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小栗虫太郎「黒死館殺人事件」

黒死館殺人事件 (河出文庫)黒死館殺人事件 (河出文庫)
(2008/05/02)
小栗 虫太郎

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【あらすじ】
黒死館と呼ばれる建物があり、当主の降矢木算哲が自殺した。
この館では、建設以来3件の変死があった。
家族の中には、四重奏団として外国人がいる。
刑事弁護士の法水麟太郎が、事件の謎に挑む。

【ネタバレなし感想】
難解で読むのに時間がかかりました。

作中、悪魔学・心理学・薬学・占星術・音楽理論・妖精学・錬金術・詩歌・古事・文書・神話・聖書・宗教学・史実等を引用しまくり、また、様々な書名が登場しまくります。
あちこちに注釈がはいっています。

何がすごいかと言うと、主人公の法水だけが高度な知識を持ちそれを披露しているのではなく、その他の人物も同等に渡りあい、注釈いらずで言葉が通じるのです。

昔の詩を、しかも外国語の原文で諳んじあうキャラクター達。現実では、まずありえないでしょう。

法水は、誰もが知っていて当然であるように、史実上実在の、もしくは、架空の人物名を会話に挟みます。
それを受けた聞き手は、その意味するところ、関連するエピソードを瞬時に判断して対応します。
「ドラえもんののび太じゃないんだから」「ムーミンでいうところのスナフキンみたいな」くらいのノリで、「アレキサンドリアのアンティオウスでさえも」「例のアルベルツス・マグヌスが」とそんなの聞いたことないよ!という人名をバンバン出してくるのです。

キャラクターそれぞれの外見的特徴や性格付けがそれほど明確でなかったように感じます。
年恰好などは、書いてはあるのですが、名前とそれらを結び付けるのが難しかったです。
人物全員の中の人が作者自身といった印象があります。
それは、上記のように、登場人物がほぼ全員、作者と同レベルの知識を有しているからでしょう。

人物の名前にふりがながついているのは、本文初登場時だけです。
巻頭の人物紹介欄では、ふりがながないのでやや不便です。

アナグラムや暗号が登場しますが、MMRコピペ級のトンデモと強引さとこじつけです。
作る人も作る人ですが、解く方も解く方です。

殺人事件が起きて、探偵役と助手と犯人がいて、推理やトリックがある、という点では、いかにも推理小説っぽい作りなのですが、本筋のそれよりも、作品全体を覆う雰囲気といいますか、中世ヨーロッパ趣味な装飾描写、オカルト的装置・小道具・儀式、そして不必要なほどの膨大な知識のやりとり、というそういった所を楽しめばいいのかなと思います。
好きなに人は、ものすごく好きな世界だと思います。

作者、小栗虫太郎の文章の特徴としては、漢字にカタカナでルビがふってあり、それが、まったく漢字の読みと違う、というものが多い所が挙げられる思います。
「象徴」と書いて「シンボル」、「因数」と書いて「ファクター」、「半陰陽」と書いて「ふたなり」、「扉」と書いて「ドア」などです。
ドアやシンボル、チャンスなら現代でも良く使う外来語なので理解しやすいですが、ペンタグランマやらイマジネリー・ヴァリューやらテラルコッタやらは、漢字がなければ意味不明です。
ですが、登場人物達は、当たり前に会話してます。

それと、日本語でもアルファベットでもない文字や記号が文章中にちょくちょくでてきます。
ドレミの「ド」を表すために、ト音記号と五線譜、音符全てが合わさって一文字扱いになっていたり、傷などの形を図形にして、やはり、一文字として文中に埋め込んであったり。
こういうのは、今までに見たことがないかもしれません。
原稿用紙にそのように描いてあったのでしょうか。

澁澤龍彦さんの巻末解説が読みやすく、ああ、こういうストーリーの小説だったのかと、遅ればせながら理解できました。
解説の中に犯人の名前が書いてあるので、本文未読の方は先に読まないようにご注意下さい。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/04/04(土) 00:23:09|
  2. 読書感想文(小説)

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