野良箱

同人漫画サークル

東野圭吾「パラドックス13」(パラドックスサーティーン)

パラドックス13パラドックス13
(2009/04/15)
東野 圭吾

商品詳細を見る

【あらすじ】
日本時間3月13日13時13分13秒からP-13現象が発生するという。
P-13現象は、ブラックホールに関する予想不可能な出来事だとされている。
政府は国民にその事を隠しつつ、P-13現象の起こっている13秒間、重大な事件や事故の起こらないよう準備した。
その時が訪れ、P-13現象が発生した。
突然、人間と動物が姿を消した。運転手を失い暴走する車。襲い来る天変地異。
崩壊していく東京の中で、わずかに生き残った人々がサバイバルする。

【途中までネタバレなし感想】
法律や地位、序列を失った世界で、剥き出しのままの人間達がドラマを繰り広げます。
善悪の概念も時として反転します。
通常の世の中で正しいとされている価値観は一気に揺らぎます。

理想論的生き方で優秀な兄・誠哉と感情的で冷静さを欠く弟・冬樹、久我兄弟二人の対比が良かったです。
どちらが正しいとか間違っているとか、そういうことはなかったと思います。

殺人や自殺は悪いことなのか、老人は役に立たず邪魔なのか、他人の人生は尊重するべきか、生きる目的はどう設定すればよいのか、年上を敬うとはどういうことか、普通ではない人間とどう接すればいいのか、極限状態でもプライドを保てるか、など様々なことを考えさせられました。

生死のかかった世界では、奇麗事が通用しません。

結末が気になって急いで読みました。面白かったです。

【以下、ネタバレあり感想】

登場人物達が死者なのは、かなり初期から予想していました。
揃って登場している久我兄弟は、物語冒頭、死んでいてもおかしくない状況だったので。

元の世界において、P-13現象で跳躍した13秒間に死んだ人達が、無人の異世界に飛ばされていたのです。
正確には、死んだのにパラドックスで死んでいないことになり、生きているのに未来には行けない存在となったのですが。

異世界で、揺り戻しのP-13現象が再び起こる36日後、4月18日の午後1時13分まで生き延びた人は、元の世界に戻れました。
戻るというか、最初から死ななかったかのようにつじつまが合わされたのです。
異世界で死んだ人は、元の世界でも午後1時13分に死んだ事になりました。
ラストでの生存者は、異世界での記憶を失っています。
しかし、冬樹の兄誠哉に対する気持ちがP-13現象以前とは変化しているように見えなくもないので、なんらかの影響が残っているのかもしれません。

ヤクザの河瀬は、せっかくP-13現象の起こった13秒間を生き延びたのに、そのすぐ後に死んだようです。
別の組のフルフェイスヘルメットの男に撃たれました。河瀬と将棋をしていたタクジが、河瀬の銃から弾を抜いたようです。タクジも荒巻会の回し者だったのでしょうか。
河瀬は、いつ死んでもいい覚悟が出来ているそうなので、こんな結末も有りでしょう。
ただ、河瀬は撃たれたと言っても、死んだとは限りませんが。

2度目のP-13現象は、異世界においては、生物の活動限界だったのです。そこに向けて世界が崩壊していったのですね。
恐らく、東京以外にも13秒間の死者がいたのでしょう。
P-13対策本部のある総理官邸ですら崩れたのですから、他の地域も壊滅したのだと思われます。

子孫を残すために生きるというのは、生物としては当然の目標かもしれませんが、それが全てとなると、人間らしくないような気もします。

ネタバレあり登場人物紹介

久我誠哉…警察庁捜査一課管理官。警視。冬樹の兄。冷静なリーダー役。強盗殺人犯の確保中死亡。異世界では、水中で建築資材が刺さり死亡。

久我冬樹…所轄の刑事。巡査。誠哉の弟。強盗殺人犯の確保中死亡。異世界から生還。

白木栄美子…夫と死別し娘ミオと二人暮し。借金苦で娘を道連れに飛び降り自殺。異世界から生還。心中を思いとどまる。異世界で「ママ」と呼ばれることもあった。

白木ミオ…栄美子の娘。母に殺される形で飛び降り死亡。異世界に来てからは、失語症。笛で意思表示していた。異世界から生還。言葉を発して、死を免れる。

新藤太一…太った食いしん坊。鉄骨の下敷きになり死亡。粉ミルクを盗み信用を失った。異世界で、濁流に巻き込まれ死亡。

小峰義之…建設会社社員で技術屋。戸田の部下。電話をかけながら車を運転し事故死。通行人を巻き込んだ。異世界では、レイプ未遂を起した。2度目のP-13に自殺するつもりでフライング、そのまま死亡した。

戸田正勝…建設会社役員。専務。小峰の上司。事故死。異世界ではよく酒を呑んでいてた。総理公邸崩壊時に天井の下敷きになり死亡。

中原明日香…女子高生。フットサル部。小峰の運転する車にはねられ死亡。異世界から生還。事故には巻き込まれたらしく怪我をしている。病院で冬樹と出会う。

富田奈々美…看護士。鉄骨の下敷きになり死亡。異世界では、もう恋人に会えないという絶望から自殺しようとしたこともある。異世界から生還。太一に助けられたことになっている。

山西繁雄…杉並に自宅のある老人。小峰の運転する車にはねられ死亡。異世界でインフルエンザにかかり、肺炎を併発し死亡。

山西春子…繁雄の妻。夫とともに事故に巻き込まれて死亡。異世界では、体育館から逃げる際、転んで頭を打ち意識不明に。夫によりサクシンで安楽死させられた。

勇人…赤ちゃん。母による無理心中で首をしめられ死亡。異世界から生還。母親は意識不明。

河瀬…ヤクザ。背中に刺青がある。組事務所で将棋を打っていた時、よその組が殴りこんできて死亡。インフルエンザ第一号。異世界から生還するも、その直後銃撃される。

登場人物も13人なんですね。
個人的には、ヤクザの河瀬がお気に入りです。スッパリした性格が良いです。他の仲間達が、河瀬を拒もうとした気持ちも分かります。緊急状況において社会不適合者と関わりあいたくないのは普通です。
河瀬が持ち込んだインフルエンザのせいで山西さんが死んだのですし、また、河瀬がP-13現象の資料に載っている英語が気になると言った事が小峰が無駄死にに繋がったのですから、その点、疫病神というのは間違っていないのかもしれません。
河瀬は予めインフルエンザに感染していたようです。テツという電話番に染されました。
河瀬が元SF小僧だったという意外性が良いです。また、タミフルを取りに行き、動けなくなった冬樹と明日香を救ったシーン、素潜りで自販機を壊しカップラーメンを手に入れたシーン、ホテルマンの制服を着崩しているシーンがかっこ良いです。

現実を、P-13現象で異世界に行きまた戻ってこれた世界だと考えられれば、より良く、幸せを噛み締めて生きられそうです。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/05/11(月) 00:32:40|
  2. 読書感想文(小説)

FC2Ad