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サマセット・モーム「月と六ペンス」

月と六ペンス (光文社古典新訳文庫 Aモ 1-1)月と六ペンス (光文社古典新訳文庫 Aモ 1-1)
(2008/06/12)
モーム

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【あらすじ】
チャールズ・ストリックランドは、今では誰もが認める偉大な画家である。
作家の「私」が、初めてストリックランドと会ったのは、夫人に招待された晩餐会であった。
ストリックランドは、株式仲買人をしており、取り立てて特徴のない男だった。
そんなストリックランドが、突然家出をした。
妻ではない女と一緒にパリに行ったという。
「私」は、ストリックランドを探しに行った。

【途中まで、ネタバレなし感想】
画家ストリックランドのモデルは、ポール・ゴーギャンですが、両者には相違点が多いため、ストリックランドの生き方は、モームの創作だと言われています。

前置きとして、ストリックランドの偉大さと、性格の規格外である様が書かれていました。
本文で、ストリックランドが登場した時、彼と気づきませんでした。
前置きとのイメージが違いすぎたからです。(名前がちゃんと頭に入っていなかったせいもありますが。)

巻末解説によると、タイトルの「月」は理想を「六ペンス」は現実を表しているそうです。
作者のモームが同性愛者だったのには気づきませんでしたが、この人は女が嫌いなのか?なんか恨みでもあるのか?とは少し思いました。

【以下、ネタバレあり感想】

ストリックランドが、40歳にして安定した仕事を辞め、妻と子供を捨てたのは、愛人の為ではなく、画家になるためでした。

ストリックランドの本性が明らかになるにつれ、この男は、結婚生活17年間をどういう気持ちで過ごしてきたんだろうと思いました。

3流画家のダーク・ストルーブ。
審美眼はあるのに、自分の描く作品はまるで駄目。そういうことって実際ありそうです。
良い批評家が良い作品を生み出せるわけではありませんからね。
ストルーブは底なしにいい人です。
ストリックランドに妻のブランチを寝取られ、妻を亡くしてもなお、ストリックランドの絵の才能を尊敬し、自分と一緒にオランダに来ないかとまで言ったのです。
ストルーブは、からかわれ、嘲られる道化として描かれていました。
彼が悲しむ様が滑稽に見えたり、善人然としているところがかえって苛立たしかったりするのです。
「私」すら、ストルーブにムカついていました。読者にもそう仕向けていたような気がします。
ストルーブが何か間違いを犯していたとすれば、それは、病気のストルーブを看病するため、自分のアトリエに連れてきてしまったことです。妻ブランチの反対を押し切って。
それがきっかけで、ブランチはストリックランドを愛するようになり、結果自殺を図ってしまったのです。

ストリックランドを酷く嫌悪していたブランチが一転、ストリックランドに惹かれるという展開。彼女の心の変化については、読んでいて薄々感づいていました。文中にほのめかしてあったので。

ストリックランドは、「肉欲は健全、愛は病気」という意の事を言っていました。
愛を病気の一種とする格言・皮肉は、何度か見たことあります。

天才は、品行方正よりも、ぶっ壊れた人物である方が、見ていて面白いし、興味をそそられます。
実際性格破綻者に接する当事者達にはたまったものではありませんし、周囲に不幸を振りまいているわけですが。

創作の魂、芸術への衝動、美への探究心、みたいなものが全体を通して描かれていたようですが、ストリックランドが画家になろうと思ったきっかけやストリックランドが目指したものと言うのは具体的に描かれていませんでした。
そういうところがより一層、ストリックランドを実在の人物のように感じさせる一因だと思います。
途中、作家の「私」が「これが小説なら」という仮定で述べていた部分がありますが、あれだと、いかにも「伏線をきちんと回収しました」「これは物語です」っていう感じになっていたと思います。
現実では、行動にいちいち明確な動機があるわけでもなく、また、前振りがあってからオチがあるといった風に上手くできているわけではないのだと思います。

「今は平穏な生活を送っているけど、本当は、それを捨ててまでやりたいことが別にある。」という人に、お勧めなような、そうでないような一冊です。
医師として出世間違いなしだったエイブラハムが、休暇先のエジプトに居付き、エリートコースを外れたエピソードが出てきました。
傍からみれば、落ちぶれた、勿体無いことをした、と見えるわけですが、エイブラハムは、「死ぬまでここにいられること以外、何も望まない。すばらしい人生だった」と言っています。
このセリフが、この物語の中で救いになっていると思います。
例えストリックランドの様に天才と呼ばれ後世に名を残さなくても、やりたいことやり、本人さえそれで良ければ、無名でも貧乏でも幸せなのです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/11/14(金) 19:27:55|
  2. 読書感想文(小説)

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