野良箱

同人漫画サークル

セイバイン・ベアリング=グールド「人狼伝説」

人狼伝説―変身と人食いの迷信について人狼伝説―変身と人食いの迷信について
(2009/06)
セイバイン ベアリング=グールド

商品詳細を見る

1865年にイギリスで出版された、人狼研究本です。
少なくとも19世紀時点では、リアルタイムで人狼迷信があったようです。

人狼は、人間が狼に変身するものを言いますが、おおまかには2種類あるそうです。
人間の体そのものが狼に変化するもの と 人間の魂だけが狼に乗り移り、その間人間の体は硬直しているもの。

世界各国の神話や民話の中の人狼についての記述が引用してあります。
そういった信仰、伝説は、「事実」という核の周りに形を成したものだ、と著者は、断言しています。
その「事実」とは、「狂気に取り付かれた人間が自分を獣だと思い込んで野獣のように行動した」ということです。

体は人間のままなのに、本人が「自分は狼だ」と妄信し、人を襲い食べる。裁判にかけられても、「自分はその時狼だった」と主張するのです。
彼ら「狂人」は処刑されています。

特にキリスト教圏では、狼憑きと悪魔は結びつけて考えられているようです。
狼憑きは、「狼になっている間、悪魔の手下として行動した」「悪魔から貰った軟膏を塗って変身した」などと証言しています。
また、自称「狼状態」で子供を殺して食べた人は、死刑を減刑された結果、「精神病院に監禁して神の知恵を学ぶ」の刑に処されました。
他の狼憑きにも同様に、「キリスト教の教義を学ぶの刑」を受けた人がいます。
ドイツのある地方では、「人狼に洗礼名で3回呼びかけると人間に戻る」と言われています。

裁判にかけられた狼憑きの人が、「自分は、両親と同様信心深い」と言っていたり、司教の息子が狼の皮を所持し時々人狼になっていると言っていたりします。
つまり、悪魔に対抗してキリスト教を教えれば浄化(?)できる、っていうのもこれまた迷信の上塗りなんだろうなと思えてきます。
狼憑き達は、元からキリスト教の知識があるからこそ、悪魔という概念もあるのではないでしょうか。
彼らが、ガチの精神疾患者なのか、正気で行った殺人の言い訳に悪魔を使ってるのかわかりませんが、根底には既に持っている宗教知識が影響してそうです。
軟膏で変身したと複数の人が言っているのは、当時、「妖術師は軟膏で変身する」と知られていたからでしょう。

なお、狼憑きであるかの判断に、本人が本当に信じているかどうかは関係ないとする意見もあるそうです。

「狼の皮を被る」というのは、北欧神話あたりにもあるそうです。狼や熊の皮を着て我を忘れて戦う者として登場します。
その神話より前のことだと思うのですが、古代、獣の皮を着た無法者が人々を襲い強奪や殺人をしたそうなので、狼の皮を被った人に対する恐怖があったらしいです。

非キリスト教圏でも人狼伝説は広く見られるので、それぞれに何か元になる実話があったのかも知れません。

この本は、途中から実際行われた残忍な犯行についての記述がメインになります。
しかも、食人を伴わない殺人についてもページを割いており、もはや人狼関係ないwとも思いましたが、この本の冒頭から掲げられている、「人間にもとから潜む残虐性」についての例だと思えば、ありなのかもしれません。

前書きでは、「先天的に血を渇望しているある種の人間はいるんだけども、普段は抑圧されている。それが、幻覚症状とともに発露された場合、殺人・人食事件が引き起こされ、人狼伝説に繋がるんだろう」(要約)としています。
そのすぐ後に、「幻覚とも食人とも関係なく生まれつきの残忍性を満足させる為だけに人を殺した人間の話をしよう」と書かれていました。ジル・ド・レのことですね。

ド・レ元帥の紹介だけで、全16章中3章も使っています。「人狼研究には興味ないが、ジル・ド・レに関する記述には興味がある」という人にもお勧めの本です。

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2010/12/21(火) 15:46:57|
  2. 読書感想文(小説)

FC2Ad