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同人漫画サークル

映画「レスラー」感想

レスラー スペシャル・エディション [DVD]レスラー スペシャル・エディション [DVD]
(2010/01/15)
ミッキー・ローク、マリサ・トメイ 他

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【あらすじ】
1980年代に人気レスラー「“ザ・ラム”」として活躍したランディは、20年後、スーパーでアルバイトしながら細々とプロレスをしていた。
年老いたランディだったが、ライバルレスラー「ジ・アヤトラー」との20周年記念試合が決定したことで、これは返り咲くチャンスと奮闘する。
しかし、心臓発作を起こしてしまう。
ドクターストップをかけられたランディは、長年ないがしろにしてた娘ステファニーとの復縁を志し、また、懇意にしている熟女ストリッパー・キャシディとより親しくなろうとデートに誘う。

【途中までネタバレなし感想】
これは、孤独な男の戦いの話ですよ。
しかも、孤独なのは作中本人も言ってますが、自業自得です。
でも、それゆえにまたレスラーであることの必然性や、レスラーでしかいられない感がでてきます。

ストリッパーもレスラーもステージの上で裸になる職業ですので、あえて共通性を持たせた設定だと思われます。
ですから、キャシディがお店の「中」と「外」の世界をはっきり分けて考えている所が、そのままランディにとってのリングとその外の世界、ということにも繋がってくるのでしょう。

序盤のランディのプロレスシーンは、かなり痛々しいです。ぎゃー。
そんな武器ありですか。反則じゃないんですか。大怪我じゃないですかあれ。ぎゃー。

作中、磔のキリストと、傷だらけのレスラーのイメージを重ねてある部分があります。
ランディの場合は、髪型も似てますし。
自分の体を張って、血を流しながら観客を楽しませるレスラー。
うちの教授の持論「ヒーローは、生贄に似た犠牲者の影」という定義がしっくりくる描写でした。
ランディのニックネーム「ラム」は、「生贄の羊」という連想からネーミングされてそうです。

隠し刃で自ら傷つけて大げさに見せるシーンや、敵レスラーと事前に試合の流れを打ち合わせする場面がありますので、プロレスのそういう面は受け入れられないという人にはお勧めできない映画です。

この映画、プロレスの観客が暖かいです。多分、そういった工作とかも分かった上であえて盛り上げてくれます。
ランディは、最盛期に比べて格段に動きが悪いでしょうに、それでも皆ランディが技をかければ声援を送り、悪役がランディに攻撃すればブーイングするのです。
客も一体となってステージを作り上げています。

リング外での敵レスラー達は、みな優しい紳士です。
あらすじだけ聞いた時点では、本気でランディをないがしろにしたりディスったりする若いレスラーがいると思ってたんですよ。「じじいは引っ込んでろ」みたいにいうキャラクターが。
ところが、どのレスラーも、ランディを尊敬し敬意を示していました。内心がどうかは知りませんが、少なくとも表面上は、人生の先輩に失礼のないようにしていました。

アルバイトをするランディの姿は、なんともいじらしく、すこし可哀相に見えました。
別にスーパーの惣菜係事体が侮蔑すべき職業ではないと思いますし、日常見かけても別になんとも思いませんが、ランディは、脱色した長髪でいかにもレスラーですから、20年前の華やかな世界とのギャップがありすぎです。

ランディは、長年筋肉増強剤などを多用してきたようです。それが祟って心臓病に。
一種の職業病なのでしょうか。特にアメリカンプロレスだと。
金髪も地毛じゃないんですね。
レスラーらしくあるために、脱色する訳ですが、最初は美容院(安そう?)でやっていたのが、途中からは自宅でブリーチしてました。
また、日焼けサロンにも通えなくなったのか、日焼けスプレーなるものを肌に吹きかけてました。

衰えつつ微妙に筋肉がついているという、なんとも絶妙な老レスラー体型でした。

老眼鏡や補聴器に、不謹慎にも萌えかかりましたが、それが一層、「おじいちゃん、もうプロレスなんて無理よ!」感をかもし出してました。

試合前にホームセンターで凶器(叩かれても痛くない)を選別しているシーンがかわいかったです。
しかし、そのお買い物も、アルバイトもそうなのですが、ランディは調子に乗りすぎて、周りの一般人を引かせてしまう部分があるようです。

ランディが過去の栄光にいつまでも浸り、1980年代から脱することができないという描写は度々ありました。
たとえば、80年代の音楽を絶賛し90年代以降をコケにする場面、近所の子供と自身がキャラクターとして登場する古いプロレスゲームをやって子供が呆れる場面、新しい映画をまるで知らない所、など。

別に過去に大きな栄光がない人でも、音楽や映画の趣味が数年前で止まってしまうということはよくあると思いますが、ランディの場合ことごとく80年代でストップしているのです。

二人のヒロイン、娘のステファニーと、ストリッパー(彼女未満)のキャシディは、それぞれタイプは違いますがとても美人です。
ステファニーが父親を嫌うのも無理ないわーというランディ父さんであります。

【以下、ネタバレあり感想】

ランディが今までリング上で受けた傷は、あちこち体に残っています。
傷も手術痕も同じ「怪我」と括れば、これがランディが生きてきた証であり、背負ってきた苦しみなのかもしれません。
試合で作った傷は、レスラーにとって勲章ともなり得ます。
しかし、心臓病は、ランディをプロレスリングから遠ざけるものですから、全身の傷の中でも、手術痕が一番大きくて目立つというのは、象徴的に思えます。

ランディは、キャシディに子供がいようと構わないと言いますし、さらに娘に服をプレゼントしたり思い出の地で踊ったりしていいムードです。
これは、「プロレスが駄目でも、最終的に、新しい妻と仲直りした娘とともに家族として暮らしていくハッピーエンドか?」と思いましたが違いました。

ランディの20周年試合に駆けつけたキャシディーですが、見てられなかったのか会場を後にしてしまいます。たしかに、試合でボコられる知人を見るのはきつそうですもんね。特に、元々プロレスへの免疫がない人には。
娘ステファニーとは、またしても関係が断絶しているので、戦うランディーを見守る恋人や家族は誰もいません。

しかし、ランディにはもうプロレスの世界しかないのです。
映画の序盤で傷つき血を流すランディを見て、リング上は、なんて厳しい世界なんだろう、と思っていましたが、ランディにとっては、外の世界の方が辛かったのです。
アルバイトする自分、家賃が払えなくて車で寝泊りする自分、激昂してストリッパーを侮辱してしまう自分、娘との約束をすっぽかして決定的な溝を作ってしまったしまった自分。

ランディを取り巻く外の世界が悪いわけではなく、ランディが性格的に普通の生活を営めない人なようなのです。
だからこそ、リングの上でしか生きられないんですね。

ラストの試合中何度も心臓発作を起こしかけるランディ。
試合相手が、自ら技をかけられたように演じたり、早くフォールしろと急き立てたりします。
これは、観客にも聞こえているし、そうでなくても見ていて分かったでしょう。
それでも静まり返ったり引いたりしない観客がやっぱり偉いし暖かいです。

よろよろとトップロープに上り両手を挙げ、ダイビングするランディのシーンで映画は終わります。
ランディはこのまま死んでしまったのでしょうか。

もし、生きていた場合、果たして今度こそ娘ステファニーやキャシディーと復縁できるのか気になります。
映画を通して描かれてきた、彼の素行を見ているとちょっと難しそうですね。
何十年も駄目だったものが、そう短時間で直せるものでもないんでしょうね。
でも、全く希望が持てないわけでもないです。

よそのサイトさんで、プロレスも映画も虚構だが、そこに本物がある、と書かれていて納得しました。
作り物でも、そこから生み出されるものや、観客の受け取る感動その他の感情は本物ですからね。

ところで、ランディが自分で選んで娘にプレゼントした服は、やっぱりダサい、時代遅れという位置づけなんでしょうか。娘は特に大きなリアクションは取りませんでしたが。なお、キャシディの選んだPコートは気に入ったようです。
それと、ランディフィギュア。キャシディの表情には、「えー、これ、貰ってもどうしろと…」感がなきにしもあらずでした。
外の世界でも一応みなさんランディに優しいですよね。はっきりランディを侮辱しないので。ただし、ランディから暴言吐いたり、ひどいことをしなければの話ですが。
フィギュアについては、キャシディの息子が思いのほか楽しそうに遊んでいたようです。
なお、ランディが選んだイニシャル「S」入りの服をステファニーが受け取った時点で、「これは、娘がランディの20周年試合に、それを着て駆けつけるフラグ!」と予想しましたが、全然違いました。
  1. 2010/12/02(木) 17:04:22|
  2. 雑記

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