野良箱

同人漫画サークル

松浦理英子「裏ヴァージョン」

裏ヴァージョン裏ヴァージョン
(2000/10)
松浦 理英子

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上の表紙画像は、私が読んだものと装丁が違います。

【あらすじ】
外国人名の署名で始まる短編小説の後に、何者かにより辛口コメントがつけられている。
次の短編からは署名が消える。
短編の末尾には、またしてもコメントが。
こうして、次々に短編小説が書かれていく。
やがて、短編小説の「書き手」と「コメント主」の素性が明らかになっていく。
二人は一体どんな関係なのか。
なぜ、短編小説を書いているのか。

【ネタバレなし感想】
読み始めたら、最後まで読むべきお話だと思います。

メタフィクション的手法がとられています。

恋愛、性愛がメインテーマの小説は、なんとなく敬遠してました。
あらすじを適当に見たせいで、ミステリだと思い込んでこの本を手にとったわけですが、実際にはミステリではなく、上記のテーマを含んでいました。
それでいて、ジャンル不明でした。
作中の、短編小説の「書き手」と「コメント主」の関係が、とても微妙なものなのです。

【以下、ネタバレあり感想】

アメリカが舞台のホラー→アメリカが舞台のレズビアンSM→日本が舞台の話→日本が舞台の私小説(「コメント主」が主役、ただし変名)→私小説(「書き手」が主役、ただし変名)→私小説(「書き手」が主役、本名)
といった具合に、物語がどんどん「書き手」自身に近づきます。
最後から一つ前の物語ですら、フィクションを含んでいたのですから、最後まで事実だけを書いたという小説はなかったのかもしれません。
物語は、「コメント主」の文章で幕を閉じました。

物語の中の「現実」のレベルも変化します。
状況がわからず読み始めた最初の物語においては、「オコジョ」(猫の名前)とバトルする男が存在する所を「現実」だと思っていました。
ところが、最後に謎の太字コメントが。これがあることによって、オコジョホラー小説は、フィクションということになりました。
一時は、「書き手」と「コメント主」は両方架空の人物である、という所まで行きました。
著者、松浦理英子のあとがきみたいなものかと勘違いしました。
結局それは作中の書き手の創作であることが判明しました。

「書き手」と「コメント主」という40代独身女性が同居しているという状況、「現実」はそこに定着しました。

「書き手」も「コメント主」も昔はバリバリの腐女子だったようです。
漫画の二次創作(勝手にホモ化)をしたり、学校の男の子をモデルに話を創ったり(勝手にホモ化未遂)
「書き手」は、現在もオタクのようです。

「コメント主」は、「書き手」を無料で居候させる代わりに、短編小説を書かせることにしました。
それは嫌がらせやサディスティックな感情からではなく、単純に友達である「書き手」を好きなように遊ばせてあげたかったからそうしたのだと言います。

最初は、外国文学の日本語訳みたいな文章だったのに、やがて舞台が日本になり、ポケットモンスターの細かい描写が始まったことには驚きました。
本の最初とカラーが違いすぎる!と。

「自尊心を持ったマゾヒスト」「マゾヒストがパートナーに選ぶのは企みに付き合ってくれる共演者」といったようなことが最初の方の短編にありました。
後編では、小説家と読者の立場が不平等であることについて書かれていました。
昔は、小説家の企みに沿って読者が翻弄されていたけど、今は、従順な読者はいない。好きなように物語を変形させ、楽しめる部分だけとって、残りは捨てる。
前編と後編の一部を総合すると、小説家(「書き手」)=M、読者(「コメント主」)=Sって感じになるんでしょうか。

どこかで聞いた、「SMは、実はMの方が主導権を握っている」という言葉を思い出します。

この物語は、二人の女性の性愛を伴わないSM的・家族的友情を描いていると共に、物語の創作者と受け手との関係をも描いていたような気がします。

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2008/05/23(金) 21:11:47|
  2. 読書感想文(小説)

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