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同人漫画サークル

グレッグ・イーガン・著 山岸真・訳「順列都市」感想

順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
(1999/10)
グレッグ イーガン

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順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
(1999/10)
グレッグ イーガン

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【あらすじ】
人間の記憶や性格をスキャンし、<コピー>として仮想空間の中で生かし続ける技術が確立している21世紀半ば、ASEANは、台風の進路を変える≪バタフライ計画≫の為、スーパーコンピュータを買い占めだした。
その煽りを受けて、<コピー>を走らせる為の計算能力は、低下、このままでは、供給がストップされるかもしれない、<コピー>自体が非合法とされ排除される時代がくるかもしれない、隕石でハードディスクが破壊されるかもしれない、そんな不安を解消すべく、宇宙が終わっても電源が切れても永遠に生きられる方法を提案する男が現れる。

【途中まで、ネタバレなし感想】
出だしから、緊張感溢れる描写です。
仮想空間に人間のアバターや意識が移動する作品は結構ありますけど、ここまで現実感を持って、実際自分が<コピー>になった気持ちをシミュレートしているものはお目にかかったことがありませんでした。

電脳空間に入るなんて、もっと気楽に考えていましたけど、「こんな形では生きられない」と結論づけてしまうほど、強い抵抗感を伴うものなのですね。
読んでるだけで、絶望感と「終わらせていいものかすら分からない悪夢」のような息苦しさが伝わってきます。

ゆかいな漫画アイコンで書かれたパラシュートのアイコン。これは、閉所恐怖や、ここが現実ではなく、もう自分が人間ではないし、生身に戻ることもない、ということ等にパニクった<コピー>の為に存在する<脱出オプション>であり、自殺できない代わりに自分というプログラムを終了させるという救済措置なのです。

しかも、アイコンを押したら即終了ではなくて、わざわざパラシュート一式の入った箱が出てきて、自ら装着、発射レバーを引かないといけないというのが、また、なんでそんな···という悪趣味越えてギャグのような面白仕様となっております。

最初の章では、ポールという<コピー>が脱出試みるのですが、折れてしまうのですよ、レバー。これは、偶然ではなく、外側からのソフトウェア違法改竄によるものです。
彼は、消えることもできず、外のポールに従った実験をやらされます。

仮想空間の物理的、物質的な仕組み。現実にどこまで似せるか、あるいは、排泄など生理現象の機能は切るか選べるなど、異様に細かい描写が続きます。全部把握できなくても重量感があって楽しいですし、作者さんは、最新の論文などを本気で読み漁ってる方のようですから、80年~90年代までに判明していた研究結果、仮説を惜しみなくぶち込んであって、骨太です。

<コピー>は、姿形を生身の時と同じにする必要はありません。全くの別人にもなれるのです。
しかし、メインキャラ達は、外の世界にいたころと同じような姿、生活様式を維持する場合が多いようです。
わざと古傷を消さないとか。
先ほどから述べているポールは、<コピー>になってまで、菜食を続けています。
しかし、食材は、何らかの技術で合成されたイミテーションなのですから、意義を見失いかけているわけです。

街には、モブキャラが歩いています。壁すり抜けバグを起こすのが笑えました。
未来技術でもこの現象は直せてないの…。

複数視点制の三人称視点小説です。5~6年ずれていたりするので、時系列は前後します。
ポールの他、マリア、トマス、ピー、4人のパートがあります。並びはランダムでしょうか。

マリアは、オートヴァースという、3Dセルオートマトンにハマっています。
これは、小さな宇宙の模型であり、現実世界とは異なる単純な物理法則をシミュレートできるコンピュータ・モデルです。
この人工生命研究を続けている人は少数であり、時間と金の無駄とも分かっていたが、やめることはできないのです。

マクスウェルの悪魔(デーモン)、ラクダの目、などのソフトウェア名が出てきます。原文の読み方も知りたかったですね。アルファベットの綴りも。

「エデンの園配置」というのは、この作品のオリジナル用語ではなく、セル・オートマトンにおいて、「他のいかなる配置からも到達できない配置」を指すんだそうです。
その概念の後にできた「ライフゲーム」なる白黒二次元生命進化淘汰シミュレーションでも、いくつかエデンの園配置というのがあり、近年になっても、最小のものが発見されてりしているようです。
しかし、コンピュータ黎明期からあったとは驚きです、セル・オートマトン。

そのようなものをまったく存じませんでしたから、「シムアース」というゲームのイメージで読んでました。
二酸化炭素吸収率や繁殖、突然変異、温室効果、地軸、大陸移動のパラメータなど弄れますし、どこかで発生した生き物を神の手で別の場所に移動させることができる点、哺乳類や人類じゃないものが文明を持ってしまう所などが良く似ています。ただし、「シムアース」がガイア理論に従い、現在の人類に至るまでの生命進化とその終焉までの過程を模倣するのに対し、オートヴァースは、より自由で予測不可能な変化をするみたいです。
「シムアース」は、セル・オートマトンとは違うのかもしれませんが、すくなくとも、人工生命シミュレーターの一種ではあるようです。

エデンの園とかマリアとか光あれとかやたら聖書ネタが多いとお見受けしてまして、作者がクリスチャンなのか、アンチキリストなのか分からず読んでました。
SF、特に西洋の作品はキリスト教ベースが多いですね。
また、キリスト教を皮肉る、貶す、という目的の作品であっても、カウンターとして書いている限り、引っ張られ続けることになります。
ああいう作家さんというのは、生まれつき家庭も地域もキリスト教どっぷりだったのでしょうか。国教。
幼い頃からそれに違和感を感じたり、反発心、疑念を抱いてみたり。散々、文句言ってる割に、やたら染みついてて詳しいという囚われ状態なのが面白いです。
また、本人が熱心なクリスチャンである場合も、周囲から指摘されがちな批判や、自分で考えたらしい教義の欠陥を指摘し、冒涜する内容書いたりなさいますね。それでも信じてる。

「順列都市」全体を通して読んだ感じ、否定派な感じが若干強いでしょうか。
もし、実際に、神となって万物創世したとしても、それが思い通りになるとでも?という挑発。

読んでいてしんどいのは銀行員トマスの章なのですが、最も好きなテーマの一つでもあります。
なぜきついかというと、彼の見る幻覚や、自傷行為がグロいからです。ここまで来くると、終わりがあるということは、まだマシな方なのかな、と思えます。
トマスのたどり着く結末が良いし、彼が、ある過去の事象に対し、相反する感情を強く持ってる所が気に入ってます。

ピーの章は、(詳しくないけど)仏教に近いような印象があります。
輪廻転生しつつ、ケイトと一蓮托生みたいな。

<バタフライ計画>は、<コピー>とは無関係の実在国際プロジェクトということでよろしいでしょうか。
最初の印象だと、富豪の<コピー>達を口車に乗せるべく危機を煽る架空のでっちあげか、計画の為と称してコンピュータを買い占め別の目的に計算能力を割いている、だと思ってたんですが、この話の主目的には大した数のコンピュータも要らないようですし。

<コピー>となったポールが実験を繰り返される内、言い出した仮説が「塵理論」です。間隔も順番もランダムの素描、散り散りの点にされてた状態でも、それらを集めて橋を架け、私という主観的意識の上で連続させることが可能である。因果関係の出番などなく、さらには、別の代替世界(オルタナティブ・ワールド)の自分をも経て内側から統合された自己完結の一個なのだよ。 というような何かです。

<コピー>に、世界から切り離された安全な避難場所を提供すると約束する男(自称・保険勧誘員)、彼が、マリアに生命の進化可能な環境を持つオートヴァースの惑星まるごと一個、を発注した時。「オチ読めたわ!」と思いましたが、全然違いました。
それは、上巻ラストのマリアのセリフと、下巻はじめの保険勧誘員の言葉で不可能だと知ってしまいました。

惑星を作る目的…その発想はなかった。

上巻ラストの引きは、卑怯。すぐ下巻を読まざるを得ないじゃないのよ。
下巻冒頭で、上記の大半が覆されるんですが、私も騙されていたんですよ。嘘とも言い切れないし。

もう一つ、勘違い。オートヴァースの描写でペトリ皿や遺伝子がどうのとあり、それと<コピー>みたいな幽霊なんかと違ってちゃんと存在するもので、みたいな部分があったため、てっきり本当に菌類培養とか、触れる、形ある生体だと思ってたんです。読み返すと、しっかり、コンピュータ・モデル、とありました。

【以下、ネタバレあり感想】

ポール・ダラムが顧客である<コピー>達に提示する移住先こそが、マリアの作るオートヴァース惑星だと思ってたのですが、間違いでした。人間のデータをシミュレーション・バクテリア内に送り込むことはできないのですね。
(小さくても実体を持ってると思い込んで読んでました。)

冒頭から登場しているポールは、実は<コピー>ではなく、生身の自分を仮想空間にビジターとして訪問させてただけなんですね。
それなら、多くの人間がやってる事だから可能であるようです。ただ、ポールの場合は、本気で自分が<コピー>だと思い込んでいた、という所が重要で、それゆえに、塵理論なる妄想を抱くことができたんですね。

健康な人が、心理実験を受ける事で神経症になるが実例がありますけれど、彼の場合、実験性統合失調症のような状態なのでしょうか。
というわけで、通常<コピー>は、生身には戻れませんが、彼は、主観として<コピー>を体感した後、生身に返ってくることが出来たのです。
これまでの記憶を全部持っているから、自分は23人目の<コピー>でもあるオリジナルだ、と思うに至ったようで。

では、外の世界でキーキー喚いていた「オリジナル」ポールはなんだったのか。あれは、エリザベスが操る人形だったのです。
最初の空間は、元はといえば、<脱出>をする<コピー>達の心理を知りたくて用意した実験用でした。
エリザベスの行った実験はデタラメで、意味のないものでしたが、にも拘らず、自分を<コピー>だと錯覚したポールが、おかしなことを言いだしたものですから、外にいる彼女も焦ったようです。

生身であると知らされた後も、塵理論の考察は続きます。自分が単なるビジターだと知らされた後も、<コピー>が走らされ続けていたら、未来も分岐しただろうが、<コピー>は停止されている為、リアル仮想双方で、オリジナルと違う人生を歩むという事がなかったのです。
仮に、<コピー>も並行で走らされていたとして、自分を<コピー>だと思い込んだ状態で、同じ体験をした場合、<コピー>と生身のビジターに何の違いがあるのか。
今の私は、<コピー>でもあり、生身でもあった。ふたつの過去を経て合流したのだから、というような考え方です。 
(; ・`д・´)!? 
勝手に作られた上、整合性のない終わりを迎えた<コピー>をほっとくのもかわいそうだし、今の自分とパターンの継ぎ目をなくしてしまおうという優しさなのでしょうか。

ポール・ダラムは、精神疾患と診断され、ナノ手術を受け、晴れて正気となりました。
塵理論は、狂っていた時に考えていたことですのに、正常で素面の状態でも、それを証明する現実的な手段を発案しています。
あの時おれ、どうかしてたなー、なにやってんだろ時間の無駄だったわ、で棄てられる仮説じゃないんですね。

セル・オートマトンの多次元TVC宇宙は、創る瞬間には、リアルコンピュータが必要なようです。数台に分散されているようですが、そこまで大がかりには見えませんでした。
調節を終えたダラムは、割腹自殺しましたけど。なんでまたそんな苦しそうな方法を選ぶ。
その呻き声を聴いて、マリアは出産の夢を見たと言う事で、象徴的ですね。
新しい宇宙が二人の子供であるような感じがします。その直前に性行為がありましたし。

TVC宇宙は、周囲のノイズを融合させながら無限に成長し続けるということです。
<コピー>は、2分しか走らされないのに天国を信じて送り込まれる、とか残酷な!と恐れましたが、思いの外、馬鹿みたいに永い事続きましたね。
ポール・ダラムも、そして、不本意ながらスキャンを無断使用されたマリアも移住完了。
他の<コピー>達もです。
ラスト、マリアの生身の方もこちらの世界に残っていたようですし、ピーの複製前<コピー>も、TVCに向かうもう一人の自分を見送っていましたから、現実のポール・ダラムって、あれで終っちゃってるような気もします。
となると、よくある、発狂自殺した人という扱いなんでしょうか。
彼の魂がちゃんと、順列都市に送りこまれたエリュシオン人のダラムと統合されてたらいいんですけど。

TVCでマリアが目覚めさせられた時、7千年が経過、マリアが素を作った惑星ランバートでは30億年が経過していました。
単位とスケールがおかしい。
ここまで壮大なお話ってなかなか説得力を持ってかけないでしょうに、著者の力量すごいですね。

惑星ランバートは、TVC宇宙に浮かぶ、エイリアンの住む場所となります。
いつか、人類と宇宙生命体が接触する為に制作されました。
なにゆえ、わざわざそんなことを。
上巻ラストのマリアの解釈では、独立空間に閉じ込められる<コピー>達の閉所恐怖を和らげる為、できそこないでもいいから未知の浪漫モデルを提示して勧誘を上手くやる為かな、とかいう感じでしたが、ポール・ダラムは、「自分達が創造主であると確実に知っている」、という神の真似事をやってみたかったのかもしれません。

ランバート人は、昆虫型で独立しつつ並列した全体での塊でも動きます。言語も数字も持たないまま高度な物理学、天文学を確立しました。全ての情報伝達、計算は、ダンスで行います。正しいダンスは遠くまで伝達されますが、間違いだとすぐ終わってしまいます。彼らは、素朴な信仰や、神話、神という概念を持ちませんでした。
性(ジェンダー)のない生殖をします。

人類と似た進化をするだろう、というのは浅い考えだったのですね。

ランバート人は、自分達が他者によってよってつくられたものだと結論づけるまであと一歩、という所まで来ています。
エシュリオン人がコンタクトをとった場合、ランバートに神話や宗教があるなら、「神様が来た!」と思うんでしょうが。そういうわけにもいきません。

ピーは、様々な職業、人生を経験し、昆虫研究者になっているあたりで、異変が起こります。
ケイトから見て、二十九日間、ピーはシステムによって見失われていたのです。
これ、後から思えば、ランバート人による、TVC宇宙全体への干渉の影響なんですかね。
ピーはなんらかの記憶改竄がされてるはずで、そうでなかったら約1か月昆虫を写生しつづけていたことになるのです。それには、本人もドン引きです。
ピーの領域から侵入されたのか、計算能力を奪われていたか、ピーの体を乗っ取って何らかの操作をしてたのか。

ピーは、不必要な労働をよくしています。SFでは、そういうキャラクターって終盤まで生き残りやすい気がします。まだ、サンプル少ないですけど。

マリアが目覚めさせられたのは、偉大なる母として、異星人とのファーストコンタクトに立ちあわせる、というのは建前で、「あんたの領域が惑星ランバートへの抜け道に丁度いいぜ」とかいう失礼な理由だったようです。
なお、マリアにランバートを見せたかったのも本当で、マリアも、見られてよかった、そうです。

ランバート人の手によって、TVC宇宙グリッドは崩壊、順列都市は軟化、融解していきます。

人工生命に優位性を奪われました。
シミュレーションがリアルを浸食、創造主と被創造物の立場が逆転してしまったようです。
妄想が事実を生みだしてしまった手作り宇宙にふさわしい出来事ですね。
惑星ランバートなんて用意しなかったら良かったのに。
もともと<コピー>達を中心として新しい世代を持ったエリュシオン人だって、生身の人間じゃありませんから、ランバート人に対して上位の存在ってわけでもなかったように思えます。TVCだって、同じセル・オートマトンですから。

マリアの提案で、全てを積み込んだTVC宇宙を新たに発進させることにします。
ノアの方舟みたいなものでしょうか。
ポール・ダラムは、もう、自己を分裂させたくない。一つの人生と歴史しか欲しくないし、このまま終わりを迎えても良い、と弱音を吐きますが、死以外の選択肢はないなんて言わないで!というマリアの叱咤激励によって、自分を作り替え、新しい世界にも向かうようです。マリアから見て、先ほどまで知っていた男がどれだけ残っているのかは不明ですが、それでも、尋ねたい事、話したいことは、まだ、山ほどある、そんな希望の持てる終わり方でした。

ピーはケイトと著しい減速を続け、エリュシオンや標準時間とは切り離された存在となったようです。そこで、ピーは、ここを離れ、自分達の世界を発進させようと決意します。
ピーは千の人生を歩み、それらが全て、自分だったと感じています。
塵理論なるものの存在を彼が知っているかは存じませんが、ポール・ダラムが提唱した時よりも、強固なものとなっているようです。

意識を持つ物が塵の中に自己を認識するか、そうでないか、それが全てであって、神など存在しようがない。
これは、ダラムではなく、マリアのたどり着いた考えです。それは、ランバート人を見る事で固まった意見のようです。
生身の時、あんなに信じる気のなかった塵理論を自分で言ってる点が興味深いです。
ポール・ダラムが、<コピー>になったと思い込む前には思いもよらなかった理論をシミュレーションの中で発案したように、マリアもまた、オートヴァースの行く末から意見を組み立てる形になりました。
創造主本人が、神不在を断言してるのが面白いです。

ゲーム「シムアース」プレイ中に、「オレが神のはずなのに、オレを邪魔する神がいる!」と発言した方がいらっしゃいます。
一度動き出したものを思い通りにするのは無理なんですね。

崩壊するTVC宇宙から、どうやっても連れだせなかったのが、トマス・リーマンです。
(減速したピーとケイトも積み込まれていない?)
トマス・リーマンは、生身だったときに、殺人を犯しています。愛するアンナに利用された上に酷い侮辱を受け、カッとなってやってしまいました。
彼は逃げる際、レンガで傷を負い、それは腕に残っています。
誰にも犯人だと疑われないまま、今日まで逃げおおせてきました。

トマスは、<コピー>に人権が認められたとして、スキャンデータから罪が露呈してしまうのではないかと、恐れています。
腕の傷を消す事や、自分の記憶から犯罪の痕跡を抹消する事は、<コピー>にとってはたやすいことです。
元データの方も消しようがあるらしいです。また、心から反省し、償った、と「思い込む」ことも可能だったはずです。
しかし、トマスには、どれもできませんでした。
傷は、生身と<コピー>の自分を今を繋ぐ重要なアイデンティティーであり、また、甘美な罪の焼印でもあるようなのです。
トマスは、TVCの中で、何度も、アンナを殺す場面を繰り返し体験し、また、アンナに残酷な仕打ちを受けたり、腐乱していく自分の幻覚を見ます。苦痛で性的に興奮してみたり、時計が信用ならないと、数字を皮膚に刻み続けるなど、非常にエログロで心を病んだ追い詰められ方をしていきます。

いっそ、生前(?)、罪を暴かれて、きちんと刑を受け、そして赦されていたらよかったんですね。
やり逃げ、って案外地獄です。

やがて、トマスは、いつものアンナ殺害場面で、はじめて、救急車を呼ぶのです。アンナの息があるうちに。5回壁に叩きつけることなどせずに。
恐らく、これが、彼にとっての「正解」なのでしょう。
彼は、もうループや分岐をしない、一つの未来に向かっているのではないしょうか。
凝固した彼の領域は、TVC宇宙のロジックに優先され、分離されたから、新世界には連れていけない。そういう事のようです。

崩壊していく宇宙を目撃しながら、裸の銀行員を担ぐ、というのは、大変印象的でユーモラスかつ感動する場面ですね。
ヘ(゚д゚)ノ ナニコレ? 感がとても良いです。
トマスは、ゲームでいう、特定のマップ外に持ってけないアイテムや、造られていないフィールドの外へは出られないキャラクターみたいな状態になってしまいましたね。でも、幸せそうに思えます。
若い姿をしている、というのは、生身の時にアンナを殺した年齢なのでしょう。

テーマ:SF小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/08/22(水) 20:13:56|
  2. 読書感想文(小説)

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