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同人漫画サークル

古橋秀之「ある日、爆弾がおちてきて」

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)
(2005/10)
古橋 秀之

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【あらすじ】
表題作ほか、短編、全6本。

「ある日、爆弾がおちてきて」
空から女の子が落ちてきた。彼女は、高2の時の病弱な同級生、広崎ひかりに似ている。
彼女は、爆弾のピカリと名乗った。
胸には懐中時計型の「トキメキ☆デゥームズディ・クロック」が埋め込まれており、セーシュン的ドキドキ感が高まって針が12時を指すと起爆、関東の人間は全滅するという。

「おおきくなあれ」
人の記憶を遡行させる「ゴードン症候群」、通称「阿呆風邪」が流行っている。
身長185センチの幼馴染少女が阿呆風邪にかかり、その記憶と言動が退行していく。

「恋する死者の夜」
心臓が止まり医学的には遺体なのに、喋り動く死者たちであふれた社会。
彼らは、人生の一日を繰り返す「リピーター」と呼ばれている。
生者のマモルは、死者のナギを遊園地に連れて行く。

「トトカミじゃ」
図書館の神棚には、少女向け小説が供えてある。
脚立をかけそこから本を取ろうとしていた、幼稚園児のようなセーラー服少女。
彼女は図書館の神様「トトカミ」で、毎年決まった一人の前にしか姿を現さない。
トトカミを見かけた主人公少年は、「ネギサマ(禰宜様)」になる。

「出席番号0番」
日渡千晶は、肉体を持たない憑依人格である。クラスメイトの体を日替わりで借りている。
日渡の人格は、男女どちらの生徒にも表れる。

「三時間目のまどか」
教室の窓際最後列に座る男子生徒・林田。
窓には、見知らぬ少女が映り、その向こうには、別の教室が広がっているようだった。
二人は、窓越しに意思疎通を図る。

「むかし、爆弾がおちてきて」
60年前、史上初めての時間潮汐爆弾が投下された。爆心半径数百メートルは、時間衝撃派により時間連続性を引きちぎられた人と建物は一瞬で分解し、待っ平らになった。
しかし、完全爆心地の半径1メートルは、時波の中立地になり時間は凝固した。
15歳の少女・原ミチ子は、60億分の1の速さで緩やかに進む時間の柱の中に取り残されている。

【ネタバレなし感想】
一つのお話に付きSF的な異常設定が一つだけあり、それにまつわるオチがあります。
すっきりした作りで読みやすいです。

どれも、少年と少女の恋愛ものです。
年齢的には、若くない人も出てきますけど。
タッチは、ラブコメ風のものから少しホラーっぽいものまで。

緋賀ゆかり先生によるかわいらしいイラスト入りで、各話、別のキャラクターをデザインされてます。

文体や、フォント表記、セリフは、「ギャルゲー」をプレイし、「ライトノベル」や 「萌え漫画」を読んだことある人なら、親しみやすいものになっています。

全て、各人を流れる「時間」を扱っています。巻末で、作者自ら解説されてます。

日常感がある割に、かなりドSFです。柔らかい印象とは裏腹に、古典ブラックSFショートショートの味わいがあります。(私はあまり数読んでないですが、短編作る時にアイディアがネタかぶりしたら悔しいし取り返しつかない系。)

若さあふれる青春の日々ではありますが、ほぼ全編、死の匂いが漂っています。
「最後の審判の日」「世界の終わり」という終末感もバリバリあります。
が、それでいて怖くも不安でもないのです。

この短編集に収録されたお話には、「世界は、終わらないで続いていく。」という雰囲気があります。
それが、あるキャラクターにとってはとても良いことで、また別のある人にとっては最悪な事でもあるのです。

破滅願望は、残り時間が少ないがゆえに、または、残り時間が有り余っているがゆえに、両方の場合に生まれるのかもしれません。
「終わらない日々」を歓迎し、希望を持って享受できる人もいますが、一方、それを許容するのに、絶望と諦念、倦怠を伴う人もいるんですね。

「誰か、終わらせてくれないかなぁ」というセリフの出てくる漫画を以前読んだことがありますし、twitterでも、突然の終わりや人類滅亡、消失を希望している方をよく見かけます。
幸か不幸か、そういった感情は持ち合わせていないのですが、そういうものなんだろうな、と読むことができ、安心感すら持てる小説でした。

トトカミ様の読んでいる本を、主人公は少女向けの恋愛小説と解釈してましたけど、美青年二人の書かれた表紙という描写、羅列されたタイトル群から言って、BL(ボーイズ・ラブ)だと思って間違いなさそうです。
幼女型神様に読ませる為「神棚本棚」にBL本をお供えする、という部分だけですでに楽しいです。

いくつかの話において、おじいさんキャラが重要な役割を果たします。
歳の差カップルのようで、同い年、とか、同い年のようで実は歳の差、とか色々あって面白かったです。
プラトニックな感じがしていい具合にトキメキ☆デュームズディ・クロックの針が進みますよ。

最初と最後のお話は、両方とも、モロに広島・長崎原爆ネタだったのですが、各方面に怒られないか、遺族感情的な意味でセーフかと、心配です。
別に失礼な扱いではありませんし、むしろ、2000年代にしては、あの件を強く思い、未だ忘れていない、優しい物語だと思います。
キャラの名前が、広崎と長島だったり、ちょっと爆弾が落ちてきたりするだけなので。…ピカリ、はセウト?

記念碑に「頭上の空を見上げる姿は、平和への祈りを表しているようです」とか書きつつ、主人公と他約一名以外、誰も彼女の事を本気で考えていない感じとか、ちょっと皮肉っぽくて切なくもあり好きです。
琥珀少女の時間は、時間潮汐爆弾炸裂から0.3秒しか経っていないので(周囲の時間は60年経過)、自分の状況すら分からずただびっくりしているだけなのです。祈ってなんかいません。勝手な意味と象徴の押し付けというのは、リアルにも良くあることだと思われます。
ラストの主人公は、ものすごい決断しますけど、あの後、大丈夫なんでしょうか。
少女が意外と性格悪かったり、今後、暇で暇でしょうがなかったらどうしよう、とか思いますが、あそこまで真剣に人を愛すなんてまず無理、というレベルの覚悟です。若い男の子ならではの勢いがあります。

「出席番号0番」の日渡千晶。まず最初に出席を取って「今日の日渡」を見つける、というのが面白いし、理にかなっています。納得の出席番号0。
千晶という名前は、男女共用なので、元人格の性別が謎です。肉体的には、男女両方乗っ取れますし、体がないなら、性別という概念自体存在しないのかもしれません。

不思議現象についての科学的、医学的ギミックは、だいたいこんなとこじゃないか?という仮説が書いてあるくらいで、それほど行数割いて説明しません。
『「なぜ?」「どうして?」は、置いといて、こんな世界に住む、彼らの話をしよう!』という作りで、本筋に集中できます。

巨女が、その姿まま幼児化し、おもらしまでするという、かなりニッチな嗜好にもd( ^ω゚ )バッチリ対応!
どれぐらい需要があるか分かりませんが。
「ゴードン症候群」という名称は、「アルジャーノンに花束を」の主人公、チャーリィ・ゴードンが由来なのでしょうか?一般的な人名のようですが、チャーリィの場合、知的障害者→超天才→退行という流れなので、この風邪には合っていると思います。語彙や、使える漢字が減っていく様子も似ていますし。

それぞれの奇妙な現象は、単に萌え的要素を生むだけではなく、結果として、人間関係が修復したり、よりハッピーな世界に作り替えたり、起点と現在地を見失わせて驚きと混乱を読者に与えたりと、ちゃんと機能します。

「三時間目のまどか」は、オチ予想、良い所まで行ったのに、本編の方が一枚上手でした。

最後の話、懐中時計が12時になったら起爆するんじゃないか、と一瞬イヤな予感がしましたけど、それは、別のお話(冒頭の表題作)でしたね。
とはいえ、要素が共通しているので、どこかで繋がっているのかもしれません。

ニトロってそういう使い方もされるんですね、存じませんでした。

テーマ:読んだ本の感想等 - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/12/30(金) 07:03:12|
  2. 読書感想文(小説)

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