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同人漫画サークル

筒井康隆「アホの壁」

アホの壁 (新潮新書)アホの壁 (新潮新書)
(2010/02)
筒井 康隆

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【概要】
人はなぜアホなことをしてしまうのか。
筒井氏の人生経験、見聞きしたことを踏まえ、俗流科学、俗流精神分析、俗流心理学(←本人がそう書いている)で考えていく人間論エッセイ。

【感想】
登場する理論に統計的科学的根拠はなさそうなので、2割くらいしか真に受けないようにします。
あるある感や、笑えるユーモアがあります。

フロイト先生大活躍です。

言ってはいけないことほど口をついて出てしまう現象っていうのは、誰しも経験があるのではないでしょうか。
この本では、無意識の潜在的願望が表出して突拍子もない、いっちゃいけないアホな事を言うんじゃないか、というような内容でした。
相手を攻撃したい、攻撃して罰を受けたい、など。

前にTVで「ワケギ」というべき所を「腋毛」と言ってしまった女性レポーターを思い出しました。
散々「腋毛って言っちゃ駄目だ!」って思ったでしょうね。

一文字しか合っていなくても、なんとなく下の単語を連想してしまう言葉をいう時は、言い間違えないかすごく心配です。無意識の願望っていうか、普通に恥かきたくないので。気まずくなるし!

憎んでもいない人にわざと嫌味を言うのが、ナルシズムからくる甘えという考えははじめて見たかもしれません。
どれだけひどいことを言えば相手が怒り出すか試すことで、自分がどれだけ愛されているか測るという。
この行為は、どうやっても相手も自分も損をするのでアホな行動の一つとしています。
でも、筒井さんもやってしまうようです。毒舌っぽいですもんね。
筒井さんに親切にしてくれる老作家にいつも嫌味を言ってしまうのは自分でも謎で、同性愛からくる感情だったのか…!?とか考えてらっしゃいます。
正直に、思ったことをずけずけと言うのは世間への甘え、という一面があるのは、言われてみれば分かります。
キツイ物言いを笑って許してしてくれる人、イラっときても黙ってスルーしてくれる人、彼らの善意で成り立っている部分はあるでしょうね。でなければ、すぐに言い争いの喧嘩になりますよ。

京都人はいけず、女はアホ、こういうイメージがありますが、と提示しておいて否定するのかと思いきや、そのままアホ扱いじゃないですかw
私の唯一知ってる京都人はとても優しい人でしたけど、この本だと都市単位で見てますので、歴史的にずっと首都だった所からくる気質、みたいな書き方です。
京都出身の方が読んだら反論あるかもしれませんね。
女にありがちなアホな言動。これは確かに思い当たることが多いのです。
一応、脳科学的に言ってそういうモンなんじゃないか、とフォローはしてあります。

フロイトは、人の「癖」や「失錯」(しそこない、失敗、しくじり)も研究していたんですね。存じませんでした。
物をなくしたり、切手を貼り忘れたりするのは、実は無意識でワザとそうしている説。
まじですか。
筒井さんは、自分の原稿入り封筒を横断歩道に落とされた時に「あ、フロイト的過ちだ」と言って苦笑いされたそうです。
意味は、「俺の原稿を載せたくないから落としたんだろう」です。
これは知的冗談にはなっていますが(両者がフロイトを知らないと成り立たないギャグ)、そういう部分があるのかもしれません。
ただ、人の失敗を全部深読みして、あれは俺が嫌いだから…、これは私に損をさせるために…とか考え出すと精神が参ってしまうのでほどほどに。
では、私が洗面所で歯を磨いた後、歯ブラシを台所のシンク内に直に置いて放置してしまう癖(そうしたことを覚えていない)と、階段の電気を消し忘れる癖には何の意味が…?

ギャンブルは、初期の成功体験と自己破壊衝動の組み合わせでのめり込む、らしいです。筒井さん曰く。
まさに自分を罰するために金を捨てているようにしか見えない、と。

メニンジャーのいう焦点的自殺、初耳です。
分かりやすいのは心を病んだ人による自傷行為ですが、それに似たことを一般人もやるようです。
爪噛みや、髪を抜いてしまう人。
眉毛をついつい引っこ抜く人っていうのもいますね。

筒井さんの拡大解釈かもしれませんが、乱暴な車の運転する人を死にたがっているみたいだというのはあながち間違いじゃないようで。
いつも怪我している人を事故多発者と呼ぶそうですが、たしかにその事例を見ると、自分から怪我しに行ってるんじゃないか、と取れる例がいくつもありますね。
自ら命を危険に晒しているのです。黙って生活してればしなくていい怪我をしています。
ここで、「タナトス」…死への衝動という概念もでてきます。

この事故多発者の話とその次のアホな死に方例は、筒井小説にも繋がるような、痛苦しグロい事が嬉々として書かれているので苦手な方は注意。私も苦手ですが、うっかり読んでしまいました。

ビジネスにおけるアホや、アホな喧嘩についても書かれます。
家族や親戚、友人などの身内で会社やるのはアホって書いてますが、成功している所もあるのでなんとも言えませんね。

「批判を悪意と受け取るアホ」「自分の価値観にだけ頼るアホ」にはならないように気をつけたい所です。
一度褒められたり成功したりしたことがあると、それが唯一の価値観になりやすく、柔軟性を失い失敗する。これは、イメージしやすいですね。
自分の強みを持ちそれを芯にするのも良いですが、周りの状況も考えたいものです。

最終的には、アホが愛おしくなってきた、アホ万歳、とういことで締められる本です。

テーマ:読んだ本。 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2010/06/28(月) 18:19:42|
  2. 読書感想文(小説)

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