野良箱

同人漫画サークル

筑波昭「津山三十人殺し 日本犯罪史上空前の惨劇」

津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)
(2005/10)
筑波 昭

商品詳細を見る

【あらすじ・概要】
昭和13年、22歳の都井睦雄(といむつお)が2時間で部落民31人を虐殺した「津山事件」。
当時の捜査文献や雑誌の評論、新聞記事などを多数引用し、その全貌を明らかにしようとするノンフィクション。
睦夫は、詰襟の学生服を着、頭に2つの懐中電灯をくくりつけ、ナショナルランプを腹に、足にはゲートルと地下足袋という異様ないでたちで、大量殺人を行った。
使用された凶器は、日本刀と匕首、斧、猟銃である。
予め電線を切り、一帯を停電にしてからの、暗闇に乗じた犯行だった。
犯人の睦夫は、三通の遺書を残し、森の中で自害した。

【感想】
津山三十人殺しという事件があったのは知っていましたが、その内容は全く把握していませんでした。

睦夫の遺書によると、事件の動機は次のようなものです。
「不治の病で絶望していた所、女達に恥辱を味わされ、皆の笑いものになった。女を恨み復讐しようと思った。自分の挙動が不審なためか、世間一般から疑惑の目を向けられるようになった。そこで、多くに人に殺意を抱くようになった。」

犯人の遺書を全て鵜呑みにするわけにもいきませんし、かと言って、生き残った関係者の証言を全面的に信用するわけにも行きません。
住民と犯人の言い分は異なっていますし、著者によれば、同一人物の証言にもブレや矛盾があるそうです。

犯人は、村の複数の女性と関係を持っていました。
女性達は、「自分は最後まで拒んだ」とか「金銭は貰っていない」などと言っていますが、死人に口なしということで、自分達に都合の良いように言っている節がなきにしもあらずっぽいです。
少なくとも、部落の女性の多くが、村の有力者の男性と不倫関係にあったそうです。
犯人は、それを夫にバラされたくなかったら俺と関係しろと迫ったらしいです。
フィクションみたいな話ですね。

著者は、犯人と部落の女性達には、やはり肉体関係があったのではないかと見ています。
真相は、本人達しか知りませんが。

犯人は、なんでそんなに性欲がありあまってたんでしょうか。
悪友に女を教えられ、かつ、売春婦と素人女は全然違うと言われて興味が沸いたのですかね。
娘を襲いに行ったけど断られたので母親に鞍替えしたりと、色々酷いです。
受け入れる母親もなんかすごいです。断ってください。できない理由があったのかもしれませんが。

当時の評論でも、「この地域は田舎にありがちな、男女関係のルーズさがあった。娯楽施設がないとどうしてもこうなってしまう。夜這いなど悪習が残っている。」と言われがちだったそうですが、部落の人々は反論しています。

犯人は小説を書くのが好きで、また、子供たちに物語の読み聞かせをしていました。
小説家や学校の先生を目指したこともありますが、叶いませんでした。
肺病にならないか、なったとしても、それを必要以上に重篤に捉え悲観しなかったら、また、女狂いにならなければ、そして、でかいことやってやる的な虚栄心や自己顕示欲がなかったら、事件を引き起こさず、やがて子供に好かれる教師になれていたのではないでしょうか。
犯人は、学校での成績がとてもよかったとの事ですし、周りからも頭が良いとされています。
そのわりに、遺書に誤字が多いのが気になりますが。

最初に猟銃を手に入れた動機は、事件を起すためではなく、女に迫る時に威圧するためだったのではないかという説が出ていました。

金を借り、武器を集める手口が自然で鮮やかでした。
そういう才能を他に活かせばよいのに。

この本の構成は、まず事件を報せる新聞の記事から始まり、警察資料など客観的な文章の引用が続きます。
その後は、犯人の生い立ちが年齢ごとに、当時の社会情勢も合わせて書かれています。
著者の考察も入ってきます。
終盤、事件場面の再現がなされています。
それまでは、どちらかといえば、論文的、編集的な内容でしたが、大量殺人の描写は、小説的かつ創作的です。
あたかもそこで事件を見ていたかのように書かれています。
死因や犯人と住民のやりとりは、それまでの報告書や証言から再構成されているものなので、そこまで事実と異なっていないかと思います。
結構グロくて猟奇的な表現となっています。
淡々とした本だと思っていましたが、ラスト付近で印象が変わりました。

本書の最初の方に犯人の遺書があるので、それを事件の真相だと思ってしまった部分があります。
しかし、その後の記事や考察を見るにつけ、犯人の目から見た世界と、現実には大分差異があったのだと感じさせられました。

犯人は、自分が結核だから、周囲から蔑まれ差別されてきたと述べていますが、他の住人は、彼が結核だと知らなかったり、「犯人睦夫が自分で言いふらしていた」と証言しています。
もし犯人が嫌われていたとしたら、それは、睦夫の女癖が最悪なせいであり、また、猟銃を持ってぶらぶらしているせいだったのではないかと思います。

本書では、津山事件の他に、ドイツで起こった「ワグネル事件(ワグナー事件)」と日本で起こった「安部定事件」についてもページを割いています。

ワグネル事件の動機に唖然です。
ワグネルは、自分がかつて獣姦したことを、皆が知っていて嘲っているのだと思い込み、大量殺人を行いました。
しかし、ワグネルの過去の過ちを知る者など、誰一人としていなかったのです。
被害者がかわいそう過ぎます。否がないにもほどがあります。

阿部定事件は、あまりのヤンデレぶりにガクブルです。
犯人の阿部定は、殺した相手の男をもの凄く好きなようです。
津山事件の犯人睦夫は、安部定事件にとても関心を抱き、安部定のファンだったようです。
わざわざ、阿部定の住んでいた部屋に行って、娼婦を買ったりしていました。
彼には、阿部定を越える大きなことをしたいという野心があったと言います。
睦夫が事件を起す前に、ニ・ニ六事件や五・一五事件がありましたが、睦夫は興味を示さなかったようです。

ところで、「阿部定」でyahoo!検索したら、モザイクのかかった死体っぽい写真がトップにきたので怖かったです。

子供を間引きする習慣が歌となって残り、それを子供達が歌っているという状況は恐ろしいですね。
間引いた子供について尋ねられたら、「シジミ拾いに行きました」と答えるのが習わしだったそうです。
婉曲的かつ詩的かつ意味深で粋にすら感じられるやりとりですが、そんなこと思ってる場合じゃない文化です。

津山事件を一部モチーフにしているという「八つ墓村」は未読ですし、映画も未見です。

なお、上の文章にでてくる「部落」という単語に差別的意味合は含まれていません。
本書で使われているのでそのまま書いたというのもあるんですが、私も子供の頃普通につかってました。
しかも、「うちの部落では~」とか、自分の住んでる場所をそう呼んでました。「部落対抗運動会」とかありましたし。あくまでも、地域、町内というくらいの意味しかありませんでした。
今は、放送禁止用語らしいですね。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/06/20(土) 23:51:44|
  2. 読書感想文(小説)

FC2Ad