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同人漫画サークル

ヘルマン・ヘッセ「車輪の下」

車輪の下 (新潮文庫)車輪の下 (新潮文庫)
(1951/11)
ヘッセ高橋 健二

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上の表紙画像は、私が買ったものと違います。

【あらすじ】
頭のいいハンスは、神学校の入学試験に挑む。

【途中までネタバレなし感想】
題名は、えらく有名なので聞いたことありましたが、ちゃんと読んだ事がありませんでした。

主人公のハンスと一緒に一喜一憂したい方は、裏表紙のあらすじを読まない方が良いかと思われます。終盤までの大きな流れが書かれているので。
(私は、購入の際あらすじを読みましたが、本文を読む頃には脳内消去され、まっさらな状態でした。)

著者の自伝的小説だそうです。
著者の経歴が、ハンス・ギーベンラートとヘルマン・ハイルナーという二人の少年に振り分けられています。

幼年期、少年期、青年期を凝縮し、短期間で駆け抜けるようなお話でした。

自然や植物の描写が美しかったです。

【以下、ネタバレあり感想】





神学校受験勉強中のあの感じは、誰しも身に覚えがあるのではないでしょうか。
全能感と自信を失い不安になることの間を行ったり来たり。
思春期の少年の心をていねいに描いていました。

ハンスは、ファーストキスを親友のハイルナーに奪われました。
少年が、初めて女性と付き合う前の、同性愛的、擬似恋愛的友情が描かれていたと思います。
(ハンスもハイルナーもホモセクシャルではなく、完全に異性愛者…だと思われる)

この作品が、腐女子に人気がある理由が分りました。
いくつかのサイトでは、「ヘッセはやおいの父」とか「車輪の下は、腐女子のバイブル」とか「元祖やおいにあたる美少年ものの少女漫画に影響を与えた」とか書かれていました。
竹宮惠子先生の「風と木の詩」も萩尾望都先生の「トーマの心臓」も「車輪の下」と同じギナジウム(男子寄宿舎)ものですもんね。(wikipedia調べ)
【追記】
萩尾先生のインタビューによると、「車輪の下」は読んだけど、結末が暗かったため他のヘッセ作品は敬遠していたそうです。しかし、同じヘッセの「デミアン」を読んで、他作品も読むようになったとのこと。
どうやら、ポルノ的な美少年ものは受け付けなかったようです。
少年愛が好きで、ギナジウムものの映画を見て、それまた結末が暗くて(主人公が、裏切られたと誤解して自殺)、それで「トーマの心臓」を描いたそうです。
【追記終わり】
「車輪の下」は、BLのルーツかもしれないのに、普通に図書室に置いてあったり、教科書に載ってたりするみたいです。

ネット上での感想や考察を見た所、「素直な自然児が、大人たちの名誉欲や、子供を型に嵌めようとする規則ずくめな教育や、勉強の押し付け、周囲の期待などにより、押しつぶされ自滅してしまうこと、それこそが『車輪の下』というタイトルにこめられたテーマである」って感じでした。

話のはじめの方から、ハンスが頭痛を訴えていることや、著者の実体験から言って、その解釈で正しいのかもしれません。

神学校入学前から、勉強尽くめでした。
大人達は良かれと思って指導していました。
ハンスも功名心とやる気に燃えていました。

私は、いくら神学校の規律が厳しいとは言え、ハンスがハイルナーと出会わなければ、道を踏み外すことはなかったのではないかと思います。
とは言っても、ハイルナーが悪魔や厄病神であるとも思いません。
ハイルナーは、著者の「詩人になりたい」という心、「夢」や「自由」と言ったものを象徴した人物だと思います。
なので、ハイルナーの存在は、ハンスの人生に必要だったのではないでしょうか。

ハンスが学校を辞めた後、自殺をはっきり思い浮かべるまでに落ち込みました。
そして第二の幼年期を迎えた後、心が低い所、一本調子の憂鬱で安定したのです。

そこから、エンマへの恋で一気に有頂天です。
幼年期も少年期も過去に置き去りにし、いっぺんに青年になってしまったような心持ちです。

ハンスがエンマへの初恋を膨らませていくシーンが初々しくエロかったです。
エンマが、経験豊富でいたずらっこで、少年を弄ぶそうな、小悪魔的な女の子として描かれていました。
この辺のエピソードは、どこかのサイトで「萌え」の文脈で語られてました。
腐女子だけでなく、大きなお兄さんをもカバーする作品なのですね。

ハンスは恋をしているのに泣いてばかりです。苦い。

ハンスは、やがて働く喜びを覚え、仕事に誇りを持つようになりました。

さしずめ2ちゃんねるあたりで、「ガテン系はDQNばっか」「DQNだから、あんな職にしか就けない」とか言って色んな職業を差別している学歴厨や頭でっかちの学生が、思わぬ落とし穴にはまってしまい、結局、その馬鹿にしていた職に、馬鹿にしていたDQN達よりも後に就き、そこではじめて実のある生活、社会と密接して生きる、ということに価値を見出した、って感じでしょうか。

ハンスは、酒に酔って川に落ちて死んでしまいました。
「川を流れるハンス」みたいなことが急に書いてあり、最初、心理描写なのかと思ってましたが、まさか、リアルに川を流れていたとは。

自殺なのか事故なのかぼかしてあります。
ハンスの最後の心境から考えて、どちらもありえます。
酔っていて、ふらつき、あやまって川に落ちてしまったということは十分考えられます。
また、ハンスが恥や自責に囚われるのは、そう珍しいことではないとは言え、酒が入っていたので、判断能力が欠けていて、思わず入水自殺してしまったとも考えられます。

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2008/05/21(水) 21:02:01|
  2. 読書感想文(小説)

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