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ボリス・ヴィアン「日々の泡(うたかたの日々)」感想

日々の泡 (新潮文庫)日々の泡 (新潮文庫)
(1998/02)
ボリス ヴィアン

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↑装丁と訳は、これと違ったかもしれないです。

【あらすじ】
裕福な青年コランは、生きる為に労働するということはしなかった。
友人と語らい美しい少女を愛で、音楽と料理を楽しみながら暮らしている。
コランは、恋人クロエと結婚をするのだが、ある日、彼女の身に異変が起こってしまう。

【途中まで、ネタバレなし感想】
本が手元にないのでうろ覚えです。引用している文章も正確ではありませんから予めご了承ください。

コランには、料理人のニコラ、技師のシック、という友人がいて、彼らにもそれぞれ恋人があります。
3組のカップルが送る日々を、SF的幻想を織り交ぜつつ、時には美しく、時には残酷に書き散らした、夢うつつのカオス物語です。

美少女と物理学と機械と料理と音楽と花と猟奇でできてる話で、プログレロックやテクノバンドの曲名・歌詞に通じるものがありました。

耽美または猟奇表現が15ページに一回は出てくる勢いなので、いわゆるエログロというものかもしれません。
痛いのも気持ち悪いのも汚いのも大の苦手ですが、引きつつ笑えもしました。

像やネズミも話す寓話的世界観なのですが、ほぼ最後までそれを分かっておらず、もっと現実に即した話と理解しようとしていました。
ですから、「薔薇色の雲が空から下りてきて恋人たちを包んだ。僕らからは周囲が見えるが、周りからはこちらが見えない。透明人間だ。」「この音楽レコードをかけたら、部屋が丸くなってしまった、こんな形の部屋に医者はたどり着けるだろうか」という描写も、何かの比喩かな?心理描写?それとも、登場人物が全員麻薬でラリって同じ幻覚みているの?と思っていました。
しかし、その後を見るにつけ、「リアルに部屋変形してたかも」と思うに至りました。

意味不明なりにインパクト溢れる要素の数々で、そのパーツだけでも十分面白かったです。

薬を作る機械が空転したのは、変造ウサギが時々鋼鉄に勝ってしまうからなんだ、と薬剤師は言う。

結婚式の楽士達は、囚人護送車で帰ってゆく。

職業的男色衆の双子、弟が兄に言い放った「あんたはきっといつか女の子と結婚しちまうんだ!」

ピアノの音符の長さとペダルの踏み方、トリルの具合によってカクテルが作られるマシーン「カクテルピアノ」。

(゚д゚)!?

ギリ…現実かなぁヘ(゚д゚)ノ ナニコレ?面白いけど…と読み進めると、睡蓮と鋼鉄の薔薇がとんでもない所に生えてきます。そこで漸く「あ、これ、ひょっとしてSF?」って気づきました。(実はそういう事例って本当にあるのかも…とも考えましたが、それはないようです。「そういうの世界のどこかにはありそう」というラインを突いてくるお話なんですよ。)

睡蓮は、ロマンと残酷と恐怖と心地よさを同時に表現してるような面白いモチーフでした。

女の子の髪の毛を(´~`)モグモグ。「君の姪みたいな”こころの妹”を希望しているんだ」とかいう謎セリフが出てくるのですが、それっきり、”こころの妹”発言しなくなりました。
「君の姪」、というのは、アリーズという美少女の事です。料理人ニコラの姪にして、技師シックの恋人。
主人公コランは、アリーズいいなぁ、と最初思っていたようですが、好きな曲と同じ名前を持つクロエと付き合い始めるのです。

親友のシックという男がハマってる哲学者ジャン=ソオル・パルトルの著書名がいちいち汚かったです。
シックはパルトルに心酔しきっており、言いたい事は全部パルトルが言ってくれるし!彼の著書は一冊残らず買いたいし、講演だって見に行くぞ、講演は録音し、自室にて別の日の講演を同時再生、その矛盾点から新たな真理を探るぜ!という勢いの人です。熱狂的なファンといいますか、狂信者です。
人間、あそこまで誰か一人を崇拝するのは良くないなぁ、自分というものがなくなるし生活も恋人も友人もえらいことになっちゃうわぁ…本人は幸せそうで何よりだけども…。というのを極端に描いた風刺的なキャラ造形なのでしょう。

双子の兄弟の職業は、結婚式に付き添いをする「男色衆(おかましゅう)」なのですが、ネット検索してもそれらしいものが出ません。
フランスには実在する風習なのか、創作なのか謎です。
兄は、女性も好きな人なのですが、弟はそれを不潔だ、変態だ、というように扱います。仕事中女性に近づき過ぎる兄の腰を力任せにつねっているのを見て、弟は男性が好きというよりお兄ちゃんを独り占めしたい人なのかなぁと感じました。それゆえに暴言を吐くし攻撃をする。

この双子、話の本筋には絡まないのに出てきました。微妙に同性愛・倒錯っぽい描写は他にもありました。
女性キャラ(?)が、16歳と18歳の少女が酔いつぶれていて帰れないからと、自分の所に泊めて、ベッドに空きに入り込んで朝まで一緒に寝ていました。
また、主人公コランが結婚するのにあたり、親友シックがネクタイ結ぶのを手伝ってくれるのですが、14回も失敗し、内3回ネクタイが裂けるのです。しまいには、シックの指がネクタイに巻き込まれた状態で力いっぱい引いてしまったので、怪我をしてしまいます。
ここの描写になぜこんなに行数を割く?というくらい精密で、少女を賛美するのと同じくらい長く克明でした。
何か、元ネタの神話や古典、聖書の記述でもあるんでしょうか?
シックとコランのその後を暗示してるのか?とも考えましたが、それなら、コランが巻き込まれないとしっくりきません。(うろ覚えなので、読み返したら、コランが指怪我するのかも?)

「労働」について描かれてます。
人間はなぜ、自分が働かなくて済むような機械をつくらないのか。
働くことが最も素晴らしく尊い行為だと(宗教的にも道徳的にも?)教え込まれている社畜、労働厨のみなさん、おつかれ様!みたいな立場の主人公コラン。彼の主張も、間違いではないと感じましたけども、周りの人から「何をして生きてます?」って訊かれた時、それは「仕事」「職業」を指しているんですよね。働く人が居ないと社会・経済・国は回せないですね。
コランは、高等遊民というやつなんだと思います。食うのに困らず、文化・芸術・愛する人、趣味だけで生きている。
果たして、それだけで美しい睡蓮に太刀打ちできるのか。人間、本当に「人間らしい生き方」だけで、「人間」を続けられるのか、という事を考えさせられました。

ラスト付近が超展開でして、ぐいぐい引き込まれました。とても面白い構図ですが、映像化版は見たくないです。

作者がジャズ音楽家でもあるらしく、作中、随所に音楽の話が出てきます。楽器やマイクロフォンなど録音、再生機器に関する描写も多いです。

【以下、ネタバレあり感想】 







妻クロエの肺には睡蓮の花が咲いてしまい、それで死に至りました。
癌や肺炎、結核など実在の病気の比喩なのかもしれませんけれど、作中では、芽、花、と表現しており、その睡蓮に対抗する為に回りを花でいっぱいにしなくてはならない(謎理論)、しかし、その花を買う金もない、みたいな展開になっていき、本当に花が咲いたと受け取ることにしました。

結局、はじめての労働をしましたよねコラン。
機械を体で温めて銃を作る仕事でしたっけ?ちょっと前までシックが技師として関わっていた工場とは別でしょうか?あそこでは、頻繁に作業員が機械で切断されて死んでいたようですけれど。
シックが本に熱中して(コランの結婚式でも読んでた)ちゃんと監視しないから人が死ぬんじゃないでしょうか。
コランの作った銃って使い物にならなそうでしたっけ?あまり「労働」の才能がないのかもしれません。
銃口には一つずつ薔薇の花が。
機械とそれに飲みこまれる人間たちは、「労働」を非人間的な怪物と捉えているように見えます。

コランがシックにあげた結婚資金はすべてパルトルにつぎ込まれ消えてしまいました。
資金が底をつきそうだ、と聞かされた場面で、製薬機械が空転するのは、心理状態とぴったりで面白い演出でした。
パルトルは新しい全集を出すと言います。そこでシックの彼女アリーズの取った行動は、パルトルへの強迫でした。
あんたが新刊だしたらうちの彼氏は死んでしまうわ。なんとしてでも買おうとするもの。だから、お金が溜まるまで出版を待って!そうしてくれないなら殺す!!
( ゚д゚ )!!
哲学者、本当に人間できてそうな物腰でしたね。もっと胡散臭い詐欺師かと思ってましたけど、その提案を冷静に聞いていました。とんでもない考え方に呆れつつ面白がっている風でもありました。本気で殺されるとは思ってなかったでしょうけど。
アリーズは、心臓はさみなるものでパルトルを殺害。さらに、シックがサイン本やパルトルの身に着けたズボン(ニセモノ臭い…)を買った本屋の店主を次々に殺害。
残酷極まりないので(;´Д`)うってなりますけど、やりすぎではっちゃけてるので面白かったです。行ける所まで行っていると、逆にすっきりするものですね。
初登場時、アリーズがこんなことになるとは夢にも思いませんでした。

シックにパルトル収集をやめさせる、シックと別れる、シックの破滅を見守る、自分が稼いで資金を作る、借金をする、など他に建設的な手段はいくらでもあるでしょうに、収集の供給元を断つという逆転の発想に度肝を抜かれました。面白い。(取集やめさせるのは絶対無理そう)

シックの所に警察のような人達が踏み込んだ理由は、読み落としました。住居侵入というワードがあったようですけれど、それは、シックが警察を非難したのか、警察がシックに掛けた容疑なのか分かりません。
いくつか罪状が並んでいたようなので、金のないシックは盗人に身を落としたのかもしれませんね。パルトルの為に。

シックとアリーズは多分死んだか逮捕されるかしたんですけれど、そんな中クロエも亡くなります。
盛大な結婚式とは違い、貧民用の葬式を上げます。
周りの人達にあざ笑われつつ、身も心もボロボロのコラン。
イエス像は、「いや、クロエ死んだの俺のせいじゃねーし。」みたいなことを言います。
ネコとハツカネズミの会話で終わり。ネコって、結局ハツカネズミを食べなかったんでしたっけ?首の後ろ持って移動して、下しただけ?
何を表してるとか一個も分からないですが、このお話らしい最後でした。

金銭を得る為の労働とはもっとも遠い暮らしを送っていたコラン達が、最終的には収入と直結した苦悩を強いられるのが面白いです。
アリーズの凶行は、シックに金がなく、かつ、これからも浪費することが確定しているから引き起こされたことです。シックは犯罪者になったのかもしれません。
コランは、病気の妻を救うために金が必要になります。
そこで、カクテルピアノを売るんです。これは、厳密には労働ではないかもしれませんが、自分たちの楽しみに使っていた、カクテルを作り音楽を奏でるしか能のない(←これだけあったら十二分にすごいし、これを発明したらしいことも普通じゃない)カクテルピアノをついに、お金へと変えてしまったのです。
このピアノは、金銭を生み出さないからこそ、純粋な娯楽・芸術的価値があったように感じます。別に、「一杯いくら」と金をとっても構いはしないし、むしろ、そういうバーを経営したらいいのに、とも思いましたけど。
思いのほか高く売れて良かったですね。
とある映画では、病床の友人に薬を買う為、大事にしていたラジオを売る場面があるのですが、そちらは思い入れに反してとても安かったものですから。
カクテルピアノは、コランの手を離れた上に、なんだか現実的な存在になってしまいました。そして、友人カップルと妻は去りました。
実感のある手でさわれる生活と、空想上のふわふわした幸せな暮らし両方が、金がないことで打ち砕かれてしまいます。
コランが作業所へ働きに出た時が、彼の美学や主義の敗北した瞬間です。
理想は捨てました。
しかし、それが愛する妻の為、というのは美しいことだと思います。

テーマ:読んだ本の感想等 - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/03/19(月) 17:01:34|
  2. 読書感想文(小説)

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