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ディーノ・ブッツァーティ「神を見た犬」訳・関口英子

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫 Aフ 2-1)神を見た犬 (光文社古典新訳文庫 Aフ 2-1)
(2007/04/12)
ブッツァーティ

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イタリアの作家ブッツァーティによる短編集。
全22作。
帯には「胸を打つ幻想。美しい恐怖。」と書かれています。

ジャンルとしては「幻想小説」らしいです。

日常、戦争、宗教、軍事、病気など幅広いテーマを扱っています。
SFっぽい話もあります。

作者は、小説を書きつつ絵も描いており、漫画も発表しています。
その漫画は、イタリア新聞紙の漫画賞を取ったそうです。

【以下、ネタバレあり感想】
【天地創造】
神や天使達が、宇宙や惑星、生物など世界を創っていく様子が、「技術師」「若手グループで立案したちょっとしたプロジェクト」「細かい技術を誇るデザイナー」「設計図」などと、デザイン会社や建設会社での出来事のように描かれているのがユニークでした。

【コロンブレ】
海は自分の命を狙うコロンブレがいて危険なのに、安全な場所での仕事をやめてまで海に向かってしまう心理というのは、怖いもの見たさなのか、巻末解説にあるような「破滅への欲求」なのか、なんらかの使命感なのか。
結局コロンブレは、主人公を丸呑みにするために追い回していたのではないことが判明します。

【アインシュタインとの約束】
悪魔(死の天使)は、アインシュタインの魂を貰いにくるが、アインシュタインはやりかけの研究があると言い、死期を引き延ばしてもらう。
しかし実は、魂を貰うというのはハッタリで、アインシュタインを死の恐怖で追い立てる事で、早く研究を完成させようとしていた、という話。
死に物狂い、火事場の馬鹿力的なものですね。
アインシュタインが宇宙の法則を発見したのは、大悪魔達の望みだったそうです。
なにやら不吉。

【7階】
なんらかの理由をつけられて、どんどん下の階に移されていくのが怖いです。
自分は病気の症状が軽いはずなんだ、それは分っていると思いつつ、重病扱いをされていき焦る、って話なのかと思ってましたが、ラスト本当に死んだっぽいです。
ということは、病院関係者が主人公を下の階に移していった口実はウソで、主人公は本当に重病だったということなんですかね。
あの病院には、患者を傷つけずに階を移動させるためのマニュアルが存在するのかもしれません。

【神を見た犬】
村人達が犬の中に神を見て、その犬の前では清く正しく生きて見せるが内心落ち着かない、やっと犬が死んだけど、元の自堕落生活に戻ったら、犬に脅えて生活を変えていたことが村外にバレて恥だと思うから変えられない。そんな窮屈さを抱えつつ犬を埋葬しにいったら、すでに修道士の犬は修道士の墓の上で死んでました。って話、なようです。
全く実体の無いものに影響されて生活を変えてしまった人々。
宗教や神といったものをちょっと茶化すような感じでした。

【護送大隊襲撃】
コロンブレ同様、自分から破滅へ向かっていくような話でした。

【呪われた背広】
いじわるなSF短編といった感じです。
背広のポケットからお金が出てくるけど、同じ金額分の金が世の中から失われ、かつ人が不幸になるというストーリーです。
「誰かが幸せになった分、誰かが不幸せになる」ということの喩えなのかもしれません。

【一九八〇年の教訓】
世界の権力者達が、上位から順に定期的に死んでいき、皆が権力を放棄したため、世界から戦争がなくなり正義が確立された、という話。
キラの仕業か!?
デスノートの別の使い方、って感じでした。

【小さな暴君】
二度の大戦を経験した退役軍人が、溺愛している孫のせいで凄く恐怖を感じます。
戦争より怖い、子供のわがまま。

【天国からの脱落】
天国で暮らす聖人が、永遠に幸福な天国を去り、若者の仲間になる話。
「天国の最大の欠点は、さらなる希望が持てないことだ。」というのは、目から鱗です。
憧れ、焦り、希望、不安といった若者の青春期の葛藤を味わいたくて、下界に下りてしまう聖人。
そこには、不幸になったり苦しんだりする未来が待っているかもしれない。それを承知での行動でした。

【わずらわしい男】
長々と語る男のセリフに句読点が無いため、早口で切れ目なく喋っているというのが良く伝わってきました。

【病院というところ】
筒井康隆の小説にありそうなブラックユーモア系でした。
ブラック過ぎます。
いきなり「血だらけの彼女を抱きかかえ」から始まるのがすごいです。

【驕らぬ心】
若き司祭=法王というのは、該当箇所を読む前に気付きました。
「司祭様と呼ばれて喜んでしまう」というたったそれだけのことを驕りだ、高慢だ、罪だ、と感じ、告解しにくるような性格だからこそ、法王になれたのでしょう。

【マジシャン】
スキアッシ教授が、これは作者の自虐か!?というくらい、小説家、音楽家、画家などの芸術家をけなします。
主人公の作家は傷つきますが、反論できないし、その根拠もありません。
確かにスキアッシ教授のセリフは辛辣ですが正論です。
主人公は言葉にできない何かを感じた後言いました。
「私達が書き上げる小説や、画家が描く絵、音楽家が作る曲といった、きみのいう理解しがたく無益な、狂気の産物こそが、人類の到達点をしるすことに変わりなく、まぎれもない旗印なんだ。」
かっこいいー!
スキアッシ教授は、落ち込んでいた主人公を元気付けようとして、わざと暴言を吐いたらしいです。
確かに、物語の出だしに「その晩、私は疲れていたし、気が滅入っていた。」と書いてありました。
最後では、主人公は別人になったような心持ちになっています。

【戦艦《死》】
実体のつかめない「作戦9000号」。
歴史にあいた空白の謎。それを解明する手がかりが少しずつ集まっていく所がワクワクでした。
途中に出てくる演説が熱いです。
最後に戦艦が戦っていた相手は実在するのでしょうか。なんだあれ。亡霊?幻覚?
片眼鏡、レンズころころ、海ぽちゃん。

【この世の終わり】
駆け込み懺悔人に囲まれて自分の魂の救済することが全く出来ない司祭。
世界の終わりを扱いつつも、ちょっと愉快でした。
人間の現金さが出てました。
司祭は、「どいつもこいつも悪魔につれていかれるがいい!」って思っちゃってます。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/12/27(木) 22:56:57|
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