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同人漫画サークル

ルイス・キャロル「不思議の国のアリス」

2010年実写映画版感想はこちらです
作者が撮った少女写真集の感想はこちらです

不思議の国のアリス (河出文庫)不思議の国のアリス (河出文庫)
(1988/10)
高橋 康也高橋 迪

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【あらすじ】
お姉さんと並んで土手に座っていたアリスは、上着を着て懐中時計を持ちピンクの目をしたウサギを追いかけて穴の中に落ちてしまう。
そこは、不思議な世界だった。

↓「不思議の国のアリス」を読んで、イメージイラストを描きました。
  絵の下に感想がございます。
アリス 二次創作 らくがき


【ネタバレなし感想】
各ページの下に、訳者の解説がついています。

登場する動物の英語名が、アリスのモデルになった姉妹達の名に因んでいたり、作中のアリスとモデルのアリスの誕生日が同じだったりするなど様々な点を、注釈なしでは知らずに終わるところでした。
作中のアリスは、ちょうど満7歳だと推定されるそうです。

胴と頭部の分離イメージや四肢を見失う描写など、身体欠損のモチーフが繰り返し登場します。
また、アリスが「昨日の私と今日の私は、同じ私か」との疑問を抱いたり、名前を問われているのに「自分は何なのか分からない」と答えるなど、アイデンティティー喪失の危機を思わせる場面も多いです。
ふわふわした明るくかわいい雰囲気もありながら、相当ブラックなものを感じさせるお話でした。

アリスは物語の初期、飼い猫ダイナのことをよく考え話題に出します。
それなのに、地下世界で「チェシャー・ネコ(ニヤニヤした猫)」に出会った時には、全くダイナのことを思い出さないのです。
その辺がすごく不気味です。
訳者の解釈では、ダイナは「地上とアリスを繋ぐ唯一のもの」なのだそうです。
66ページ以降ダイナの名が出てこないということは、それ以降アリスの心の居所が、より深度を増していったという事でしょうか。
悪夢にズブズブとのめり込んでいく感覚です。

アリスの体は大きくなったり小さくなったりします。
途中から思い通りに大きさを調節できるようになっている点が、地下世界に適応していっている感じがして怖いです。
地下に来た当初のアリスは、「飼い猫ダイナは狩りが得意だ」という話をしては、動物達を不機嫌にさせたり怖がらせたりしていました。
何べん同じミスするんだよ!と思ってましたが、後半では相当気が回るようになっていました。
時として、都合の良い嘘をつくようにすらなりました。
本当のことを言ったら、この世界に対応できないこともあるのです。

作中で数少ないアリスの理解者ドードーは、作者ルイス・キャロルの本名を訛らせたものだそうで、敵の多い地下世界において、ドードー=作者はアリスの味方みたいです。

「帽子屋」と「3月ウサギ」は、気が狂っている(mad)と作中で言われています。
彼らは何故狂っているのか。
それは、もともとある「帽子屋のように気が狂っている(フェルト処理用の水銀で幻覚症状を起こす職業病)」と「三月のウサギのように狂っている(3月はウサギの発情期」という成句から逆生成されたキャラクターだから、なのだそうです。

「逆」というのは、アリス全体によく出てくる要素です。
「女の子っていうのは、蛇と同じくらい卵を食べるのよ」→「かりにそうだとしたら、女の子は蛇だということになるじゃないの。」
「イヌは気ちがいじゃない。イヌは怒るとうなり、うれしいと尻尾をふる。」→「ところがおれは、うれしいとうなり、怒るとしっぽをふる。ゆえにおれは気ちがいである。」
といった間違った発想の飛躍が頻繁に起こります。

「猫の体は消えてニヤニヤ笑いだけが残った」とかどういう状態なのでしょう。
顔がなかったら、表情も残り得ないと思うのですが。カオス!

駄洒落、韻踏み、同音異句などの言葉遊びが大変多い作品です。
日本語訳するのはさぞ困難だったでしょう。

動物達が石版に一生懸命なにかを書き付けるシーンが、なぜかいじらしく、少し切なく感じられました。
まったく悲しい要素ゼロなのに不思議です。

作中のアリスが「わたしのこと、誰か本に書くべきよ」と言うなど、メタ・フィクション的な手法が用いられています。
他にもメタ・フィクション的入れ子構造を思わせる部分があります。

生き物が生き物を食べる、生き物が生き物の命を奪う、という関係性が随所に登場しました。
例えこの作品に何の教訓もないのだとしても、読み手の心には、必要、もしくは、無用な殺生についての印象が、いつの間にか刻み込まれていそうです。

古今東西の小説、映画、漫画、音楽などに多大な影響を与えた「不思議の国のアリス」ですが、今回読んであらためて、「こりゃあ、引用したくなる話だわ」と思いました。
深読みする気持ちがよく分かります。
物語がナンセンスでも、そこに意味を見出したくなるのです。
これは何を象徴してる、とか、これはあれの隠喩だ、とか。

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2009/09/04(金) 22:09:09|
  2. 読書感想文(小説)

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