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北村薫「ひとがた流し」

ひとがた流し (新潮文庫)ひとがた流し (新潮文庫)
(2009/04/25)
北村 薫

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【ひとがた流し】
全国放送の女性アナウンサー石川千波(通称:トムさん)と離婚後子連れで再婚した日高美々、前夫と離婚後独身でいる水沢牧子の三人は幼馴染で、40歳を越えてなお友情を育んでいる。
千波は、局が始まって以来初の、ニュース番組で上手に座る女性キャスターに抜擢された。
女友達三人とその家族とペット、そして謎の「スズキさん」が送る日々。

【途中まで、ネタバレなし感想】
第六章まである長編で、全ての章に共通した人物が登場しますし、時系列も繋がっています。
しかし、各章でメインスポットを浴びるキャラクターが違うようです。

作中で、ひとがたに願いを書いて流すシーンがあります。
通常ひとがたには穢れや災いを移し、それを川に流したり焼いたりすることで、厄を肩代わりしてもらいます。
果たしてひとがたに願いを託したという千波の記憶は正しかったのでしょうか。それは、本文中で判明します。
このエピソードを含め、子供時代の描写が出てくると、グっとくるものがあります。

私が実際にひとがた(人形代:ひとかたしろ)を手にした際の日記は、こちらのエントリーでご覧いただけます。画像もあります。

千波と牧子が、少女時代、変電所に行った思い出を語ります。
「ああいう時あんたが女の子だったら、私が押さえつけて、…恋人同士になっていたんだろうね。」
「わたしは女の子だったわよ。あなたが男の子だったら―でしょう?」
同性で友達で恋人ではなかったからこその繋がりの深さ。
離れていても、どこかにいてくれることが支えだったというのです。
ちなみに「あなたが男の子だったら恋人になりたかった」というセリフは、女性の同性愛者が言われるとかなり傷つくらしいですよ。
この作品の登場人物は、全員異性愛者なので問題ないですが。

この作品と、世界観や登場人物の共通する前作と続編があるそうですが、それらは未読です。

【以下、ネタバレあり感想】

千波が人間ドックに入ったのは、良かったのか悪かったのか。
検査を受けていなかったら、もっと病気の症状が進んでから発覚したでしょうから、余命が短くなっていたかもしれません。
それでも、病気に気づいていなゆえに、前々から思い入れのあった、上座に座るアナウンサーにはなれていたと思います。

この病気の件や友人の後押しもあって、鴨足屋秋良と結婚できました。
千波が生きているうちに人を愛したり、他人に弱い部分を見せることが経験できたのは良いことですが、できれば上座の夢も叶えたかったと思います。
しかし、TVの前の多くの視聴者に注目されるより、たった一人でも本気で愛してくれる配偶者が側に居てくれた方が、素晴らしい人生と言えるのかもしれません。

写真家の日高類は、「北へ」以降それを越えるような評価を得られていませんでした。
後日、千波のヌードを撮影した一連の作品を発表した場合、それが新たな代表作になりそうです。
「先日亡くなった女性アナウンサーを写した作品」ということだけでも世間の注目を集めそうですが、さらに、作品自体に魂がこもっているという点で、賞賛されそうな予感がします。

「自分が生きていることを切実に願う誰かが居れば、それが生きる力になる」というのは分ります。
ですが、例え願ってくれる人が居なくても、生き続けたいものです。

テーマ:読書感想 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2009/06/08(月) 04:33:48|
  2. 読書感想文(小説)

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