
ヘミングウェイとその知人どっちのセリフか分かりませんが、「カラマーゾフの兄弟」を最後まで読み通せなかったので、いずれ再挑戦したい、とのことでした。
「外国文学は、翻訳にもよるよね」みたいな話もしてました。

「初めて水着をもたずに泳ぎに行く少女のように、興奮していた。」という一文は、意味がよく分からないのですが、美しい印象を残しました。
  1. 2009/09/09(水) 19:12:39|
  2. 読書感想文(小説)

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