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三浦しをん「舟を編む」感想

舟を編む舟を編む
(2011/09/17)
三浦 しをん

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【あらすじ】
辞書作りに人生を掛けてきた荒木は、定年退職する松本先輩の為にも、後継者となる社員を探す事にする。
チャラい男・西岡が「辞書向けの人材」として挙げたのは、同社他部署の馬締(まじめ)だった。
彼らは、言葉の海を渡る舟たる辞書「大渡海」を編み始める。

【途中まで、ネタバレなし感想】
本屋大賞1位で映画化も決まっているらしい作品です。
帯やカバー下に、漫画家、雲田はるこ先生による装画が入ってますので、キャラの公式ビジュアルは全部把握できます。

ストーリー的には、辞書作り職人達の生き様を描いた熱血人間ドラマです。
そこに、淡い恋愛要素や夫婦愛、友情、師弟関係もちょっと入っている感じで、「絵があるからライトノベル」というよりは、女性漫画家が青年誌に描く実写化しやすそうな一般小説、という印象です。

目次としてはっきり章分けされているわけではありませんが、複数視点で進行しますから、主人公交代制のオムニバス形式に近いものとなっています。
と言っても、一つの長編を時系列順に進めていますので、難しくありません。

馬締は、変な所にこだわる、キモイと言われる、本ばかり読んでいるが言語化能力が低く他人に考えを伝えるのが下手、髪がぼさぼさしている、リスみたいにせかせか動く、周囲に変わり者扱いされている、など、発達障害の大人っぽいキャラですが、それが辞書作りにとても向いているんです。人間としても、それこそが魅力だと思いますよ。
彼には、現象・言葉の分類、関連付け、整理に美を見出す性質があります。

馬締は、対人スキルが低いのですが、その辺、西岡が大得意なのです。
情報収集や他者のコントロールなど、営業能力に秀でています。
この部署に最初から馬締みたいな人しかいなかったら成り立たなかったでしょう。
各人の長所短所を補い合って一つの物事に取り組んでいくのです。

辞書の手触りにはぬめり感が必要、そんなの考えたことなかったです。
厚みを押さえつつめくりやすい、文字が映える、目に優しい色合い…。印刷や紙も重要事項なんですね。

「恋愛」「愛」の項目で延べられるのは、本当に「異性を慕う」「男女間の」じゃないと駄目?という疑問は、別に作者が腐女子だから出てきたわけでなく、現実にも気になった人いると思いますよ。それ、限定していいの?と。

見出し抜けミスが発覚し入れ直した言葉、そしてあとがきに入れられた名前。象徴的ですね。

度重なる校正、相次ぐトラブル、バイト総動員、途中で別の辞書改訂や他ジャンル百科の作成業務が入る、など、きっと出版業界あるあるなのでしょう。

さくっと短時間で読めました。
読了したら、改めて本書装丁カバーを見直すことをおすすめします。

以下、ファンアート(らくがき)
まじめ 

馬締の後ろに垂れ下がっている紐は、寝ながらにして電気の消点灯ができるようにしてあるもので、作中では「無精紐」と称されています。

【以下、ネタバレあり】

リア充西岡の暗い内面、劣等感コンプレックスを引き出したのは、非コミュ馬締の存在でした。
(俺には、馬締ほど、辞書作りの才能もないし、情熱もない。)
しかし、そんな西岡を救う事ができるのもまた、馬締しかいないのです。
馬締は、冗談を言う、お世辞を言う、上手に嘘をつく、ということができません。ですから、彼のまっすぐな西岡への感謝や称賛は、本心からのものなんですね。ふつう、そんなこと照れたり、プライドが邪魔して人に言えないよ、という言葉でも、躊躇なく伝えてしまうというあたりが、また、自閉系の人っぽいのですが、何ら問題ないです。
西岡が、例え他の誰かに同じ言葉をもらったとしても、どこか晴れない腐った気持ちのままだったのでしょうから、馬締が素直すぎる人で正解だったんです。

西岡は、大渡海に血潮を通わせるために必要不可欠の存在であった、というのは、終盤の見出し抜けと名前掲載の件で改めて描かれてますね。

松本先生は、完成を待たずして死んじゃってますけど、それでも言葉と人のつながりは続いてく、ということでよろしいでしょうか。

本書の帯を外した時のデザインが、作中の大渡海の装丁とそっくりなんでしょうね。

テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/07/15(日) 17:39:36|
  2. 読書感想文(小説)

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