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カート・ヴォネガット・ジュニア「猫のゆりかご」感想

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)
(1979/07)
カート・ヴォネガット・ジュニア

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【あらすじ】
私の「カラース」の「ワンピーター」である「アイス・ナイン」は、原爆と同じ父を持つ、破滅の種であり、以上は、すべて「フォーマ」である。

【途中まで、ネタバレなし感想】
今、本が手元になく、結構前に読んだのでうろ覚えで感想を書きます。

この本には嘘しか書いてないので、すぐに閉じた方が賢明ですが、気になったら続きを読んでみるととても面白いです。

架空宗教「ボコノン教」が登場します。
この教団は、最初っから「嘘しか言ってない」と公表しているにも関わらず信者が集まっています。
また、嘘なのにも関わらず、変に真実味のある部分があり、物事を考える時の概念として便利です。

ボコノン教において、人種や土地や階級によらない人々のチームを「カラース」と呼びます。「カラース」には必ず核となる「ワンピーター」というものが存在します。
「ワンピーター」には、形があってもなくてもいいです。木、石、音楽、本、なんでもそれになり得るのです。
最近、ネットでいう「○○クラスタ」に近いものがありますけれど、それより、もっと本格的で運命的な繋がりであるように思います。タグの複数選択制ではないような。
カラースからは、外れる人も出てくるし、途中で加わる人もいるので、その人数・構成は、流動的です。

偶然が続くと「ひょっとしてこの人は、自分のカラースの一員なんじゃないの!?何をワンピーターとするか分からないけど!」などと考えそうになりますが、それらはすべて真っ赤な無害の嘘「フォーマ」です。

大統領(独裁者?)になったら、ボコノン教を弾圧するのがお仕事です。
宗教は、時の権力者に弾圧されなくてはならないのです。これは、他作品の架空宗教やリアル宗教に関する記述でも見かけたことあります。
必須と言うより、大統領や皇帝や朝廷らに追い詰められる方が本物っぽいし燃えますし爆発的に広まるような感じはあります。

物語は、あまり色のない主人公が、広島に原爆落としたことについてどう思うよ?みたいなことを調査し始めるところから始まります。当時の主人公はキリスト教徒でしたが、この本は、ボコノン教に改宗してから過去を振り返る形で書かれております。

原爆の父には子供が3人います。亡き母親に代わってお母さん代わりを務める長女と、当時中学生の長男、小人の3男。
3男目線でナチュラルに、「お姉ちゃんが皆を見送り、お兄ちゃんは中学へ、僕は幼稚園へ、お父さんは原爆を作りにでかけます。」というノリで書かれてます。ブラックユーモア、風刺御伽噺といった風で楽しいです。
この家族全員ちょっとおかしいです。
長女は父親を絶対視しているファザコンの気がある女性なのですが、長男が父を悪く言ったことで喧嘩になります。その時、長男がお姉さんの鳩尾を殴って、父に助けを呼ぶのですが、父は、原爆の専門家であり、人間の事は詳しくないので、何も言わずに顔を引っ込めてしまいます。
わが子が腹パンチで苦しんでいるのに無視。
お母さんのお墓は、ちょっと形状がパンクすぎるんじゃないですかね。

「アイス・ナイン」は、最初、作中ですら架空の物質という扱いでした。
でも、本当は、原爆の父が発明しちゃってました。
これは、普通の水とは違い、摂氏45.8度で凝固、凍結してしまう物質で、この種をひとたび水溜りに撒けば、水溜りは凍り、その周りの川も沼も海も地面も雨もなにもかもが凍ってしまうのです。
「アイス・ナイン」という仮名をつけた博士は、アイス・ナインの作者とは別人だったかと思います。
なのに、何故同じ名前で通ってるの…と感じましたが、このレポートを書いている主人公目線での呼び方が「アイス・ナイン」で統一されているだけ、ということでしょうか。(後ほど確認します)

主人公の周囲には、「アイス・ナイン」にまつわる人間が絡んできます。
「アイス・ナイン」を「ワンピーター」とする「カラース」ですね。
最終的に、こんなお話になるとはまったく存じませんでした。

楽器や音楽の描写がちょくちょく出てきます。信じられないような人が信じられない素晴らしい音楽を奏でるとか、レコードを聴くとか、星の音楽とか、そういうような。
レコードなどの再生機器を除いた楽器のうち、電気を用いているのは、エレキ・ギターだけですかね。(未確認)
唐突に出て来て、即、流されました。

無害な非真実=嘘が「フォーマ」なら、有害な嘘は、なんと呼べばいいのでしょうか。
この話の場合、嘘が有害になった時点で、それは、もう、真実です。

作中「ラムファード」と言う名前がちらっと出てましたけど、同作者の別作品のなんとか漏斗に入っちゃったあの方でしょうか?

【以下、ネタバレあり感想。】 





嘘しかない宗教の信者の島サン・ロレンゾの嘘だらけ儀式で世界滅亡。
ボコノン教とアイス・ナインの関わりを失念中なのですが、原爆の父が亡くなり、3人の子供が分け合ったアイス・ナイン。長男がサン・ロレンゾの政治幹部なんでしたっけ。

アイス・ナインで死んだ人間が海に落ちて、世界中が凍ってしまいました。
サックス奏者がマウスピース銜えて死ぬとか、ちょっとロマンチックかつセクシーですね。
集団自殺は、カルト教団っぽいです。そのやり方が、アイス・ナインで汚された大地に触れ、その手を口に持っていく、というものだったと思います。足の裏を合わせる儀式ボコマルもしてましたっけ。
母なる大地を汚して「悪いお母さん」にしてしまうとか、背徳的な魅力があります。
ボコノン教作った人しぶとく生き残っていたんですね。
結末を飾る方法が考えています。
全てをおちょくった形で〆。

以下、うろ覚え、かいつまみ引用。

この島の人間にだって、目はあるんだ。だから、「進化」には興味があるよ。
彼らが特に好む「進化」が、エレキギターさ。

ぼんやりした引用終わり。(本家は会話形式だから、確実に上記の文章ではない。)

耳があるからエレキギターじゃないんですか。目ですか。そして何事もなかったかのように忘れ去られるエレキ・ギター。

二人っきりのカラースは、慣用句としての一蓮托生にイメージ近いです。
どうも、片方が死ぬともう片方も後を追うように死んでしまうようです。
作中、あっさりアイス・ナイン汚染海か何かで心中した人達もいたはずです。
二人は死後、同じ蓮華の上に生まれ直したんですか。それはもうボコノン教じゃないです。

嘘のカラースは、出身地や出身校といった、そのレベルの浅い繋がりを、絶対だと盲信する様子ですよね。多分。
現実世界における大抵のグループや人間関係は、このニセモノのカラースだと思われます。

一人の愛を独占しようとすることは、良くない!と、いうような事を主人公(?)の新妻(?)が言ってましたけど、確かに「独占すること」「独占されること」の似合わない人というのが現実にもいるように思われます。
むしろ、互いに独占状態であることの方が、不自然なのかもしれません。
かといって、全員が全員に対して博愛というのもきもちわるいです。

最後の方の石碑か何かに「patria」という言葉が出てきて、 「patriot」(パトリオット=愛国者)のアナグラムなのかと思いましたが、「patria」だけで、「祖国」を意味するラテン語(パトリオットの語源)なんですね。
この本で言う「祖国」は、USA!USA!的な「国家」とはイメージが違ったように記憶してます。

架空宗教ものは面白いです。

テーマ:SF小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/02/06(月) 10:25:38|
  2. 読書感想文(小説)

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