野良箱

同人漫画サークル

中村文則「銃」

銃 (新潮文庫)銃 (新潮文庫)
(2006/05)
中村 文則

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【あらすじ】
死体の側に銃が落ちており、青年はそれを拾い持ち帰った。
青年は、銃に愛情を持つ。

【以下、ネタバレあり感想】
誰かを殺したいと思ったことも、自殺したいと強く思ったこともなく、また、友達がおリ、女も数人キープしている所謂リア充(リアルが充実している)の青年が主人公です。
彼は、自分のことを最も拳銃から遠い人間だと思っています。
そんな青年が銃を手にいれました。

合コンでお持ち帰りしたりされたり、簡単に異性と寝るような人間。
確かに、大学時代同じゼミにそういう人がいましたし、TVや雑誌にもそのような若者が登場しますが、自分自身の生活と程遠いせいか共感はできません。
でも、全ての物語のキャラクターに感情移入できる必要はないので、別にこういうキャラが主人公でも構わないと思います。

解説で、「選択」「可能性」ということに触れられています。
この物語がもしノベルゲームだったら、選択肢がいくつも出てくるでしょう。

何故か歩きたいような気持ちになる⇔まっすぐ家に帰る
銃を拾う⇔拾わない
猫を撃つ⇔撃たない
隣りの部屋の母親を撃つ⇔撃たない
電車内で男を撃つ⇔撃たない 等々…。

その他いくつもの選択肢がありますが、最初の選択肢を選らんだ時点で、破滅へのフラグが立ってしまったのかもしれません。

「私は拳銃に使われているのであって、私は拳銃を作動させるためのシステムの一部に過ぎなかった。」
「血の繋がりというものを、迷信か何かのように思っていたが、それがDNAとなると真実味が増し、規定の事実のように私に迫った。」

このふたつの文から連想されるのが、「生き物はDNAの乗り物だ」という言葉です。

青年が、女を撃たず銃を放りだし、銃を捨てることを決めた後の

「遺伝がどんなものかよくわからないが、それは使う人間によって、いくらでも姿を変えられるものであるような気がした。」
「生きることに意味などないことは、私にもわかっていた。が、何というか、自分の存在があるうちは、それを噛み締めたくなったということだった。私は自分を取り巻く生活の枠の中で、それは酷く小さいものだったが、その中で死ぬまで生きることを決めた。」

という文を読んで、この物語には「DNAで決められた運命を生きたり、何物かに操られるのではなく、自分の意志で何かを選択し、着実に生きていくことの大切さ」を描き、とても前向きなメッセージがこめられているんだなぁ。映画「ガタカ」ばりだなぁ。と思ったのですが、どん底に突き落とされるようなラストでした。

女を撃たないという選択をした時点ですごくホッとしたのになぁ。
天国から地獄コースです。

物語の前半を読んでいる時点で、この青年、この銃使って自殺しそう…。理由は分らないけど…と感じていましたが、このような終わり方をするとは。
青年が自殺するシーンは描かれていません。
もしかしたらあの後、乗客か鉄道警察員にでも取り押さえられて、自殺できず逮捕されたのかもしれません。

青年が、隣りの児童虐待女に執着していたのは、どこかで自分を置いて逃げていった実の母親の姿を重ねていたからなのでしょうね。
いくら他県で女を撃っても、青年の隣りの部屋の住人が銃殺されたとなれば、真っ先に青年が疑われるでしょう。
すでに、猫殺害の件、銃を持ち去った件で警察に嫌疑をかけられているのですから。
でも青年は、銃の魅力にとりつかれて、人を撃つことへの強迫観念で正常な判断ができなくなっていたのでしょうね。

【追記】本編を忘れましたが、この感想を読み返したら、「青年は、母親から受け継いだDNAを自分で終わらせたかったのか?」という疑惑が沸いてきました。あるいは、母親と同じく弱い物、猫に八つ当たりしてしまった自分を罰する?【追記終わり】←真偽怪しすぎるので、本編を外れた、おまけ扱いでお願いします。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/11/19(月) 21:03:34|
  2. 読書感想文(小説)

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