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ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」 安井泉=訳・解説

鏡の国のアリス鏡の国のアリス
(2005/12)
ルイス キャロル

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【あらすじ】
飼い猫ダイナの二匹の子猫のうち、黒猫の方と遊んでいたアリスは、鏡を通りぬけて別世界に迷い込む。
しゃべる花の園を歩いていると、初対面時より大きくなった赤の女王(チェスの駒)が話しかけてきた。
見渡す限りの平野は格子状になっており、それは巨大なチェス盤だった。
アリスは、白のポーンとして参加することになる。
道筋とそこで起ることは赤の女王があらかじめ教えてくれた。

【途中までネタバレなし感想】
「不思議の〜」よりは、とりとめなくはないです。

読み返してみると、冒頭から伏線が散りばめられており、しっかりとした構成になっています。
全体の流れがチェスのゲームをなぞっているようです。
私は、ルールが全く分からないのですが。

物語は、序盤で赤の女王が言った通りに展開するため、行き当たりばったりではありません。

チェス盤がそんなに大きいとは思っていなかったので、「3マス目では汽車を使う」と聞いた時は「??」となりました。

この本に出てきた造語は、生物進化論や言語学にそのまま使われているそうです。
ありそうでなかった概念を上手く言葉にしていたんでしょうね。

赤の女王は、「ここではじゃな、同じ場所にとどまるには、全速力で走り続けるしかないのじゃ。どこか別の場所に行きたいのなら、せめて全速力の二倍の速さで走らないとならぬのじゃ!」と言います。
たしかに、女王に手を引かれてさんざん走ったアリスは、さっきと同じ場所にいました。
そのわりに、そのエピソードの前後では、普通に移動しています。

アリスは、「君は、あそこで寝ている赤の王様が見ている夢の中の住人だ」という意のことを言われてしまいます。
夢を見ている(かもしれない)主が世界の外にいて認識できないのではなく、目の前にいるというのが奇妙です。

この物語の中で一番悪夢っぽい描写だと思ったのが、アリスがどの棚を一生懸命見ても、目をやった棚がいつも空で、その周りの棚には物が溢れている、という箇所です。

ハンプティダンプティとその詩は、アリスが初出ではなく、イギリスの子供にはおなじみの伝統キャラクターであるようです。
その詩どおりにハンプティダンプティは塀から落ちて壊れたか死んだかした模様です。

アリス、ジャバーウォックと戦わないんですね。出会いもしません。詩の中に登場するだけの生き物なんですね。
今年公開された映画と全く違います。あれだけクリーチャーらしい生物出しといて、主人公と接触させないとか、珍しい作話法かもしれません。

大工とセイウチの話ですが、「食べられた牡蠣がかわいそうだ…」と涙目のセイウチの方が、たくさん牡蠣を食べていたっていうところが、何か、現実にもそういうことあるよね、と思いました。

アリスがプティングを切り分けた時に、プディングが「このわしが、あんたから一切れ切り取ったとしたら、あんたどう思うかね。まったく、この恥知らずが!」と言うのですが、漫画「あずまんが大王」の「ちよちゃんのお父さん帽子」(榊さんが見た夢)を思い出しました。

白の女王さまが「未来の記憶」を持っているというのが面白かったです。さも当たり前に、「それは、再来週に起ったことよ」などと言います。
未来人なわけでも、予知能力を持っているわけでもありません。記憶が過去と未来両方に働くというだけなのです。

【以下、ネタバレあり感想】

アリスは、黒猫と遊んでいる間に寝てしまったんでしょうね。
物語は、アリスが目を覚ます所で終わります。
鏡の国は夢の中のお話ですが、夢オチのがっかり感はありません。
「赤の王様は私の夢の一部なのよ!(中略)でも、わたしだって、赤の王様の夢の一部でもあったのよ!」
というのが、なんとも哲学的というか、深読みできそうなセリフです。

現実の人生も、誰かと誰かは、相互の主観の一部である、と言えるんでしょうね。

最後に添えられた文は、キャロルが、アリスのモデルになった姉妹達に物語を語った時の情景なのでしょう。おちゃらけた言葉遊びもなく、ただただ美しいまともな文章です。
ただ、解説に、原文文頭のアルファベットを並べると「アリス・リデル云々〜」という文章になっていると書かれていたと思います。(※本が既に手元にない為未確認です。)

ラスト、赤の女王が黒猫で、白の女王が白猫だったのだろう、ということが分かった時、なるほど、だから鏡の国の詩には、海の生き物に関する単語が多かったんだ、と納得しましたが、読み返してみたら、鏡の国に入る前に、アリスは黒猫に向かって「ごっこ遊びをしましょう!おまえが赤の女王よ。」って言ってたんですね。
この物語が、ちゃんとオチと導入を固めて連動させているのが分かります。
鏡の国で、双子のうち一人が傘に絡まったのを見たアリスは「お魚さんみたいね」と言います。話の中盤でも、海産物のイメージをわざと挿入していたんですね。

不思議の〜では、むこうの国に行ってからもしばらく飼い猫ダイナのことを思い出していましたが、鏡の国では、飼い猫達のことを一切考えませんでした。
少しずつではなく、いきなりスパっと向こうの世界になじんだ感があります。
猫は、アリスにとっての現実を象徴していそうです。

テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/08/08(日) 08:57:12|
  2. 読書感想文(小説)

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