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同人漫画サークル

カート・ヴォネガット・ジュニア「タイタンの妖女」 訳・浅倉久志

タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF 262)タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF 262)
(2000)
カート・ヴォネガット・ジュニア

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【あらすじ】
自家用宇宙船に乗ったウインストン・ナイルス・ラムファードは、火星付近で、時間等曲率漏斗(クロノ・シンクラスティック・インファンディブラム)の中に飛び込んでしまった。
そのことにより、ラムファードと愛犬カザックは、波動現象となり、太陽からペテルギウス星までの歪んだらせんの内部にあまねく存在することとなった。
らせんと交叉した惑星のある地点で、ラムファードとカザックは定期的に実体化現象を起す。
全米一の富豪、マラカイ・コンスタントは、実体化現象を目撃することになった。

【途中までネタバレなし感想】
帯に「永遠のスタンダード 1000人が選んだハヤカワ文庫 読者アンケート・フェア 第1位」と書いてありました。
一位なだけあって、大変面白かったです。
スケールの大きい、ドSFでした。

1950年代に出版された本です。(原題は、「The Sirens of Titan」)
wikipediaによると、舞台は22世紀だそうです。
それなのに、カセットテープ、カセットレコーダーが現役なのが面白かったです。
現代は、昔のSF小説の想像した未来を越えている部分があります。

裏表紙に書いてあるあらすじは、物語の結構先の部分が書いてありますから、読まない方がより楽しめるかと思います。

物語の序盤で、主人公マラカイ・コンスタントとラムファードの妻の、この先の運命がちょっとだけ明かされます。
にも関わらず、予想できない展開をします。
これがこうなって、あの予言と一致するのかーって感じです。

作中、章が変わるたびに、どこかから引用してきたように文章が書いてあります。
それらは、作中人物の台詞だったり、架空の書物に書かれたものだったりします。

運命・幸せ・宗教・友情・家族・人類の生きてきた意味といった色々なものを考えさせられるお話でした。
【以下、ネタバレあり感想】
話が火星に飛んで、アンクが登場した時、物語の主人公が変わったのかと思いました。
ですが、アンクがマラカイ・コンスタントであるとすぐに理解できました。

アンクが火星で読んだ手紙が、アンクによって書かれていたとは予想できませんでした。

アンクとビーは、記憶を消されてから愛し合い子供をもうけたのかと思ってましたが、全然違いました。

火星人に集団自殺とも言える地球への戦争をさせ、結果、人類を結束させようとし、新しい宗教「徹底的に無関心な神の教会」を作るという展開がすごいです。

水星でのハーモニウムとボアズの交流がほほえましかったです。
ボアズはハーモニウム達が意志を持ち、自分のことを愛していると信じています。
真実がどうであるかに関わらず、ボアズは幸せ者なのだと思いました。

水星の地底からの脱出方法が、宇宙船を逆さにすることだったとは…。
簡単なことなのに全然思いつきませんでした。

コンスタントも、ラムファード夫人も、地球に居続けるよりは、幸せになれたのではないでしょうか。
タイタンで老夫婦となった二人はかなり良い感じでした。

アンク=コンスタントは、てっきりタイタンで人生を終えると思っていたのですが、最期は、地球に帰ってきたのですね。
ラムファードもそのことは知らなかったのでしょう。彼は、宇宙のかなたに飛ばされたので。
最愛の妻の死後、どこかへ向かうバスを待つ間に、親友と再会する夢を見ながら凍死、というのは残酷ではありますが、どこかロマンチックで、彼にとってベストな死に方だったのではないでしょうか。

「人類の歴史は全て、タイタンに不時着したトラルファマドール星人に、交換部品を届けるためだった」というのが、ラムファードの悟った真実なようです。
部品がちっぽけなのが、よりいっそう、人類って一体…感をかもし出しています。
ラムファード夫人は、その意見への反論を本に書きつつありました。

ラムファードの言うような運命があった事は否定しないが、トラルファマドール星人にとって無関係なほどの、極めて個性的な方法で彼らに奉仕した。というようなものだそうです。

「利用される」という言葉は、普通悪い意味で使われますが、本作では、むしろ好意的に描かれていました。
ラムファード夫人が最後にたどり着いた境地です。

運命の中で、何者かに利用されながら、個性的に生きること…それが、人類ということでしょうか。

トラルファマドール星からやってきた使者サロは、相当性格の良い奴だと思いました。
彼は、自分が機械であると知っており、それを隠してもいませんでしたが、「機械」という言葉を侮辱的な意味で使われたのが大ショックなようでした。
ラムファードとの友情が得られなかったために、絶望して死にたいと思い、実際自分で自分を分解して自殺してしまいました。
サロが、コンスタントの手によって再度組み立てられ、生き返ってよかったです。

サロが母星から、たずさえて来たメッセージには、たった一つの点しか記されていませんでした。(トラルファマドール星の言語に翻訳すると「よろしく」)
それは、本作で度々使われてきた「パンクチュアル」という言葉に掛けてあるのではないでしょうか。(「時間厳守」「短時点的」の意味らしい。語源は、ラテン語のPnctusで「点」という意味。)

タイタンには、美しい妖女達が沢山いるんだと思って読んでいたので、ラムファードとサロしかいないと知った時、「はぁ!?」と思いました。
タイタンのサイレン(妖女)の正体は、サロが地球人をかたどって作った彫刻だったのです。

ラムファードとカザックが離れ離れになったのは、寂しいです。
  1. 2008/04/05(土) 21:17:40|
  2. 読書感想文(小説)

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