野良箱

同人漫画サークル

スタンリー・キューブリック監督映画「時計じかけのオレンジ」

時計じかけのオレンジ [DVD]時計じかけのオレンジ [DVD]
(2010/04/21)
マルコム・マクドウェル、パトリック・マギー 他

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【あらすじ】
アレックスと、その仲間の少年達は、日々、浮浪者や老人をいたぶり、女性を犯し、面白おかしく暮らしていた。
やりたい放題やって帰宅したアレックスは、大好きなベートーベンのミュージックを楽しむのである。

【途中まで、ネタバレなし感想】
映画の存在はずっと知っていたのに、視聴を避けていた映画です。
なぜなら、ジャケットやポスターに見られる、目を強制的に開かせる器具、そして、なにやら手に持っている尖ったもの。その印象が怖かったからです。

結論から話しますと、該当シーンは、全く平気でした。
とはいえ、暴力描写が多いので、ヴァイオレンスが苦手な人は、見ない方が良いです。

思ってたのと違う!すごいしっかりしてる!!というのが最大の印象です。
序盤は、酷いなりにイメージ通りだったんですよ。ところが、途中からの展開には、驚きでした。
もっと、ナンセンスな「雰囲気を楽しむ為だけの映画」かと。
テーマや問いかけがはっきりしていて、たしかにこれは映画史に残るわ、と納得の、骨太なお話と映像でした。

リバーシブル精神にあふれる脚本で、何がS(サド)で、何がM(マゾ)だか分からなくなります。
立場や価値観の反転具合が気持ち良いです。

スペースオペラや科学オカルト、「すこし不思議」とは、また違うタイプのSF映画です。
社会風刺スラップスティック・ダークコメディ・サイコサスペンスというのでしょうか。ちょっと、ジャンルが迷子です。

肉体よりも精神に来る苦痛さ加減でした。
それでいて嫌じゃなくて面白かったです。

音楽が凄くかっこよいです。メインテーマらしきものは、テクノやエレクトロニカの類でしょうか?プラス、プログレだかわからない何か。
それ以外の部分だと、主人公の愛好するクラシック音楽や、それの編曲版みたいなのがかかってたと思います。
ボーカルにエフェクトが掛かった曲の歪み方が好きです。

キャラクターのファッションと背景がどうかしてました。
これは、どの時代を想定しているんでしょうか。
「結局、訪れなかった近未来」みたいな、エログロサイバーな何かでした。カラフルで、悪趣味。
アレックスのお母さんは、日本の昔の魔法少女みたいなロリっぽい服装とカラーカツラでした。あの世界では、あの恰好が普通なのでしょう。

女性が出てくりゃ、だいたい裸に剥かれると思ってよい話です。
「漫画みたいな乳」展覧会です。
あれらは、特殊メイクとかじゃなくて、本当に、各女優さんの胸なんでしょうか。
細身で背が低いのに胸だけポンと大きい子や、お尻の大きな熟女なのに意外とささやかな胸だったりと、服を着ている時のイメージとギャップがありました。

私が見たのは無修正版というやつで、女性の隠れなきゃいけない所はそんなに映ってなかったですけど、男性のはちょっと映ってた気がします。( ´_ゝ`)男女ともに見ても嬉しくない…。
性描写が多い割に、正しい形にすらなっていないアート的イメージポーズ集といった雰囲気です。

男性の股間を攻撃する場面が多いので、男性にはつらい映像かもしれません。

この映画を予備知識なしで見られて幸運だったと思います。
そのような訳で、以上、極力ストーリーについては触れずに書きました。

【以下、ネタバレあり感想】






まず、元々恐れていた「目」の場面の話をします。
あれが、この映画の核とも言える、「凶悪な囚人から暴力性と性衝動を取り除く実験」だったのですね。
暴力と性の映像から目を背けられないようにする器具だとは予想してませんでした。
もっと、痛い拷問につかう器具かと。(実際、あの実験は、拷問に限りなく近い洗脳でしたけど。)
私は、アレックスが、あの器具で誰かを虐める映画だと思ってたんです。
まさか、食らう方がアレックスだなんて考えた事もありませんでした。

この実験みたいな事って実際にできそうだし、もうすでにやられているかもしれません。
実験神経症というのもありますし。(健常者が心理実験を受け、後遺症で精神疾患になってしまうこと、だと思う。その為、人道的見地から禁止された実験もある。違ったら、後で訂正する。)

攻撃衝動が起きなくなるんじゃなくて、吐き気や不安、恐怖でそれら抑制し、行動を選択できなくさせているだけなんですね。
しかもその嘔吐感は、自分が暴力を受けている時にも起こり(見ただけでアウト)、さらに、反撃しようとしても具合悪くなるから手出しできないという袋小路です。
普通の人生を歩んできた人なら、そうそう暴力と接しないで生きられますけど、アレックスは、昔虐待した者達から次々と逆襲に遭うのです。自業自得とはいえ可哀そうでした。両親に新しい義理の息子ができ、自分の居場所が文字通りなくなってしまったと分かっている分。
でも、萌えもしました、ごめんなさい。靴舐めとか、マッチョに抱えられた子供みたいなボロボロ状態等とてもかわいかったです。基本がドSキャラだけに抵抗できないのが素敵です。

アレックスは、「心優しい模範市民になりたい」というより、刑務所を早く出たくてあの実験に名乗り出たんでしたっけ?
もしも神父に感化され、心から真人間を目指してたのなら、あのやる気と期待が裏目に出たかと思うとやるせないですけど、どちらかと言うと、まだ「凶悪なアレックス」の状態だったように思います。実験なんてすぐ終わるんでしょー?というノリ。

では、実験前に話を戻します。

映画の冒頭は、イメージ通りです。衝動に任せて悪さをするアレックス。
ですが、帰宅したら、両親と同居で、ブリーフパンツを履き、学校がどうのと説教されている…。
若い!少年!
年齢不詳ながら、学校教育はとうに終えた成人男性だとばかり思ってました。
こんなにも、「お父さんとお母さんの子供」であることが強調されたキャラクターだなんてびっくりです。

それから、つけまつ毛を取るところも地味に衝撃を受けました。
あの衣装とメイクとまつ毛は、そういうデザインのキャラクターなのであり、アレックス本体とは不可分だ、と、どこかで思ってたんですね。
しかし、取れちゃうんです、まつ毛。鏡に貼り付けてましたね。あれって、実際の女性もやるんでしょうか?
一度つけまつ毛を試したことあるんですけど、全然似合わないし気色悪いし、ますます不細工になってしまったので、それ以降つけてません。即、ゴミ箱行きでしたので、繰り返し使用するというやり方がわかりません。

アレックスは、刑務所以降、いたぶられる側に回ったというイメージですが、実はそれ以前から、軽く被虐に遭ってるんですよね。
仲間たちに裏切られて、目に何か液体(牛乳?)をかけられ逃げ遅れるのです。
目が見えないー、目がー、俺の目がーーー。みたいに叫んでいる所は、ポーズもセリフも声色もムスカ大佐のようでした。
それ前あたりで、仲間だか敵対勢力だか忘れましたが、少年達を、むやみやたらと川に突き落としたり、ナイフで傷つけたりしたんですよね。その仕返しですし、さらに後々、警察官になった彼らに水攻め窒息寸前の虐待を受ける事に繋がるのです。
しっぺ返しであり、元はと言えばアレックスが悪いんですけど、その少年達もかなりクレイジーです。

刑務所入りもとても意外でした。アレックスの暴力は、法律や国家権力とは関係のない所で行われるものであり、こんな風に型どおりのお咎めを受けるとは考えてなかったのです。
身体検査や入所手続が、異常にテンポ良くハイテンションでしたので、笑ってしまいました。
顔にツバを吐かれる場面とそのリアクションは、映画「ヒッチャー ’86」の一場面と似てました。
アレックスは、サディストさんではありますが、こういうことをされるのが妙に似合います。Sゆえに余計映えるのでしょうか。

この映画、警察や看守、科学者、権力者、政治家については、横暴で自分勝手で権力主義で口が悪くて嫌な奴という風に描いています。現実でもそういう所あるし、彼らを快く思わない人は多いでしょう。
風刺漫画だったら、定番の構図ですね。

アレックスを悲劇の被験体だ!と憐れみ、かつ政治利用(?)しようとしてた車椅子のおじさんですが(アレックスの暴行により障碍者になった)、風呂での鼻歌を聞いて、あの時のクソガキだと気づいたのでした。
おじさんは、妻が、アレックス達にレイプされた事が直接原因で死んだと思っています。自分だって半殺しにされました。
アレックスの正体に気付いた時のおじさんは、怒りと驚きで震えているというより、癲癇の発作でも起きたのかなと思いました。
あのおじさんの身の回りを世話しているマッチョのお兄さんが気になります。ボディービルダーの介護士でしょうか。別に、ホモセクシャルなパートナーとかではないのですかね。
おじさんの家は、玄関から廊下にかけて非常に個性的で頭に残りやすいデザインをしているので、アレックスが再度訪れた時にも、カメラアングルまで揃えてあって良かったです。

アレックスは、夜間人の家に入る手口が毎度同じでした。友達が大変なんです!部屋に入れて!救急車を呼んで!みたいな。
新聞で報道されているのに、また同じ手でいこうとしている所が浅はかでした。
実際、猫大好き色情魔レオタードおばさんに通報されましたし。(あの、エロティックオブジェと絵画の数々は何なのですか。この映画に出てくる人は、そんなのばかりです。)
しかし、いつもこの口実だったことが、出所後、警察少年にボコられたアレックスの心の底からのSOSとリンクしていて面白かったです。リアルに「助けてください、手当が必要です…」状態ですからね。

猫屋敷における男性器像VS鈍器での戦いですが、アレックスの武器(エロオブジェ)がおばさんの顔面を叩き潰す所、イラストが挿入されてるだけでしたけど、実際にはそうとう陰惨な殺人現場になったのでしょうね。絵を見る限り、口に突っ込むか、鼻と口の上からガッツリ言った感じでしょうか。グロい。
アレックスのした数々の婦女暴行と器物破損と傷害事件については、罪にカウントされてないんでしょうか?
逮捕の直接容疑は、猫おばさん強盗殺人ですよね。
私、アレックス達が、猫を殺すんじゃないかと心配してたんですよ。おばさんだけで良かったです。
やった、危害を加えられた猫はいなかったんだ!(映画監督や作家が作中、人間をいくら殺しても抗議はないのに、猫や犬を殺すと、苦情殺到した、とかいう噂を聞きました。)

アレックスの受けた実験最大の副作用は、大好きなベートーベンの第九が恐怖と嫌悪の対象になってしまったということです。
目を背けられない状態で見せられ続けた暴力や戦争の映像、そのBGMがベートーベンだったのです。
博士たちは、意図してないと言ってましたけど、アレックスの身辺調査とかしてたら曲の好みも知っていておかしくないですから、わざとやったという事も有り得ます。
…偶然の方が面白いですけど。
BGMの正体に気付いた時、アレックスの心は折れました。
ひどい、あんまりだ!こんな事にベートーベンの曲を使うなんて!僕はこれから先、この曲を聴く度に吐き気を催してしまうのか!?あんまりだ!!!!という旨の言葉をわめきながら泣くのです。

奥さんをレイプされた上、自分も車椅子生活を余儀なくされたおじさんのアレックスへの報復はえげつなかったですが、コミカルだし、おじさんがああした気持ちも分かります。
方法は簡単。アレックスをドアの開かない部屋に閉じ込めて、下の階から、ベートーベンを大音量でかけ続けるだけ。
おじさんは、この曲が怖くありませんし、むしろ素敵な音楽として楽しく聴けるのでしょう。
その上、嫁の仇が、もがき苦しんでくれる。これは、やりますよね。
アレックスは、「ぶっ裂きたく」なり(自殺衝動が高まり)、窓から、そして、人生から飛び降りました。
が、一命を取り留めます。

その後、脳をいじられたらしく(ロボトミー手術?電極とか薬とかで物理的に洗脳を解除された…?)、刑務所で受けた実験の後遺症はなくなりました。
汚らしい言葉も言えるようになり、模範的な市民ではなくなったのです。
アレックスは、新聞やラジオで有名人ですし、政治家にとっても有利な材料らしく、思惑があって、元の凶悪な人格に戻されました。
ベッドには記者たちが寄ってきます。大きなスピーカーでベートーベンの第九が鳴らされ、医者に「もう治ったね!おめでとう」みたいに言われて、終幕となります。

あれ、本当に治ってました?フォビア。
どうも、表情がおかしかったのですけれど、ベートーベンに対して。
緊張しているから固い笑顔、っていうわけでもなく、ちょっと白目剥きそうになりつつ、引きつった顔をしているように見えました。

一番好きな物を嫌いなものに変えられるというのは、かなり苦痛を伴う罰ですよね。
私は、このような実験を受けたこともないのに、様々な音楽に対して、「実験後アレックス」のような反応が出ます。(自殺衝動はなし、その場から逃げたい、音を消したいだけ。)
原因には心あたりがありますが、なかなか治らず、好きなミュージシャンの曲すら聞けなくて困っています。
ちょっと、実験解除用の逆実験やって!脳いじる以外で!!
変な所でアレックスに共感できてしまいました。

模範市民のアレックスも嫌いじゃないですよ。
自由を奪われた人工的な障碍者で、好奇の眼差しに晒されて、帰る所も行き場もなくて、それも、全部自分のせいで、というのが「可哀そうザマァ見ろ」という相反する感情を引き出してくれます。
模範市民アレックスは、穏やかですし、エキセントリックさが足りないので(ふっと入水自殺しそうな危うい美しさはある)、模範市民アレックスしか出ない映画だったら、ここまでインパクト出なかったでしょうけね。凶悪アレックスあっての、しおらしいアレックスが生きてくるのですよ。

そこから彼は、再び凶悪な反逆児になっていくのですが、今後二度と、自分の人生を自分で決められず、大きな社会の枠組みに組み込まれ、誰かに操られ続けていくのでしょうね。
自由すぎるくらい自由だったアレックスには、もう、戻れないのではないでしょうか。

暴力描写を排除しよう、セクシャルなものを子供達の目に触れないように!!という運動はいつの時代もあると思います、悪書追放とか。
アレックスの受けた実験はそれに近いです。うんざりするほど見せ続ける、という逆のやり方ですけど。
一人の人間を、矯正し不自然なほどの模範的市民を作ったとして、それは本当に良いことなのか?あんなパブロフの犬の延長線みたいなやりかたで、罪を償った事になるの?迷惑かけた親に優しくしてもらえるのか?昔虐めた相手に許してもらえるのか? 否!と言う事でよろしいでしょうか。
アレックスを水責めにした(あれ、長すぎ、死んじゃうって)新米警官二人。彼らも、浮浪者も、アレックスが収監された2年前から性格が変わってません。
悪い子が一人だけ、無理やり良い子にさせられても、何も解決しないんですね。

ヴァイオレンスや婦女暴行に対して著しい不快感を感じるタイプの人にとっては、この映画自体が実験用VTRですよね。体も頭も拘束され、目を見開かされ「時計じかけのオレンジ」を強制的に見せられる刑。
これで、また、一人、模範市民の誕生ですよ。

物語全体に流れるナレーションは、二度の実験・手術を経て、元に戻れたらしい、ラスト以降のアレックスが行っています。
この映画全体が、アレックスの脳を弄った医者・博士達に都合の良いように捏造されている可能性もあって、どこまで本当の事を言っているのか怪しく感じられてきました。

「時計じかけのオレンジ」という治療実験。
ただし、鑑賞者は、視聴を中止することも、目をつぶることもできます。

テーマ:DVDで見た映画 - ジャンル:映画

  1. 2011/12/30(金) 11:55:44|
  2. 映画感想

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