野良箱

同人漫画サークル

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」

映画版の感想はこちらのエントリーです。
以下は、原作小説の感想となります。

ゴールデンスランバーゴールデンスランバー
(2007/11/29)
伊坂 幸太郎

商品詳細を見る

【あらすじ】
仙台で金田首相のパレード中、ラジコンヘリが飛んできて爆発した。
首相暗殺事件の犯人として報道されたのは、樋口晴子の昔の恋人、青柳雅春だった。
仙台は、二年前に起きた連続殺人事件の犯人、通称「キルオ」(切る男の意)を捕まえるという名目でセキュリティーポッドを導入し、市民を監視していた。

【途中まで、ネタバレなし感想】
書店で何度か見かけましたが、実際手に取るまで「ゴールデンドライバー」というタイトルだと思っていました。
表紙の下部が帯で隠れていたため、マイナスドライバー(工具)に見えたのです。

この物語は、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件を下敷きにしています。
暗殺に使用されたラジコンヘリは、教科書倉庫ビルから飛んできたとされています。
ビルの名称まで一緒です。
ゴールデンスランバーは、JFK暗殺事件が存在しない平行世界なのかと思っていましたが、作中、「逃げろ!オズワルドにされるぞ」というセリフが出てきたので違いました。
オズワルドというのは、JFK暗殺事件の犯人とされていたが、別の人物に射殺された人です。真相がうやむやですが、実際には犯人ではなかったとされています。
映画やドキュメンタリーで、オズワルドが単独で暗殺した可能性は極めて低いと言っていました。
疑惑の銃弾とか言われていて、教科書ビルの方向から撃ったとすれば、銃弾が空中でUターンしなければ無理な軌道で命中したことになるそうです。
前から複数で撃った説とかを見ました。

JFKの話は置いておいて、ゴールデンスランバーの感想行きます。

すごく面白かったです。
伏線が大量に散りばめられているのですが、ちょうど忘れたころに生きてくるのです。
とは言っても、読者が完全に忘れていたら伏線の意味がありません。
面白い言い回しだとか、軽妙な会話だとか、軽く引っかかっていた言葉が、再び輝き出すのです。
そうきたかー!って感じで爽快でした。
最初から最後まで、大変よく出来ていました。

作中「シーマン」と思しき、変な魚と会話するゲームが出てきます。
シーマン、割と活躍します。

マスコミや巨大な陰謀の怖さが分る話です。
情報操作って凄いです。
松本サリン事件発生時の報道を思い出しました。

この物語では、誰が暗殺の首謀者なのか等、そう言った事は掘り下げていませんでした。
あまり重要なテーマではないのか、諸説あるよ、って感じでサラっと流してました。
私も別に真相を知りたくて読んでいたわけではありません。
青柳雅春が逃げ切れるかどうか、できるとしたらどうやって?と言うのが気になって、先へ先へと読み進めていったのです。

登場人物の大学時代のエピソードが登場します。
同じ記憶・経験を共有したような気持ちになりました。

ラスト付近、かなーり印象的な場面があります。
映像化したら、山場に持ってこられそうです。予告編では流さないで欲しいシーンです。ネタバレになるので。

痴漢嫌いの父親に書かされたという書初めが、笑えました。

人間の習慣や癖は、中にはみっともないものもあります。
しかし、それすら愛しいその人の一部なのだと思わされました。

【以下、ネタバレあり感想】

帯の「首相暗殺の濡れ衣を着せられた男は、巨大な陰謀から逃げ切ることができたのか?」を見ないまま、読み始めました。

どう考えても青柳雅春が犯人だろう、と思ってしまいました。
ここまで、目撃情報や状況証拠がそろっているのですから。

ご飯粒を残す、親指でエレベーターのボタンを押す、痴漢は死ね、それが青柳です。
元カノの晴子から見ると、報道された犯人像と、自分の知っている青柳が一致しないわけです。

突然話が20年後に飛んで驚きました。
それによると、事件について証言した多くの人物が不可解な死を遂げたとされています。
森田を含めて、でっちあげに加担させられいらなくなったら口封じに殺された彼らもかわいそうです。
整形により青柳そっくりになった男は、死体にされたようです。
彼の人生って一体。

佐々木一太郎は、陰謀側の人間なんでしょうね。
青柳を犯人に仕立て上げて逮捕し、殺したかったんでしょう。

「青柳家之墓」と出てきたり、麻酔銃に囲まれたシーンがTVに映ったりしていたので、青柳は、何らかの形で、その場面までたどり着き、逮捕され、死ぬのだろうと思っていました。
途中、公園で麻酔銃に囲まれるのは、青柳のそっくりさんの方かとも思いましたが、公園に現れたのは正真正銘の青柳でした。

銃の発射音かと思いきや、花火の発射音でした。
「何か大きな音を立てて警察の気を引きたい」という意のセリフが確か事前にありました、が、まさか打ち上げ花火だとは思いもよりませんでした。

胡散臭い両足骨折の男、保土ヶ谷康志は、本当に下水道に詳しかったです。
彼がいなかったら、青柳は逃げ切れなかったでしょう。

時間軸や視点が切り替わりながら、所々一致する様が面白かったです。
シェフの作ったシチューのCMとか。

キルオこと三浦と、ショットガン持ってヘッドホンをした小鳩沢は、現実離れしたキャラクターでした。

森田森吾が森の声がどうのと言うシーンが初めて出てくるのは、第4部だと思います。
が、今読み返したら、第3部ラストで「そこでは森の声も聞こえなかった」とありました。
一度目は全く気にならない文章なのに、二度目では「あ、このセリフって」と思わせるような仕掛けだと思います。
よそのブログでは、第3部を書いたのが未来の青柳なのではないか、と書いてありました。
私も、その説を支持します。
第3部が、青柳のモノローグだとすれば、青柳は、当然自分が生きていることを知っているので、青柳家の墓がどうのという描写はないはずですし、「逃げ続けた二日間、青柳雅春がいったい何を考えていたのか、誰にも分らない。」というのも他人事だ、ということになります。
が、第3部の文章は、ノンフィクション作家による調査書であり、他人へ、公へ向けて書かれたものなのです。
だから、筆者が青柳本人であることを伏せていて当たり前なのでしょう。
青柳は、自分が巻き込まれた事件の全貌を知ろうと調査したのではないでしょうか。
「そこでは森の声も聞こえなかった」という文章も、森田のことを思い、追悼の意味で加えたと考えるとしっくりきま
す。
「実は森田が生きてる説」というのもあるのでしょうか。それなら、ストレートに森田が書いた文章と取ることが容易ですね。
青柳を本当に死んだと思っていて、逃走中の青柳の心中を知らなくて、という。今、手元に本がなくて、どれぐらい森田が死んだという事が確定的なのか分からないのですが。
でもやはり、「第三部の筆者は未来の青柳説」に一票です。

青柳が宅配便ドライバー時代に強盗から救ったアイドル凛香が再登場したのは、なんだか嬉しかったです。彼女、やっぱり整形してるんでしょうか。

半紙に書かれた「痴漢は死ね」は、傍から見れば容疑者中傷のメッセージでしかありません。
しかし、青柳の父には、息子が書いたものだと伝わります。
最初はギャグタッチに登場した「痴漢は死ね」書初めでしたが、ラストには親子を繋ぐ感動的なものになってました。
こういう所すごくうまいですね。

青柳は整形して、別人として生きることになりました。
しかし、晴子には、青柳が分ったようです。
たいへんよくできました。
  1. 2008/11/19(水) 21:05:25|
  2. 読書感想文(小説)

FC2Ad