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同人漫画サークル

中島らも「今夜、すべてのバーで」

今夜、すべてのバーで (講談社文庫)今夜、すべてのバーで (講談社文庫)
(1994/03)
中島 らも

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【あらすじ】
35歳の小島容(いるる)は、アルコール中毒で倒れ、入院することになった。
検査と断酒の日々。
病室には、個性的な面々がいた。

【途中まで、ネタバレなし感想】
アル中、薬物依存に関する文献を多数参照・引用しているため、読むとそれらに詳しくなれる、かもしれない一冊です。

主人公の小島は、フィクションのキャラクターですが、著者中島らもの体験が色濃く反映されてそうです。
物書きであることも、酒にとりつかれているところも、検査の詳細も。

「アル中地獄」という本が引用されてました。
断酒による禁断症状が、アル中患者本人によって書かれたものなのですが、不謹慎にも笑えました。
自分の頭が破裂して、その脳細胞を拾い集めるという幻覚症状が出たのです。
「右後頭部の細胞が一番大事」とか意味が分りません。
最後のパーツが見つからなくて絶望していると、他の患者が「トイレの前に落ちとるぞ!」と言いました。
実際トイレの前にパーツがあったので、それを頭に嵌めたが、またしても脳がバラバラになり、泣きながら失神した、というのです。
ちゃんと他の人に言われた通りの幻覚が見えるものなのですね。
なんだか、インタラクティブです。
幻覚に付き合ってやる周りの患者の様子が微笑ましいです。

アル中というのは、「酒が美味くて仕方ない」と言う人がなるのだと思っていましたが、違うようです。
料理と共に酒の味を楽しみ、ほろ酔い気分を良しとする人は、アル中になりにくいのだと言います。
なりやすいのは、薬として、道具としてアルコールを摂取している人で、例えば、寝るために酒を飲む、などという習慣があると、危険なのだそうです。

ドラッグの話も多く、広い意味で何かに依存することについて描かれていました。
中毒(アディクト)、依存症(ワーカホリックを含む)と絡めて、アル中というものを理解しようとしていました。

小島が、アル中になりかけの頃から、アル中に関する文献を漁り、それらを肴に酒を飲んで、立派なアル中になったというのが面白いです。
アル中に関する知識が豊富にあってもなってしまうという。

アル中患者や薬物中毒者は、死にベクトルが向いているという印象を受けました。慢性自殺だという説も紹介されてましたし。
前後不覚になるまでラリっていたエルビス・プレスリーは、「みじめな状態でいるよりは、意識を失っていた方がマシだからね」と言ったそうです。
大人気スターなのに苦悩があったのでしょうか。

アルコールにより引き起こされた病気、肝臓の変化など肉体面のことも書かれていましたし、どういう心境で、どういった環境で、どういった性格の人がアル中になっていくのかという、精神面のことも書かれていました。

小島が、死んだ親友と寺にいて、腔腸動物の香腺液の結晶(賢者の石)を湧き水に落とし飲むという夢を見たのですが、その味の描写が滅茶苦茶美味しそうでした。
それが酒なのだと判明するのですが、酒の嫌いな私でも「それなら飲んでみたい」と思わされました。

小島が入院して断酒してから、徐々に食欲が復活してくるのですが、食べるということ行為がとても大切で、人生の楽しみの一つなのだと改めて感じました。

【以下、ネタバレあり感想】

タイトル「今夜、すべてのバーで」の後は、当然酒を飲むことに関する語が続くと思っていたのですが、ラストでは、ミルクで乾杯していました。
ノンアルコール飲料です。

アルコールに依存する分、親愛なる他者のことを考えていこうぜ的な希望を感じました。

「何かに依存していない人間がいるとしたら死者だ。死者すら何かに依存しているのかもしれない。」
とのことでした。
問題は依存の方向と度合いなんでしょうね。

綾瀬少年が亡くなってしまいました。
赤河先生は小島に「きさまの二十年をこの子にやれないのなら、せめて、あやまれ。この子に土下座してあやまれよ」と言いました。無茶なことを。
言わんとしていることは、なんとなく分ります。
ちゃんと日々をしっかり生きなきゃ勿体無いし、若くして亡くなった少年に申し訳ないですね。
遺体の側で乱闘かます医者。赤河先生は酒乱だったのです。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/11/01(土) 21:18:01|
  2. 読書感想文(小説)

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