野良箱

同人漫画サークル

ボードレール「悪の華」安藤元雄 訳

悪の華 (集英社文庫)悪の華 (集英社文庫)
(1991/04/17)
ボードレール

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以前読んだ、「ボードレール詩集」と恐らく重複していますが、訳者が違うので印象が大分異なりました。

解説によると、初版は風俗壊乱の罪で罰金刑になったそうです。
近代詩の祖ということで、近年発表されている詩と、それほどかけ離れてはいません。

特に日本のV系バンドの歌詞や、ネットに載っている闇詩(暗黒系ポエム)にその流れが引き継がれているように思われます。
実際、闇詩リンク集から飛んでランキング上位のサイトを色々読んできましたが、ボードレールの時代から変わらぬモチーフが扱われていました。

「悪の華」では、醜いもの恐ろしいものが沢山描かれていますが、その中でも最も邪悪で下劣だとしているのは「倦怠」であるようです。
この単語は、何度も登場します。

美しいもの、美しい人についても描かれていますが、割と残酷描写とセットになっている事が多いようです。
「美への讃歌」という詩で「美」は以下のように扱われています。
【おお「美」よ?君のまなざしは、地獄のものか神のものか、善行と犯罪とを区別もなしにそそぎかける】
【死者たちを踏み越えながら、「美」よ、君は彼らを気にも留めない。
 君の数ある宝石のうち「恐怖」もなかなか魅力的だし、
 また、「殺人」も君の好きな飾りの一つ】

つまり、美を聖俗、善悪にまたがるものとして扱っているのです。

死体や蛆虫、悪徳、悪魔についても、同様に、両義的に捉えている様に見受けられます。

「腐った死骸」という大変パンキッシュな題の詩があり、その中身も文字通り、恋人とともに見た死体のことが書かれています。
死体描写は、わざと読者を不快にさせようとしてないか?というレベルに克明です。恋人が気絶しそうになったとまで書いてあります。
が、これも、ただ醜い汚いものとして描いているわけではなく、その中に美しさを見出し、さらには、恋人と自分の愛を謳っているのです。
簡単に書くと、「キミ(恋人)もやがてその汚物(死骸)と同じになるよ!優美の女王よ!キミが死んだあと咲き誇る花の下でカビる時、(この後どう簡略化したらいいか分からないので原文ママ→)おお、恋人よ!こう言ってやるといいのだ くちづけであなたをむさぼる蛆虫に、崩れ果てたわが恋の その形体と精髄とは みごとこの僕がしるしとどめたと!」
です。

ボードレールは悪魔崇拝、怪奇趣味と見られることがあるそうです。
悪魔、サタンについては、完全に崇拝って感じではないですね。
人間を悪い道にそそのかしたり、糸を引いたりするものとして書いてあったりもしますし。
身の回りに纏わり付く悪魔、時に「わが芸術への愛」を知ってか美しい女の姿で現れるその悪魔を吸い込んだ状態は、汚らわしい媚薬を飲まされる、あるいは、永遠の罪深い欲望で満たされる感があるのですが、その後、神の目から遠く引き離された場所で「倦怠」の荒野に置き去りにされるのです。

悪魔に同情したり、共感している部分はありそうです。
サタンを、最も美しい天使から一転、不当に貶められた者として、また、同じように楽園から追い出された者達の養父として、人間の苦しみを癒し、餞民にも楽園を見せる存在として、描いています。
ボードレールも、自分を「楽園の外」サイドの人間だと認識しているのかもしれません。
「おおサタンよ わが長き悲惨を憐れみ給え!」と繰り返しています。

では、天使についてはどう描いているでしょう。
著者は、人間の経験する様々な苦しみについて、天使に「ご存知ですか?」と問いかけます。憎しみや屈辱についてかなり具体的に書いてありますが、最後には「しかし私が願うのは、天使よ、あなたの祈りだけです。ただ幸福と 喜びと 光とにみちた天使よ!」と締めています。
天使を絶賛しているようで、「あなたは何もご存知でない」という皮肉を感じます。
しかし、『天使様はただ「美しく」「ほがらか」で「すこやか」にしていて下さればそれでよい』という願望も全くの嘘ではないのかもしれません。

猫についての詩がいくつかあります。
エロティックな程の描写で猫への愛を綴ってます。

詩集全体としては、グロテスク又はセクシャルな文言や過激な主張が沢山あり、そりゃ当時の検閲にひっかかるわな、というものでした。
詩の描き出す内容としては、一つのものに、相反する感情や意味を同時に持たせるといったアンビバレントの魅力が随所に見られました。

以下、悪の華(1861年版)最後の詩から抜粋です。
【おまえの毒をそそぎこんで 私たちを元気づけてくれ!
 私たちは、それほどまでにこの火で脳を灼かれているから、
 深遠の奥に飛びこみたいのだ、「地獄」でも「天国」でも
 どっちでもいい、
 「未知なるもの」の奥にあらたな何かを見つけたいのだ!】

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2010/12/16(木) 03:12:01|
  2. 読書感想文(小説)

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