野良箱

同人漫画サークル

カレル・チャペック作 千野栄一訳「ロボット(R.U.R)」

ロボット (岩波文庫)ロボット (岩波文庫)
(2003/03/14)
カレル・チャペック

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【あらすじ】
R.U.R社(エル・ウー・エル=ロッスムのユニバーサル・ロボット)会長の娘、ヘレナ・グローリーは、人権連盟の者として、ロボットの保護、解放を訴える為に生産工場を訪ねた。
この会社の従業員は、役員を除いて全員ロボットである。

【途中まで、ネタバレなし】
巻末解説によれば、著者がこの戯曲のプロットを思いつき、「人工労働者」の名称をどうしたらよいか、画家の兄に訊いた所「ロボット」という答えが返ってきたそうです。
新造語「ロボット」の誕生です。
出来立てのこの概念で書かれたはじめての物語でしょうに、それ以降現在に至るまでの、ロボット、人造人間、メカを扱った作品の鉄板、ベタ、雛型、テンプレ―トと言えるような命題は、非常に高いレベルで網羅されてます。

ロボットには、心があるのか?もし彼らに自我が目覚めた場合、どんな行動をとるのか。機械に人権はあるか。人間の労働をロボットに押しつけた場合、双方にどんな変化が生じるか。人間が人間を造る事は、神になり替わろうとする大それた行為であり、神への反逆ではないのか?ロボットの知力が人間を超えたらどうなるか。愛とはなにか。

「ロボット」の語源には、賦役、労働、というニュアンスがあるようで、チャペックが、「働くことはできるが考える事のできない者」の呼び名として設定したというのも頷けます。

冒頭では、機織りや計算は人間らしくない無駄なこと、喜んだり散歩をしたり楽器演奏を楽しむのが人間らしい大切なこと、という風に述べられています。
ですから、その不必要な労働を、心がない機械に任せてしまおうというのです。

しかし、いざ、労働をしなくなった人類の身には、とある変化が起きてしまいます。これは、以下のネタバレゾーンで。

生活様式の転換は、心理面にも影響を及ぼしました。建築士アルクビストは、常に不安を抱え、それを足場に上がっては、ひたすらレンガを積むことで紛らわすようになったのです。
神様、疲れを下さってありがとうございます、人間に心労と労働をお戻しください、と祈りながら。
その一連の作業を非生産的とされた彼は言います「非生産性こそ、ヘレナ夫人、人類に残された最後の可能性になりつつあるのです。」

嵐の時、病気の時、誘惑をふせぐ時、大水の時のお祈りはあるが、進化をふせぐ時の物はない。というやり取りが興味深かったです。
人間は、ある種の究極進化を遂げ、食べ物に手を伸ばすことも起き上がる必要もなくなりました、ロボットがまっすぐ口に押し込んでくれるからです。
そして、全世界はいまいましい楽園となりました。

ロボットには男性型と女性型があります。女性型ロボには、スラという男性名がつけられていたりします。しかし、ロボに性はありません(?)。
では、なぜわざわざ女の形に作ったのか、その答えはこうです。女中、売り子、タイピストなど、一般的に女性がやる仕事とされているものに、人間が見慣れていて需要があるから。

ヘレナは、せっかく女性型に作られたロボット、特に自分と同じ名前を持つヘレナが、自分の美しさも、恋も、子を抱くことも知らない、ということが哀れに思えて、ガル博士に改良をお願いします。
このことが、後々、思わぬ影響を招くのですが、役員達がロボ改良の主犯を探す場面、ガル博士がヘレナをかばっているのか、「私が独断でロボットの生理的関係素を弄ったのだ」と言い張ります。
序盤から「役員全員がヘレナを愛してる(?)」という唐突な前提があるのですが、それを抜きにしても、ガルには、「進化を追及したい、持てる技術を発揮したい、この偉業を成したのは私だ」というマッドサイエンティストめいた悪魔的発想があったのかもしれません。

表紙に書かれたロボットの記号的イラストを見ると、いかにも機械のようですが、作中では、人間とほぼ同じ体組織を持つ生身の者として描写されています。

これは、戯曲ですので、初演時の役者の写真が載せられています。ロボットキャラクター達は、服装や無表情さ、立ち居振る舞いはロボット然としていますが、コードが露出しいているとか、金属的外装に覆われているとか、そういう機械らしさは全くありません。
ですから、ヘレナは最初、ロボ女性を人間と見間違えたし、その後登場する役員の男達をロボットと勘違いしたのです。

バイオロイド、ホムンクルス、レプリカントと呼ばれるものに近い存在ですので、今日思い浮かべるロボとは大分様相が違いますね。
彼らには、心がないとされていますが、時々動作不良を起こします。
それは、けいれんしたり、狂ったような行動をしたり、歯をがちがち言わせたりするというものです。
ヘレナはすかさず「それは魂だわ!」と指摘しますが、役員は、器官の故障、製造上の欠陥を持つ不良品として粉砕機に放り込みます。
これらの描写を見るにつき、自意識というのは、不安や恐怖とほぼ同時に生まれているのかもしれない、と推測されました。

ロボットには、苦痛を感じる神経だけを与えてあります。痛みがないと、自分で作業機械に巻き込まれて怪我をしたり死んだりしまったりするからです。もちろんその機能によって、ヘレナの願うような「幸福」がロボに訪れることはありません。

役員の中で、最もロボットの製造過程に疎く、また一人だけ得意料理がないなど、能力が低いように描写されてたのが、上述の建築士アルクビストです。
自ら無用な労働を求めた彼は、「壁職人」となる度に、わざわざ服を着替えていました。ヘレナは、彼の作業着姿をかわいいと言います。物語の鍵は、このアルクビストが握っています。

「ロボット」という言葉の歴史が始まってから一発目にコレって、後の作家は何を書けばいいんだ、というくらいやりつくしてます。ただし、当時はネット、電脳、ナノマシンといったサイバーな発想はあまりなかったらしいのが救いですね。IA、人工知能、は言葉こそ出ないですけど、ロボが自律行動取っている以上、盛り込んであるのでしょう。あまりに生体回路というか、多分、脳と神経そのものですからコンピュータ感ないですけど。

【以下、ネタバレあり感想】







ロボットが、創造主である人間に反逆するというモチーフは非常にメジャーですけど、チャペックの時点でそれを用いてたのですね。(もっと前にもありそう。ロボという名称ではないだけで。)

新型ロボットが率先して、人類殲滅の宣戦布告をしたのです。
単なる工業機械、意思なき労働者だったらこうはなっていません。
ガルが加えた生態関係素、刺激に対する生体反応の改良が引き金になっているようですね。
ヘレンは、ロボットにも幸せになってほしいから、ガルに改良を依頼したわけですが、人間に近づくということは、こういった悲劇をも引き起こすんですね。
自意識があればこそ、われわれロボットは人間より頭脳もパワーも優れている、こちらこそ支配者である、人間は寄生虫だ、と考えてしまうのでしょう。
実際、「下等生物」のもとで奴隷のように働かされているなんてバカらしいと思いますよ。
家族の為に稼ぐことや、尊敬する人に仕えるのとは全く違います。

ロボットが攻めてきた時、ブルマンが多額の金で解決しようとして最初に犠牲者になったのは面白いですね。
こんな時、貨幣などなんの役にも立たないのです。

R.U.Rサイドの切り札は、「ロッスムの手稿」です。ここにはロボット出生の秘密が書かれており、これなくしては、ロボットは一体も数を増やすことができない上に、20年で寿命を迎えてしまうのです。役員達は、手稿を交渉材料にしようとしていましたが、すでにヘレンが燃やしていました。

ロボットに労働を任せて以降、人類は子供を産めなくなりました。
神が怒ったのか、楽園になった今人類が増える必要はなくなったからか、あるいは現状の女性に子供を産んで欲しいと思う男などいないからか。諸説ありますが、そうなってしまいました。
ヘレナは、「実のならない花」となった人間と自分の体に絶望し、ロボットの生産を中止しなければならないと考えて、重要そうなロッスムの設計図を無き物にしたんですね。
彼女の価値観では全編通して、「女性に生まれたからには、愛する男性と結ばれ、わが子を腕に抱くのが幸せ」で固定されており、それをロボット女性にまで求めているのですから、全人類女性の不妊というのは、本当にショックなことだったのだと理解できます。

ロボットの反乱、そして切り札の喪失により、ヘレナも役員も、建築士アルクビストを除いて殺されてしまいます。

なぜ、アルクビストだけは生かされたか。それは、手を動かして仕事しているから、人間ではなくロボットであり仲間だ、と判断されたからです。無意味なレンガ積みで命拾い、とても面白いですね。
ロボットのリーダーであるラディウスは、アルクビストにロボットの為の家を建てさせるぞ、と言います。建築士ですから本業ですね。
アルクビストが「人間がいなくては、(ロボットが)亡んでしまうんだぞ!」と言うのですが、ラディウスは、「人間はいない!ロボットよ、仕事に取りかかれ!行進!」と叫びます。
やはり、アルクビストを、ロボットの一員にカウントしています。彼がR.U.Rで製造されたと勘違いしているわけではなく、その生き方を指してロボと称しているのでしょう。

その後、ロボット達は、自分達の命には限りがあり、ロッスムの手記無き今、増えることができないということに慄きます。
ロボット達は、世界で唯一の人間であるアルクビストを先生を呼び、人間の生の秘密をお話ください、人間にしか生命を増やせません、私達は怖いのです、私達は人間になりたかったのです、ロボットの作り方を教えてください。と嘆き、懇願します。

機械を動かしても血と肉の塊を作るだけでちゃんと人型になってくれないのです。(では、今まで、どうやって工場を運営していたのでしょうか。ちゃんと作業員ロボットが仲間を大量生産していたのでは?)

ロボットの原料には、二つの液体が必要で、それはガル博士ですらすぐに予測できるものではありませんでした。
膨大な知識を有する彼でも、長い実験をしなければなりません。
しかし、ガルは、もういません。
よりにもよって、ロボット生産の知識を持たぬアルクビストだけが残っているのです。

彼は、ロボットのダモンをつかって解剖実験をします。機械の分解ではなく、切開手術のようなものですから、医者ではないアルクビストには、相当精神的負担になっています。
血濡れになりながら、何も得られなかったと落ち込むのです。
なお、その時実験体になったダモンは一命を取り留めたようで、「俺は生きてる、生きている方がいい、生命だ、生きたい」と言いながら連れ出されました。死を回避し、生にしがみ付こうとする強い意志を感じます。
せめて痛みを感じる回路を一時遮断できれば、麻酔代わりになってダモン、アルクビスト、読者のダメージも軽減されたでしょうね。インパクトも一緒に無くなりますけど。

この後、アルクビストの血で汚れた手を洗い流しに来たのが、女性ロボットのヘレナです。
ヘレナは、彼女と同じくガル博士改良型の男性ロボット・プリムスと恋に落ちているようです。
人間カップルのごとく、じゃれ合っています。
アルクビストは最初、ヘレナで生体実験すると言いますが、それ知ったプリムスが身代わりを申し出ます。
すると今度は、プリムスと一緒に私も解剖して、と、ヘレナが懇願するのです。
このお互いをかばいあい命をも投げ出す覚悟は、愛ですね。
アルクビストは、二人をアダム、エバ、と呼び、彼らをドアから逃がすのです。

ロボットには生殖腺まである、と最初の方に書かれています。
ですから、実は工場を使わなくても、ロボットの男女で夫婦になれば子供を産むことが可能だったのかもしれません。
まだ、ヘレナとプリムスのカップルはそれを知らないかもしれませんが、神が人間を創ったように、今度は、人間の作ったロボットの歴史がここからはじまるんだろう、と予感させる所で終幕となります。

人間へレナの願いは叶ったわけですし、ガル博士の改良が、「ロボットに恋心を植えつける」というとてもロマンチックなものに見えてきましたよ。人類滅亡、という副作用はありましたけど。

聖書を織り交ぜつつ、愛の始まりや、人間と非人間の違いを考察するあたり、後の作品にも多大な影響を与えていそうですね。

なお、まだロッスムの手稿が燃やされたと気づいていない時の役人達は、さまざまな人種、民族固有のロボットを作り、言語を断絶させ、他の工場製ロボットを憎むようにさせたいと展望を語っていました。
ロボットに人類の歴史をそっくりそのまま繰り返させよう、という意図があったんでしょうね。その目的は良く分かりません。科学のさらなる発展を狙っているのか、単に、神の真似事をしたかったのか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/06/03(日) 10:05:49|
  2. 読書感想文(小説)

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