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ガス・ヴァン・サント監督作品「エレファント」感想

エレファント デラックス版 [DVD]エレファント デラックス版 [DVD]
(2004/12/03)
ジョン・ロビンソンアレックス・フロスト

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【あらすじ】
高校における銃乱射事件を題材に、様々な高校生の日常を描く。

【途中までネタバレなし感想】
この映画は、なぜ悲劇は起きたのか、その動機は、再発防止策は、そういったことを一切描いていませんので、銃乱射の真実が知りたいという人には向いていません。

エレファントというタイトルですが、作中だと、金髪の少年ジョン(地毛じゃなくて脱色してる?)が着ているTシャツに象の絵が描いてあることくらいしか関連がありません。
元からある映画「エレファント」と似たアプローチで描いていることや、象に関する諺などの意味も含んでいるそうですが、パっと見た感じ、象はほぼ無関係です。

この作品は、明確な主人公や、物語の主体がいません。ナレーションもなかったように思います。
テロップとキャラクターの名前はでますが、視点が拡散しています。
私は、癖っ毛で眼鏡で猫背でジャージの下を脱いで短パンになりたがらない暗くてダサいと馬鹿にされている女の子に一番注目してしまいました。
彼女と対照的な三人娘は、噂話や男の話が好きなイケてるオシャレ女子です。
なんという格差…!と思って見ていましたが…続きは以下のネタバレゾーンで。

他にも、ボーイフレンドと会う約束をしている女の子や、同性愛・異性愛会議に参加している少年、写真を撮る少年、撮られるカップル、などがいました。
この映画は、ストーリーのアウトラインが決まってるだけで、セリフは役者のアドリブだったそうです。
全く気づきませんでした。

通常、物語はあるセリフや行動が重要な意味を持っていたり何かを象徴していたりして、それがテーマや結末に繋がると上手い事行ってるなぁと感じますが、この話の場合、登場人物たちの会話は、全く後に続きません。
監督インタビューでもおっしゃってますが、その場限りで完結する、かなりどうでもいい日常の一幕です。

銃乱射の起きた理由も全く分からないのに、どう解釈すれば良いか戸惑う方も多いのではないでしょうか。
何を感じ取るかは視聴者の自由ということでしたので、私としましてはとある一種の「装置」であると捉えることにしました。この事件を。

イケてる女の子達、トイレで吐いてました。食べたら吐くことでダイエットでもしているのでしょうか。あんまりそれが過ぎると過食症ってことになりそうなんですけど。

象徴的に流れるベートーヴェンのピアノ曲すら、出演者がアドリブではじめたことだというのは驚きです。
てっきり、監督が意図して指示しているものと。

人物が歩いているカットをずっと後ろから追いかけるように撮影している場面が何度も出てきます。
監督インタビューによれば、通常はカットする部分をあえて残すことで現実感を出したとか。
とても印象的で、しかも、いまいちだれが銃乱射する人なのか顔を覚えていなかったので、各キャラがこの後事件起こすんじゃ…と勘違いしながら背中を見つめていました。

写真の現像している様子も、化学兵器テロの準備だと思ってましたし。思い違いもいいところです。

この作品は、場面の時系列がバラバラです。
事件直前と、それよりもっと前の場面が混じっているのですが、見ていく内に、ああ、あの場面の裏ではこういうことが起こっていて、さっきのあのシーンの続きにこれが起ったのか、などと分かるような作りになっており大変面白かったです。

監督がゲイであることもあってか、ゲイに関する話題や同性愛的表現も含まれます。

映像の色合いや空の様子が綺麗で、また、人の声や物音や音楽など、音全般がクリアーでした。
音にエフェクトをかけて心理描写をしている所もありました。

【以下、ネタバレあり感想】

事前のイメージでは、一番主役っぽいジョンが事件を引き起こすまでの物語かと思ってたのですが、全然違いました。

この映画における銃乱射は、「何の気なしに、まだまだ人生は続くと思って漫然と暮らしている数人の人生を突然強制終了させる装置」として登場したように思えます。
それ以上の意味は特になくて、純粋にその為だけの機会として。

人間、突然の病や事故、事件、自然災害で命を落とすことがあるんです。
でもその前触れなんてありませんし、その日に備えることもできません。

藤子・F・不二雄のSF短編漫画に「ある日…」というものがあります。
これは、4人の男が8mmの自主制作映画を持ち寄って鑑賞会するというものなのですが、一人の青年が作った作品は、一見ただの日常スナップで何の変哲もない人々の暮らしが撮られており、それがプツンと切れて終わるというものなのです。これは、作者の青年曰く、核戦争で滅びる市民生活を現したものだと言うのです。
仲間達は、唐突過ぎるし伏線も説得力もない!と非難します。
しかし青年は、「ある日は唐突に、伏線など張る暇もなくやってくる。」と言います。その直後、プツンという音がして何も描かれていないコマが表れ、漫画そのものが終わってしまいます。

現実世界には、いちいち伏線や説得力やテーマやストーリーなんて設けられてないんですよね。
エレファントを見て、まずこの漫画を思い出しました。

学校で、かなりどうでも良い会話をしていた皆ですが、その彼らが次々と死んでいくのを見るのは不思議な感覚でした。
事件や殺される様よりも、その前の普通の学園生活パートが重要だったように感じます。
そして、彼らの人生が突然終了してしまったことも。
事件に巻き込まれた人々にとっては、これが世界の終わり、「ある日」だったのですね。

犯人達が事件を起こしたことで、そして、沢山の人が死んだことで何かが生まれたか。
作中では何も生じてこなかったと感じます。
とりたてこの事件から学ぶ教訓もありません。
実際の事件を通して、このような映画が製作されたという点では、創造の源にはなっていますけど。

物語を通した主義主張というのは、できる限り排除されいてたように思えます。

ダサイ眼鏡の女の子も、イケてる女の子達も、ラブラブのカップルも、校長先生も、平等に死にました。
暴力的な死の前ではなすすべもなく同列の存在とならざるを得ないのです。
彼らには、殺されなければならないほどの罪なんて一つもありませんでした。
天罰でも因果応報でもないのです。

ジョンは、事件を免れて生き延びました。
視聴者を含め、その日死ななかった者たちの人生はこれからも続くわけです。
いつ来るとも知れない「ある日」に向けて、笑ったり、怒ったり、悩んだり、くだらないその場限りのおしゃべりをしたりしながら生きていくんですね。

ジョンが映画最初に登場したりDVDパッケージに出てたりしているのは、この映画の全ての(?)被害者、加害者と、事件直前に接点を持っているからなんでしょうね。
死亡予告係と言いますか、例えば、三人娘が犬とジョンを目撃した所で、あぁ、丁度犯人が学校に入って行った所だから、もうすぐ事件が起るんだな、とわかりました。
ダサ眼鏡女子は、ジョンが友達に写真を撮られている時、その後ろを通りかかっています。
ジョン自身は全く意識していないのに、まるで死神のようです。本人は死なないという所もそれっぽいです。
偶然事件直前に学校にいて、何人かと会話し、それから外に出て犬に会っただけなんですけど。
ジョンは、何か良くないことが起るみたいだ、と外にいる人を避難させようとしました。
なので、全くの傍観者という立場でもないようです。

ジョンって犯人達とどういう関係でしたっけ。友達ですか?犯人達は、ジョンを銃撃に巻き込むつもりはなかったようです。

テーマ:映画レビュー - ジャンル:映画

  1. 2010/07/11(日) 02:38:37|
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