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田中森一「反転 闇社会の守護神と呼ばれて」感想

反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫)反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫)
(2008/06)
田中 森一

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「アウトロー文庫」という名前の響きに惹かれて購入しました。
私は、政治や経済の仕組みなどまるでわからないズブの素人ではありますが、読んでいく内に少しずつ理解できていきましたし、その面白味も分かってきました。

特捜検事から弁護士に転進した田中森一(もりかず)が、生まれ育ってから逮捕され服役中の現在に至るまでを綴ったノンフィクションです。

冒頭から「自慢か?」という内容だったのですが、たしかに十分自慢するに値する経歴です。
“自称”凄腕検事と語っているように見せない為か、当時のマスコミに書かれた文章が引用してあります。

貧乏時代の苦労話は、立身出世物語に華を添える意味で書いているのかと思いましたが、それだけではなく、この極貧時代あっての、検事・弁護方針という面が大きいようなのです。

人格的には、温和でも品行方正でもありません。
「もちろん褒められたことではないが」として語っている内容からしても、知的かつ破天荒な人柄がうかがえます。
受験用参考書を買う金がないので、出版社に学校の教師を装って手紙を出し、サンプルと称しタダで貰った、とのことですが、これは詐欺とかに当たらないんですかね?
正義の使者というには、かなり善悪の基準が狂っている方です。
学生時代、女の子目当てに茶道部に入ろうとして断られ、ラブレターでも振られたため、腹いせに茶道部に乗り込んで茶碗をひっくりかえすなど暴れた。と書いてあります。これはひどい。
それは、そうやってちょっとワルぶっていたが、逃げたナンパ相手を追いかけた先で本物のヤクザと出くわしてからはしおらしくなり、法律の勉強に本腰を入れた、というきっかけの前触れとして書かれてるんですけど、普通に荒くれものじゃないですか。しかも、大して反省してないっぽいです。

検事から弁護士になるということは、反対側に回るということなんですけど、学生運動に政治的関心がないにも関わらず空手部というだけでデモ制圧に借り出されたという話、どさくさにまぎれて私服に着替え、デモ側に参加したりもしています。これは、デモをやると男女雑魚寝になったりしてウフフだから、という動機です。
独自の正義感を持っていると言うより、どうも、甘い蜜があればどちらにでも反転してしまう人と言う印象を受けます。

そもそも、エエエエーってなったのは、大学入ってすぐの時はちゃんと勉強しなかった所です。
浪人時代、貧しい一家で兄弟達が働いたお金を集めて仕送りしてくれてたんですよ。それで、「これは絶対に試験に受からなければならない!!!兄弟の為にも!!!」と燃えていたのに、いざ大学入ったら勉強そっちのけで遊ぶってどういうこと!?遊ぶ金欲しさにバイトするってなによ!しかも、兄弟は入学後も仕送りくれてるのに!!!という。
動機と過程と結果のチグハグさは、全編通してありました。
結果、奇跡的にものすごい人生を送ることになっているので、ノンフィクションとしてはとても面白いです。

これ、フィクションだったら、もう少し人物の気持ちと行動に一貫性持たせないと不自然だということで、編集の手が入りそうなものですけど、実話を本人が語っているのですから嘘はないんでしょう。記憶の自然な脚色や故意の捏造もあるかもですが。
そういったブレがまた人間らしいんだろうなと思えました。

検察庁を退官する直前、上司への腹いせに嫌がらせをして結局事件は立件されたなかったがそれでいい、という話を読んで、器がちっちゃいなーおい!いくらやる気が失せたからって、もっと一個一個の事件を大事にしろよー、正義感と情熱はどこに行ったよ!とツッコミつつ読みました。元々正義があってないようななんとも独特の方ですからね。

検事というのは、警察の上げてきた資料を読んで法廷に立つ人、というイメージだったのですが、被告本人への厳しい取調べもするんですね。
刑事ドラマの取調室みたいな感じです。
田中さんは、まず相手を大声でどなりつけて灰皿を投げつけます。なんという乱暴な。それでいいんでしょうか。
しかし、そういうやり方で、エースに上り詰めました。自白させるのが大変うまく、他の検事には落とせなかった相手の本音を引き出したりできています。
恫喝だけではなく、はったりも使います。「おい手錠もってこい。よし、ここに手錠がある。今すぐその書類やぶってみいや、手錠かけたる。」的な一か八かの賭けをしたり。これ、本当に破かれてしまったら公文書破棄かなんかの教唆に問われる可能性が大だったそうです。
危ない橋を渡りますね。読んでて面白くはありましたが。
銃刀法絡みでシラを切るヤクザには、「これがあんたの刀だろ」と現物を手渡しました。田中さん本人はあまり意図してなかったそうですが、ヤクザは、「刀を手にした俺がそれを抜いて斬りかかるかもしれないのに、ポンと渡してくるなんて、俺を信用してくれてるんだ!」と思い込み心を開いてくれました。

弁護士になってからは、社会的悪人に対してお人良しすぎます。暴力団構成員に執行猶予をつけるために嘘の証言を吹き込んだり、法の抜け穴を教えたり、偽のヤクザ破門状を作成させたりと、正攻法ではありません。
株の仕手にも乗っかりますし、もらえる金は「お車代1000万円」とかバンバン受け取ります。(多分公務員に対する見返りを求めた金、とかではないので贈賄には当たらない)
手形の裏書も割と気軽に引き受けてますし、それなら自分で意図しなくても犯罪してしまっていそうです。
これは、悪徳弁護士と揶揄されてもしょうがないかもなー、な内容でした。
しかし、そういう人ではなかったら、特捜のエースにもなれないし、大物政治家やヤクザ組長とのパイプも持てなかったんでしょうね。
犯罪者や社会の落伍者に甘いのは、彼らの生い立ちや抱えるコンプレックスがかつての自分と似ているから同情してしまう、俺が立ち直らせてやりたい、というのがその理由だそうです。金の為にと、法に対して不誠実を働いてなどいない、と主張しています。

この人が偉いなーと思うのは、関わる事件に関して自分に知識がなかった時にちゃんと勉強する所です。
経済犯罪を扱うことが多いため株を買って取引について身を持って体験してみたり、容疑者が隠れゲイだと分かれば、ゲイ雑誌を読み込んだりゲイバーに通ったりするのです。

ただ、この容疑者がゲイだという件、さらには、大学に忍び込んでは男子学生柔道着やジャージやまわしを盗みコレクション専用の部屋まで借りていたという話、男達と逢引していた事実など、公判では一切隠してるんですよ。
なぜなら、本人が今にも自殺してしまいそうなくらい追い詰められていたからです。妻子ある身でゲイだとバレたら生きていけない!と。それで、田中さんと弁護士と裁判官3人だけの秘密にして、文書上は、デート相手などの「男」を全て「女」に書き変えたのです。これも、本当は何かの偽証罪とか公文書偽造罪とか調書改竄的なものとかにあたりそうな予感ですが、まあ、それはおいといて、とにかく、大事なのは、この被告の為に、事実を秘密にしておく、ということなんです。当時の田中さんも、この事は世間に公開できない!しない!と決意していたみたいで。
でも、この本(ベストセラーにもなったらしい)に書いちゃったら、特定されちゃうんじゃないか!?とかなり心配になりました。
エピソードとしては、意外性と人情味があってとても興味深かったんですけど。
汚職事件当時の役職と、その後の再就職業種までかかれてますから、分かる人には分かるでしょうね。

同和問題について取り上げられていました。部落差別ですね。それと在日韓国人の話。
この本では、差別問題そのものの訴訟とかはないのですが、逮捕され起訴されてきた容疑者が同和出身というケースが多いみたいで、同和話に触れてます。
ブタや牛のと殺って、ごく最近でも棍棒で殴り殺しているんですね。電気ショックだと肉の味が落ちるそうで。
先祖代々そんな職業という人なら、殺すのも慣れたもんだろうと思っていたら、牛の哀れな目を見ていると罪悪感がとんでもなくあって、俺はなんでこんなことしなくちゃいけないんだ!でも他のものになんてなれないし!というような大変苦しい思いをするそうです。
被差別地域出身だとまともな就職も難しく、そんな中成り上がれるのがヤクザの世界や犯罪しかない、という場合も少なくないんですね。

仲良くしていて一緒に逮捕された韓国人のエピソードがでてきます。(なお、一度も顧問弁護士になったことはない。)
田中さんの主張としては、「もし俺が在日だったら参政権取る活動するけどね、税金払って義務果たしてるんだし、国会に在日を沢山送り込めば事態も変わるかも」なんですけど、当の在日韓国人は、「参政権なんていらんし帰化するつもりもない、俺は韓国人なのでいつか日本で稼いだ金を持って帰るし、日本と戦争になったら韓国人として戦う」と言っています。そういう考えの人もいるんですね。その韓国人も、大分差別されてはきたようです。

被差別により、犯罪に手を染めるしかなかった同和出身者や在日韓国人が、その犯罪で有名になってしまうと、さらなる差別感情を生みだしそうだから厄介ですね。悪循環です。

銀行に関する犯罪がこんなに多いとは知りませんでした。特別背任というのは、大まかな概念としては、「株式会社の役員などが第三者に利益を与えるため、あるいは誰かに損失を与える目的で任務に背く事」をいうみたいですが、銀行員の特別背任でメジャーなのは、「回収の見込みがないと分かっている相手に多額の不正融資をして会社経営に金銭的打撃を与えること」ことらしいです。
田中さんの扱う事件には、これがとても多いです。

で、その中に、平和相互銀行から不動産会社(山口系暴力団関連企業)への多額融資事件があったのですが、実はこれは特別背任ではなく、不動産屋に脅されて多額融資してしまっただけなのではないか?つまり、融資した銀行員は特別背任の加害者ではなく、実は恐喝の被害者なのでは?という疑惑の事件があります。
取調べでいくつもそういう証言があったのですが、それだと銀行経営者を逮捕できないので検察の圧力でもみ消されました。
なんとしても、銀行側を捕まえたかったようなんです。それはなぜか。
以下、田中さんの憶測に過ぎないかもしれないんですけど。
当時、関西を地盤としていた住友銀行は、関東進出を目論んでいました。そこで、平和相銀の吸収合併話が出てくるんですけど、事件により平和相銀が破綻したことで、住友銀行が東京の店舗をまるっと頂いて業務を拡大したのです。
検察と住友銀行には古くから関わりがあり、大阪で検察庁を退官した人が弁護士になる時、読売新聞と住友銀行が数十社の顧問先をつけてくれるという習わしがあるのです。さらに、検察上層部とも定期的に食事会をしていた。
このことから、検察庁としては、住友銀行の関東進出を助けるために、平和相銀を捜査し、検事はその為に奔走させられたのではないか、と考えられるのです。

バブルに伴い成金になった、バブル紳士達が登場します。田中さんもその一人なのですが、彼らの共通点は、学歴が低かったり、実家が貧乏だったり、裸一貫で商売を始めて成り上がったり、と、元々はお金持ちじゃなかった人達なんです。
金を持つことに慣れていなかった彼らは、貧しい過去の反動もあってか、つい周囲に金品をバラまいたり、豪遊したり、不必要な高額の買い物をしたりして、やたら金を使ってしまうのです。(元から金持ちの人は、堅実に貯め込む場合が多いらしい。)
ちょっと食事に行けば、一晩で100万円が飛びます。
学生時代参考書もろくに買えなかった田中さんが、7億円のヘリコプターをポンと買ってしまうのです。
このヘリは一度しか乗っていないということで、地道でまっとうな人ならやらない買い物ですね。こういう栄光や周囲からの賞賛とかそういうものに酔いしれる部分もある人みたいです。
皆が頭を下げてくれる、とか、熱烈な歓迎を受けた、みたいなくだりも作中多いですし。

田中さんが、もし、大人しく金を貯めて、少しずつ世の為人の為に遣う、みたいな超善良な方だったら、「極貧からバブル紳士へ」という触れ幅のインパクトがまるでなくなるので、これくらい象徴的なエピソード(ヘリ購入)があった方が、よりジェットコースター感があって面白いですね。

逮捕された件については、古巣の検察庁に敵視され、やっかみで陥れられたっぽく書かれています。
少なくとも、検事時代の同僚(上司だったかな)とは途中から折り合いが悪く、事実、「田中を潰せ」「田中をパクれ」というおふれが出ていたそうです。
特に両者の溝が決定的になったのは、田中さんが弁護士時代に、検察庁で被疑者への暴行事件が起ったことです。
取調べの際、過度の暴力を振るった検事がおり、かなりの大怪我を負わせました。田中さんは、そのことを別に告げ口しなかったのに国会でも取り上げられる問題になって、それは田中がバラしたせいだ、と検察庁が思い込んでいた、と本には書かれています。その暴力検事の上司が、田中さんを目の仇にしている検察庁職員という因縁です。
詐欺に加担したとされている田中さんの事件ですが、言い分が正しければ、事件とはいえないレベルです。むしろ、普段やってる金銭のやりとりや株取引、弁護相手との関係の方が法抵触ギリギリな感があります。

ただ、弁護相手に嘘の証言をさせたと堂々と本に書くくらいの人ですから、自分自身に都合の悪い情報は伏せ、捻じ曲げて書いている可能性もありますね。
まさに詐欺行為の実行そのものであるとされる「田中さんの法律事務所からかけた電話」ですが、通話時間が短すぎて、とてもじゃないけど、相手に200億円の保証をするよう説得するのは無理だろう、という話です。
これは、「事件がでっちあげである」という主張として真実味があります。通話記録は、公式のデータみたいですし。

偽証言といえば、検察庁、とくに東京特捜部の捜査はかなり悪質な感じですね。
というのも、おおまかな下調べから筋書きを作り、先に法務省本省に提出します。これは、国会質問の際に材料となります。
その後、実際の調査で思わぬ証言や隠れていた事実が出てきて事件の様相が変わったとしても、変更がきかないんです。
だから、結果ありき、お望みの台本通りになるように、証言を誘導していくのです。
犯人とされている人に、「あの日お前は、ここに行って、これをした」と何度も読み聞かせることで、最初はもちろん事実じゃないと否定する被疑者も、数日後には偽の記憶が定着してしまって、「そういえば、私、あの日ここに行って、それをした、かもしれません。」などと証言しだしたりするのです。こうして自白を引き出したりするという手法は日常的に使われていたようです。
検察官は、まず事件の真相を明らかにして、それに基づいて罪の度合いを判断、求刑していくみたいなイメージだったんですけど、実際には自分らで事件を創る、もしくは、現実の出来事を相当脚色、プロデュースしてしまっている場合があるんですね。
大阪地検より、東京特捜部の方が、その傾向が強いようです。国会議員などの要人とダイレクトに繋がる事件を扱うため、下手に本当のことを公表すると、体制がひっくり返ってしまう場合もあるので、慎重にやらねばならぬそうです。
検察庁は、法務省の管轄なので、体制の内側にいるのです。

株の世界というのは、ギャンブルみたいなもので、ほとんどイカサマみたいな手を使う集団もいるんですね。
田中さんもそれに参加、協力してたりしますが違法ではないようです。こういうのを仕手屋というみたいです。
まず何人かの資産家でグループを作り、マイナーで実際資産価値のあまりなさ気な会社のクズ株券を大量購入します。
その後、インサイダーもどきというか、風説の流布もどきというか、「あそこの会社今度株価上がるよー」、とか、「ここだけの話、買収話が持ち上がっていてさー」、とか、「あの会社の株は買っておいた方が今後特らしいですよ」、とかの噂を流すのです。口コミで広がったり、あとは、業界紙みたいな所にそれを匂わせたことを書くとか。それで、株価を吊り上げておいて、仕手仲間が売り抜ける、しかも皆同時だと怪しまれるから、証券会社も別々にしておいて、「あなたはいつ売って、あなたはこの日に」と予定を振り分けるのです。そうして、全く繋がりがない人達のように装うんだそうです。
話に乗せられた一般株主は、紙くず同然になった株券を握りしめてポカーン、と取り残され大損、という仕組みです。
まさに、マネーゲーム。
で、仕手仲間が全員儲けられるかというとそうでもなく、誰かは必ず損をすることになっていて、そのババを誰が引くかみたいな駆け引き、脚の引っ張り合い、抜け駆け、などドロドロ内幕劇が展開されるようなんですよ。
人間不信になりそうな儲け方ですね。

現在服役中の著者、田中さんは、社会貢献の為の奨学財団設立を目指しているみたいです。
田中さんの信奉者は多いから、強大なバックアップが得られそうですね。
しかし、金銭が絡むことになると、また厄介なことになりそうな予感もします。

ここまで極貧と金持ちを両極端に経験し、金銭感覚も激変、戦後経済と共に象徴的な人生を歩み、裏社会や政治、経済と関連を深く持った人もそうそういないでしょうから、いや、もしかしたら田中さん一人しかいないわけですから、出所後は、こういった分野のフィクションを書いたり、または、そういう映画、小説作品の監修をしたら良いと思います。
実用書もいくらでも書けそうですしね。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/10/16(土) 01:34:36|
  2. 読書感想文(小説)

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