野良箱

同人漫画サークル

J・M・G・ル・クレジオ「地上の見知らぬ少年」

地上の見知らぬ少年地上の見知らぬ少年
(2010/03/18)
J・M・G・ル・クレジオ

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ジャンルとしては、長編エッセイということでして、物語性やストーリー性は皆無です。

長い詩のような本で、作者の考えが延々と書かれています。

雲、空、光、海については、何度も書かれています。重複してます。
はっきりとした章立て、段落分けにはなっていません。
「私は、雲が好きだ。」みたいな感じでしょっちゅう出てきます。

この作者は、人間の人間らしい欲望やよろしくない感情、名誉、金、地位といったものにこだわる俗っぽいものが大嫌いです。
その分、それらに無関心な大人(もはや世捨て人?)や子供を神聖視しています。
子供の目で世界を見たい、というのが、この作者にはあるのだと思います。
が、子供は5歳も過ぎれば、そこまで純粋無垢ではなく、様々な思惑や戦略や不安や自我を内包していて、もはや、世界を見たそのまま受け入れることは出来ないのではないでしょうか。幼い自分の記憶だとそうなのですが。

「子供のまなざし」というものにこだわりがありそうです。
広告などで、子供がじっとこっちを見ている写真を見ると、確かに何かを見透かされている感じはしますけど、その子が本当にどう考えているのか分からないですね。
受け取る印象は、キャプションに左右されます。

作者、および、見知らぬ少年は、どうやら、自然物の中に溶け込み、光あふれる世界いっぱいに拡散していきたいようなのです。

一人称「僕」で展開する部分は、まんま、作者が語ってると取って良さそうです。
時々、三人称「少年」で書かれる「見知らぬ少年」パートがあります。
「僕」の箇所より「少年」の部分の方が好みです。
本の開始早々「少年」の細かい描写がされるのですが、それがとても美しいのです。

手元に本がなくて細かくは覚えていないのですが、少年と雷と夜のあたり、描写が良かったです。

全体的な特徴として、虫や岩や草木などの自然物の話をしている所に、突然、道路やタンカーや車などの人工物の話が突っ込まれている、というのがあります。
別に、「僕の好きなあるがままの状態を人間が壊してる!調和が乱れた!気に食わない!」という不満や警告の意図は感じません。
自然物と人工物を同列に並べて書いてあるように見えました。
メリハリがあると言いますか、ダイナミックな印象を受けていいなぁと思いました。

「オレンジ」一つでよくこんなに長文かけますね。
オレンジをナイフで切るということに関して、本当は僕らがオレンジの中にいるのではないのか?と問う所が文学者らしく、言葉の扱いがきれいです。

「神」が出てくる他、どこか宗教っぽい感じもしますが、特定の教義・団体は出てきません。
思想、哲学を突き詰めるとそういう雰囲気になることは良くある気がします。

この作者クレジオ氏、「人文学」が大っ嫌いです。
文化人類学や民俗学、社会学などですね。(哲学や美学など、この本でやってるような内容も、人文学に含まれるらしいですが。)
ええー、私、そういうの結構好きなのにー、と思いましたが、それがクレジオ氏の信念なのですから仕方ありません。
彼は、人文学の何が嫌いなのかと言えば、太古から空や自然と対話し、自分達の作り上げた神話とともに生き続けてきた、時として生贄なんかで人命を捧げてしまうこともあるような未開の民族を、研究解析するということが大変的外れでおこがましいというのです。そんなの外の人間にできるわけない、無理、と。
ああ、確かに腐女子が、「頼むから腐女子研究とか、人はなぜ腐女子になるのかとか、分類したり、説明したりするのやめてくれない?ほっといてよ。」とぼやいているのを聞いたり見かけたりしたことがあります。
私は、そのような研究好きなんですけどね。答えは出ないかもしれないけど、統計とって考察してみる感じとか。

言葉をつづり操るのが小説家のお仕事ですが、彼は、言葉に縛られてしまった人類というものに否定的です。
職業とその主張がどこか逆説的ですね。
一方で、各国の言語から受ける印象を書いたり、美しいとも感じているようです。音楽としての言葉に注目しているんですかね。

色々なことについて、半ば取り留めなく書かれた本ですが(本当は、すごく計算しつくした構成なのかも)、中には、自然科学、化学、物理学、心理学に属するような話題もあります。
しかし、作者はそこまでそれらの学問に沿って書いているわけではなく、自分なりの感性で見た世界について詩のように綴っていますので、事実と異なる場合もあるでしょう。
この本の文章の何箇所かを総合すると、何を真実とするかは、その人のとらえ方次第だから、そもそもあらゆるものに名前をつけ、法則を見つけ、分かった気になるのはどうだろう、ってことだと思います。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/07/20(火) 21:49:12|
  2. 読書感想文(小説)

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