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ソラリスの陽のもとに

ソラリスの陽のもとに (ハヤカワ文庫 SF 237)ソラリスの陽のもとに (ハヤカワ文庫 SF 237)
(1977/04)
スタニスワフ・レム

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【あらすじ】
ソラリスという惑星には海があり、それは、大きな生物だとか、意思を持っているとか言われ、人類による「ソラリス学」が形成されていた。
ソラリスの海は、機械でも建物でも、そっくり複製するという働きを持っているが、その中身や機能、動きまでは正確に再現できない事がある。
ソラリスステーションの中で、クリスは、死んだはずの元恋人ハリーと再会する。

【具体的なネタバレを避けた感想】
あらすじの時点で分かると思うので書きますが、ハリーは、人間ではありません。
その事には、クリスも早い段階で気づいています。ハリーが、昔死んだハリーではない、ということを受け入れた状態で、どうやって彼女と向き合うかというお話です。

自分達は、人類が持つ知性の最高峰として送り出された研究員なんだ、という思い上がった自意識と、その裏に隠された恥や後ろ暗い部分の対比が描かれています。

宇宙探索をし、生息可能範囲を広げ、全てを征服し、現象や場所に名前をつけて分かった気になる人類は、実はちっぽけで、無力で、宇宙に対して何の作用も持たない存在だ。探求には行き止まりがあり、ソラリスはそれを知らしめようと、人間の弱点を抉って来るのだ。―――というようなことが示唆されますが、ソラリスの海にとっては、その全てがどうでも良いことのようなのです。

研究者達の持つ「海に攻撃されている、嫌がらせされている」という感覚も、彼らが己の傲慢さを恥じることも、限界を悟ることも、全て、未知の生命に接触した人間が勝手に考えた、自問自答のようなものでした。

このお話では、物を複製し、人の記憶を読んでいるかもしれない「ソラリスの海」という特殊な設定を用いていますが、現実の自然や現象に対する人間のあり方とも大差ないと思います。
沈黙する世界に対し、哲学や宗教、心理学、科学、生物学、物理学、宇宙工学、芸術、文学を発展させてきた過程が、そのまま人類の歴史なのだと思われます。

この本の内容を引用しつつ要約すると「アンチフィールドでニュートリノを破壊せよ。」「実際にはきみはきみじゃないんだ。ぼくの一部だ。」「人間の記憶は、不定分子の不同時性結晶の上に核酸の言語で書きこまれた一種の絵なのだ。」「髭を剃らなくなったら負けフラグ。」「不完全な絶望の神の幼児体のおもちゃ。」です。・・・(゚д゚)!?

主人公達の信仰、および、物語のベースにはキリスト教があるようです。
以前、別の本でも見かけた「ロボットは原罪を持っていない」説がチラッと出てました。
そのまま流用すると、ソラリスの作り出す人間には、原罪がないということになりそうですね。
ロボットではありませんが、アダムとイブの子孫ではないという意味で。

大まかに言って、人間と非人間を分ける境界は、眠って夢を見るか、そうでないか、のようです。

ソラリスの海が作り出すものは、夢の中に出てくる人やものと似たような存在です。
夢は、見ている人の記憶から生成されています(多分)。夢に見る登場人物が何を話したとしても、ストーリーの行く末が分からないとしても、それを作り出しているのは自分の脳なのです。一見精密に見える機械でも、文字がびっしり書き込まれた本でも、実はぐちゃぐちゃで不完全だったりします。

ハリーは、クリスに罰を与えるために送り込まれた存在なのか、それとも神様からのご褒美なのか。
これは、本人の心持ち次第でしょうね。
ハリーの死は自殺でした。クリスが前日に暴言を浴びせ、荷物をまとめて出て行った事が直接原因のようで、クリスは、自分の責任だと思っている節があります。
そんなハリーを、海は送ってよこしたのです。
他の研究員にも、同様に、掘り返して欲しくない過去を表す愛人か何かが、「客人」としてやってきたようです。

人類の威信をかけて宇宙にまでやってきて、赤裸々なプライベートを暴かれるなんて、確かに恥ずかしいでしょう。しかも、相手に対して負い目のある場合は。
クリスとハリーの関係性の場合、とらえ方によっては、幸運なことだと言えそうです。
幾分癖や特徴の誇張されたハリーと、仲良く、もう一度やり直すことが可能なのです。今度は、彼女を死なせないように。
そうなったら、自分の一部である偽者の恋人と愛し合うという、非常に閉鎖的で、どん詰まりで、停滞してる、という事態になりますけど。
そこで、思考はストップしてしまい、人類の進歩だとか、宇宙の謎を解明するだとか、そういった事からは、遠ざかるでしょうね。
ハリーを常に被験体、研究対象だと扱い続けることができればいいのですが、難しそうです。

個人的に、ハリーは、旧劇場版エヴァンゲリオンで、冬月の元にやってきたユイさんみたいなものだと考えています。しかも、多分、三人目。

作品の中は、2012年現在よりも、科学力が発達していますが、音声の録音・再生はカセットテープにより行われます。通信機器と記憶媒体の未来予測は難しいようです。

テーマ:読んだ本の感想等 - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/01/06(金) 20:15:51|
  2. 読書感想文(小説)

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