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黒武洋「パンドラの火花」

パンドラの火花 (新潮文庫)パンドラの火花 (新潮文庫)
(2008/01/29)
黒武 洋

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【あらすじ】
2040年の日本では、すでに死刑制度が廃止されていた。
そのため、判決が確定済みの死刑囚が宙に浮くこととなった。
更正の余地があるとされる死刑囚には、刑執行を免れるチャンスが与えられた。
それは、タイムマシンで過去の自分に会って説得し、事件を未然に防ぐことだった。

【途中までそんなにネタバレなし感想】
まずは、家族6人を含む12人を殺害した死刑囚・横尾友也視点で話が進みます。
横尾は、事件当時高校生だった自分に、事件を起さないよう説得します。

次に、インターネット上での繋がりから、ゲーム感覚で動物を殺し、やがてさらなる凶悪犯罪に手を染めることになる三日月憲人がメインキャラクターとになります。
これは、説得される側としての物語となります。つまり、過去の世界における三日月憲人は、まだ死刑になるようなことはしていないのです。

最後は、過去に戻る死刑囚に同行する時空監視官・十九番の心の中を描きます。
ストーリー的には、自分の会社を爆破した死刑囚・氏家孝仁の行動を追っています。

過去の自分ということで、相手の内面まで知り尽くした上での説得となります。
また、人生の大半を塀の中で過ごし、後悔と贖罪の日々を送ってきた自分の悲惨な姿を見せることで反面教師となることもできます。
しかし、「年や経験を重ねた私」として過去の自分に接したとしても、社会や友人、仕事や家族といった、所謂一般的な人生とは大きくかけ離れた生活をしていた為、年齢=人生経験とは言い難いものとなっています。
それで説得力に欠ける部分があり、それを過去の自分に見透かされる場面もあります。

「映像ペーパー」や「ハンディPC」など、未来の電子機器が登場します。
そのネーミングが、少し昔のSF小説を思わせます。

タイムマシンこと「時空移動システム」の装置は、仁徳天皇陵にあるという設定です。

【以下、ネタバレあり感想】

映像ペーパーに現れた赤い点が十七号で、残りの緑の点が十八号と十九号ということだったのでしょうか。

横尾の説得は良い感じに進んではいましたが、最終的には、事件を起す前の自分を殺害してしまうというバッドエンドになりました。
長い服役期間と再教育で改善されたと思われていた、短絡的かつ短気な部分は、まだ残っていたようです。
単に、自分の意見を真面目に聞いていない舐めた態度の若い自分にいらつき、また、信用できなかっただけではなく、恋人の美里亜梨沙を再び殺したくないという思いがあったようです。
どうしてまた、若かりし頃の横尾は、美里の首を絞めてみたくなったりしたんでしょうか。
横尾は美里と似たもの同士の雰囲気を感じたとのことですが、微笑んで殺された美里と、話の冒頭「死にたくない。なんでもするから。」と言っていた横尾は、全然違うと思うんですが。

カイザーの正体は、三日月ですよね。1958年時点でのカイザーは、70歳を超えた老人とのことですから、1940年から2005年に戻った方の三日月ではなく、若い方の三日月のようですね。
年をとった方の三日月は、未来のデータを持ったまま、過去の世界で生き続けることに成功したのでしょうか。それとも、データを残し、カプセルチップによって死んだのでしょうか。
途中までは、二人の三日月がタッグを組んでいたとも考えられますね。片方は、先に寿命がきて亡くなったのかもしれませんが。

会社爆破の氏家は、過去の自分を説得することに成功しました。
氏家が1940年に復帰し正式な時間軸に舞い戻った瞬間、それまで生きてきた氏家が姿を消したというのは、残酷ですね。
元々1940年にいた方の氏家にとっては、ハッピーエンドなんですけど。

物語の最初の方で、説得に成功し当該犯罪が起きなかったのにも関わらず、結局は別件で死刑になってしまったという人がいました。
横尾や三日月もそうでしたが、人間そんなに変わらないし、悪人はどこまで行っても悪人、というような諦めが感じられました。
中には、氏家のように本気で改心する人もいるようですけど。

カイザーが存在することと、十九号が自我に目覚めたことで、未来が変わってしまったようです。

時空移動システムがあるからカイザーが生まれたのに、その時空移動システムを発案したのもカイザーとはこれ如何に。
起点が分らなくてぐるぐるしますね。

ところで、少年時代の横尾はオタクという設定だったのでしょうか。
女性声優の歌うアニソンを聴いていたので。
オタクや闇サイトで凶悪犯罪が…、という所がステレオタイプな感じもしますが、現実にそういう事件も起きてますから否定はできませんね。

テーマ:読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2009/06/16(火) 07:17:46|
  2. 読書感想文(小説)

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