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森見登美彦「四畳半神話大系」

四畳半神話大系 (角川文庫)四畳半神話大系 (角川文庫)
(2008/03/25)
森見 登美彦

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【あらすじ】
大学三回生の「私」は、唾棄すべき友人「小津」とともに、実益のない2年間を送ってきた。
思えば、映画サークル「みそぎ」に入ったのが間違いであった。
もしあの時別の道を選んでいれば、「薔薇色のキャンパスライフ」を手に入れられたかもしれないのに。

【途中まで、ネタバレなし感想】
登場人物のうち、「樋口師匠」と「羽貫さん」は、同作者の別作品「夜は短し歩けよ乙女」と共通して登場します。
また、映画サークル「みそぎ」や「詭弁論部」「閨房調査団青年部」などいくつかの団体も、「夜は短し~」と同名です。
舞台や世界観が同じようです。
てっきり、「四畳半~」が「夜は短し~」のスピンオフ作品なのかと思いましたが、調べたら「四畳半~」の方が先に発表されていたので間違いでした。

「夜は短し歩けよ乙女」の感想はこちら

優秀な学生を軟禁してレポートを大量に代筆させる<印刷所>というのが特に面白いです。
本筋にはほとんど絡みませんが。
軟禁された学生に、何らかの報酬は与えるられるのでしょうか。

本作では、同じ単語の連続して使われている箇所が幾つかあるのですが、それがテンポ良かったです。
【例】
「不機嫌と不機嫌の相互作用が不機嫌を生み、生まれた不機嫌たちがさらに不機嫌を生み落とすという臭気紛々たる悪夢の連鎖。」
「ただ人の恋路を邪魔することに憂き身をやつして、恋路の走り方などかけらも学んでこなかった私が、しかもこんなに誇り高い私が、今さら自尊心の藪に埋もれかけた恋路をおめおめ走れるか。」

第1話から第4話まであり、登場人物、団体、設定はほぼ同一ですが…。
第2話を読み始めた時に、あれ?え、え?ってなりました。

【以下、ネタバレあり感想】







選択肢で分岐する平行世界を扱ったパラレルものだったんですね。
第2話の3ページ目くらいで気づきました。
ジャンルとしてはSF青春活劇と言う感じになるのでしょうか。

各平行世界には、序列や上位下位というのは存在するのでしょうか。

もちぐまの移動経路を整理してみます。
もちぐまは、明石さんが鞄につけたスポンジ製の熊のぬいぐるみ「ふわふわ戦隊モチグマン」の内の一つです。

第4話の「私」が古本市でのバイト中、明石さんからもちぐまの存在を知らされ、とある夕方、小橋のたもとでもちぐまを拾った。しかし、コインランドリーでもちぐまを盗まれてしまう。

第3話の「私」がコインランドリーで下着を盗まれ、代わりにもちぐまが入っていた。
部屋を訪ねてきた小津が、闇鍋に入れるといいもちぐまを貰っていった。

第2話の「私」が、樋口師匠達とともに闇鍋をしていると、中にはもちぐまが入っていた。
もちぐまは羽貫さんが貰い、橋の欄干から吐いた拍子に高野川に落としてしまった。

第1話の「私」が、賀茂大橋のたもとに転落した小津の下にたどりつくと、小津はもちぐまを拾っていた。「私」がもちぐまを受け取り、もちぐまを古本市で落としたという明石さんに渡した。

明石さんの落としたもちぐまは、巡り巡って明石さんの手元に戻ってきました。
無限に連なる四畳半迷路の出現と似たような原理で、もちぐまも各並行世界を移動したのでしょうか。

どの話でも、「私」は結局「薔薇色のキャンパスライフ」を手に入れられなかったことになっています。
しかし、傍からみれば十分すぎる程楽しい学園生活です。

「私」は、第1話で映画サークル「みそぎ」に入り、第2話では樋口師匠の弟子になります。第3話では宗教系ソフトボール部「ほんわか」に、第4話では秘密組織「福猫飯店」に所属します。
入学時に別々の選択をした「私」ですが、おおまかには同じ経路をたどります。

順番は前後するかもしれませんが、以下の通りです。
「私」が何かの団体に所属する

小津と知り合う

「私」が団体を辞める(樋口師匠の弟子は辞めない)

小津と「私」が「この、さびしがりやさん」「きゃっ」をやる

占い師と出会う 「コロッセオが好機の印」と言われる

猫ラーメンに行く

樋口師匠がタツノオトシゴを欲しがったせいで、階下の「私」の部屋に水漏れ、猥褻図書館が水浸しになる

カステラを食べる

「コロッセオ」を表すものを見つける(各話で別の物として現れる)

蛾の大群が発生する

小津が賀茂大橋の欄干から落ちて骨折する

「私」と明石さんがうれしはずかしな関係になる

「私」と小津は本当に腐れ縁で、どの世界でも会ってしまうのです。
フィクションにおいて、分岐した世界同士というのは、もっと極端に違ってくることが多いと思うんです。
世界が終わったり、人が死んだり、ハッピーエンドだったり。
しかしこの作品では、逆に、各世界での「私」が送る学園生活に大差がないのが面白いと思います。
分かれ道でどんな決断をしようと大きく変わらないと知ったら、自分の選択を後悔することはないでしょう。
また、選択時のストレスが軽減されるはずです。
とは言え、現実世界においては、選択しなかったifの世界は知りえないわけですし、やはり、一つ一つの選択が重要なのだと思わされます。

小津と「私」が、男女の睦言を模倣するシーンで、「私」は、「前にもこんな言い合いしてなかったか」とデジャヴュを起こします。
他の平行世界の記憶を共有していることがあるのでしょうか。
ループものととらえれば、前の周回の残滓ともとれます。

第1話で、映画サークル「みそぎ」に参加した「私」は、小津とともに映画を作ります。
その中には、太平洋戦争以来続く悪戯合戦で、全身ピンク色の小津と頭を半分剃られた「私」が賀茂大橋で激突するというものがあります。

これは、第2話の「自虐的代理代理戦争」を彷彿とさせます。
第1話時点でも、小津は樋口師匠の弟子で、おそらく代理代理戦争を知っていますから、それを映画にしたのかもしれません。
第1話での「私」が知らず知らずのうちに、第2話での「私」と似たようなことをしているのですから、面白いものです。

第2話で存在を否定された「図書館警察」ですが、実在したんですね。第4話に登場しました。

人物・団体の名称やエピソード、単語、会話等が、本作の各話間、また、同作者の他作品間でリンクしていたのが楽しかったです。

ジョニーや香織さんなどの脇役(?)も良かったです。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/09/01(火) 21:34:27|
  2. 読書感想文(小説)

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