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伊藤計劃「メタルギアソリッド ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」

メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット (角川文庫)メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット (角川文庫)
(2010/03/25)
伊藤 計劃

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【あらすじ】
BIG BOSS(ネイキッド・スネーク)の遺伝子から生み出された3人のクローン。ソリッド・スネーク、リキッド・スネーク、ソリダス・スネーク。
ソリッド・スネークは、極端に老化していた。原因は、人工操作された遺伝子だった。
さらに、FOXDIEという特定の人間だけを殺すウィルスにも感染していた。
黙っていても老化で死ぬのに、スネークのタイムリミットはさらに短い。
というのも、FOXDIEが変異すれば、誰にでも感染するようになり、スネーク本人が生物破壊兵器と化してしまうのだ。
遅くても数ヶ月後には、自ら命を絶たなければならない。
戦士が必要とされる楽園を目指したというBIG BOSSを越える為「全世界的な戦場」を作ろうとするリキッド・スネークを、老いたスネークは、止められるのか。

【途中まで、ネタバレなし感想】
ゲームはPWしかやってなくて、この本の原作にあたるMGS4は、一部、人のプレイを見たり音を聞いたりしただけでした。

この本では、MGS4だけでなく、シリーズ過去作の戦い、人間関係についても描写してありますので、ゲーム未プレイの人でも話が見えると思います。

通常、ゲームやアニメ、映画のノベライズと言うと、セリフと状況説明、キャラの動き、表情などのト書きで成り立っている、台本、脚本、といったものになると思うのですが、この本は、思いっきり小説!です。
地の文(セリフ以外)がすごく多くて、これは、作者さんも普通のノベライズっぽくない、重い、と分かっていて書かれたようです。
が、この重さ、長さがとてもよいです。

ラストの締めは、原作ゲームが訴えたかった主張を、素直に汲み取った文章のように見えます。しかしそれは、ゲーム製作者である小島監督ですら気づかなかった作品の側面を浮き彫りにしたものだったのです。(監督あとがきより)

語り手をオタコンにしたのは、伊藤さんの判断です。
完全な三人称小説より、ずっと良い形式だったと思います。
同じ物語でも、様相が変わってきます。
オタコンの目を通して描かれたメタルギアの世界です。
スネークを身近に感じますし、その場面場面の緊迫感や安堵感が一層強く、臨場感を持って伝わってきました。

舞台は、世界の紛争の過半数を、民間軍事会社(PMC)の軍備が担っているという近未来です。
戦争は、巨大なビジネスマーケットになっています。
戦士や武器は、全てID登録されており、また、兵士の体調、精神面はナノマシンによりモニタリング・調整されています。
金を生み出す戦争には情報が必要です。
悪役に当たるリキッド・スネーク(オセロット)は、その情報統括システムを手中に収めようとしているのです。

貨幣・情報・経済という概念上のものが独り歩きをして、個々の人間を制御・支配する事は、正しいことなのか。そして、その世界を望んだのは誰だったのか、というのが描かれていると思います。
これは、十分現代にも通じるテーマです。

物語の大きな流れとは別に、人間が生きるということ、物語を描き語ること、という部分についても述べられています。

ストーリーとその語り口がダブルで心に響き、終盤5~6回涙しました。
物語そのもの以上に、何か大きな力、小説の可能性を感じました。

作者自ら、この小説にはメタルギアへの「批評」も含むと語っています。(あとがきより)
確かに、ゲームへの愛あるツッコミ、みたいなものも感じました。が、それは全く嫌味ではありません。笑いに包んであるなど、うまいことやってました。
例えば、女性兵士が、自分の出生を語り、再婚した父への不信感をあらわにする場面、スネークの内面描写として、「生死や世界の命運やら様々なものがかかったこの状況下で、不倫だの再婚だの、ある意味ひどく下世話なやりとりをしている自分たちが素晴らしく場違いな存在に思えて、そんな自分に呆れた。」とあり、その後も、他の兵士達が居心地悪そうに視線をそらしたり武器の点検をしている様子が書かれています。
よく、映画を見ていて「この状況で、そんな話してる場合じゃないだろ!!」って思うことありますが、作者のゲームMGSに対するそういった思いを、小説の地の文章で表現しているのではないでしょうか。読者からの反応も予想しつつ。

オタコンは、ずっと迷彩ステルスの小型ロボット(メタルギアMk.Ⅱ)から送られてくる映像を見ているので、スネークの表情や周囲の状況を語ることが出来ます。しかし、スネークの内面まではモニターに写りません。多分。ですから、スネークの考えとして書かれているものも、「オタコンの思う『スネークはこう思った』」なんでしょうね。

それにしてもオタコン、よくこんな時に女性の誘惑に乗るな…と思いました。しかも、サニーや義妹について話した直後ですよ。もっとウブな男だとばかり。

支配された世界と、解放された自由な世界。どちらがより幸福なのか、現段階では判断できません。
なんにせよ、両極端はよくないかもしれませんね。

武器や兵器、戦艦などについて、リアル世界での戦歴や役割、特徴などが書かれていますので、ミリオタの人が読んでも面白いのではないでしょうか。
私は違いますが、それでも、へぇー、あの戦争でそういう風に使われたんだー、などといちいち感心していました。そういう部分でも、小説に厚みが出ていたかと思います。

常に腹の具合が悪いジョニー秋葉は、本編でもコミカル・ギャグ担当だったかと思いますが、小説でもそうでした。色々笑えました。
兵士をコントロールするナノマシンを停止させてもアキバだけ平気な理由は、ゲームと同じですが、ゲームでははっきり本人のセリフで言っていたところを、地の文による伝聞形にしてありました。
きっと、ここ以外にも沢山の変更点があるんでしょうね。ゲーム→小説の間で。内容は一緒だけど、語り方が違うのです。

この本を読んで、伊藤計劃さんの第一作「虐殺器官」が、いかにMGSの影響を強く受けて書かれたものか分かりました。

【以下、ネタバレあり感想】

兵士達がナノマシンを停止すると苦しむ理由は、それまで戦闘中に除外・抑制され続けたトラウマ、恐怖、罪悪感、後悔、怒り、哀しみなどの感情が解放されて、自らの精神に心を押しつぶされるから、でした。

ということは、ジョニー秋葉は戦場において、その都度、自分の感情を受け止めて来ていたということになり、本当は、とてもタフでかっこいい男なのでは?と思えてきました。お幸せに。

抑制→解放ということでいえば、「愛国者達」のAIが働かなくなった直後の世界も同じでしょうね。
相当数の兵士が反動と後遺症で苦しんでそうです。

人々の意識、習慣の集合体が「愛国者達」AIだったのならば、戦争と統制を育てたのも人間だったのかもしれません。

対IA用ナノマシンの名前がFOXALIVEだというのが良いですね。DIEとは反対です。「かつて捕らえたFOXを野に解き放つ」という由来も、物語の展開と一致します。

「物語の中に作者自身は入れない」とありましたが、一方で、作者は、物語のそこここ全体に拡散、存在している、というイメージも受けますね。
この本にだって、伊藤計劃さんのMGS愛が込められているでしょうし。もちろん、伊藤さん本人は作中には登場しませんし、自分語りも一切しません。

メリルの父キャンベル大佐が、雷電の元恋人ローズと再婚していたのは、ローズが若くてかわいいから、ではなく、ローズとその子供(雷電の実子)を「愛国者達」から保護する目的だったんですね。
ただの浮気不倫ロリコンエロ男ではなかったのです。

ドレビンのRATPT01(ラットパトロールチーム01)が並び替えると、PATR10Tとなり、「PATRIOT(パトリオット=愛国者)」と読めると言うのは、面白いアナグラムでした。

一番驚いたのは、オタコンが語りかけている相手でした。
てっきり、オタコンの言葉は、この本を読む読者(私やあなた一人一人)に向けられているのだと思っていました。
が、実は、「サニーが外に出て初めて出来た友達」に向けたものだったのです。
冒頭3ページ目の「ぼくはきみに、それを語りたい。」の「きみ」っていうのは、その男の子だったのかー!あー、気づかなかったー。

伊藤計劃からこの本を読む読者へ。オタコン(ハル兄さん)からサニーの友達へ。
物語は、二重に語られていたのですね。ちょっとした叙述トリックですよこれは。

【以下、少しだけPWネタバレ




PW以外のMGSシリーズはプレイしていないもので、その後がどうなったのか全然知らなかったんですけど、プレイヤーとして作った私設民間軍「MSF」が傭兵派遣会社「アウターヘブン」と名を変え、さらにネイキッドの遺伝子を継ぐ者につぶされたんですね。
PWをプレイする中で、いつの間にかPMCの元祖を作りあげてしまったとは・・・!


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テーマ:オススメ本!! - ジャンル:本・雑誌

  1. 2010/09/22(水) 17:49:18|
  2. 読書感想文(小説)

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