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同人漫画サークル

映画「ぐるりのこと。」感想

ぐるりのこと。 [DVD]ぐるりのこと。 [DVD]
(2009/02/25)
木村多江リリー・フランキー

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【あらすじ】
子供の誕生を控えた夫婦、カナオと祥子。
夫のカナオは、靴屋のバイトを経て法廷画家となる。稼ぎはよくない。
妻の祥子は、なんでもちゃんとしたいしっかり者。出版社で編集者をしている。
その夫婦の流れ行く10年を、社会的重大事件と共に描いた物語。

【途中までネタバレなし感想】
「リリー・フランキーの尻が見たい!」という人にお勧めの映画です。

リリーさんって本職役者じゃないんですか?大変ナチュラルな演技で上手いです。

冒頭から数分間の会話を「下ネタに聞こえるけど本当はそうじゃないんだオチ」のギャグだと思っていたら、ストレートに下ネタでした。
その後、ものすごく長回しっぽい、夫婦が夜の営みについて今日はどうするか、そういう気分じゃねーよ、ちゃんと決めた日なのに、と延々論議するシーンがあるんですけど、よくこういう脚本思いつくなーという会話です。
直線的でも作劇的でもない素の喋りといった雰囲気です。

宮/崎/勤をモデルにした田中ツヨシ被告に少し萌えてしまい、いろんな方面に申し訳ないです。
子供みたいな喋り方でダサ眼鏡モサ髪、ちょっと指が綺麗なだけの猟奇ロリコン野郎。
この映画では、幼女殺害よりも、主にカニバリズムに焦点を当ててました。
今まで見た中で一番かっこいい加瀬亮でした。
キモいキャラクターですが実在モデルより大分イケメンです。

登場人物の性格の悪さ。嫌な奴のバリエーション豊富です。
ここまで的確に描き演じるのは至難の業でしょう。
しかも、まっとうな性格の人より、そういう嫌な奴の方が人生うまくいったり、仕事ができる人だったりもするのがまたあるある!という感じです。

大人のフランクな下ネタ会話っていうのが随所に登場します。健全な成人には良くありそうなやりとりです。
映画を通して、下ネタを言え、それを受け入れられるって事は元気な証拠だし、なんだかかわいらしい、愛しいものだなぁとすら思えてきました。

食べ物や、食事をするという行為に様々な意味が込められていたように思います。

【以下、ネタバレあり感想】

お米の様子を見ると、妻・祥子の精神状態がわかりますね。
米とぎ途中で放置してシンクに飛び散ってる時や、ごはんが床に落ちぐちゃぐちゃになった時は、すごく悪化しているサインです。
反対に、安定してきてからは、白いご飯がほかほかに炊き上がっているわけです。

食事シーンが楽しく美味しく穏やかになされる、というのも、夫婦の関係が正常かどうかの目安になると思います。
この作品、食事時にふさわしくない会話・行動をしていることが多いんです。
駄目出し、悪口、下ネタ、グロ、虫、ツバ、子供の泣き声など。これでは食欲がなくなります。
終盤、祥子の心が安定してくるまで、どの食事シーンもそうだったと思います。毎度何かで阻害されています。
冒頭、帰りの遅いカナオを待って一人でバナナを食べている祥子、という時点からその傾向は続いているようです。

祥子の兄夫妻が滅茶苦茶性格悪くて、互いにお似合いです。義母にキレてるとことかわーーーありそう!という感じでした。その時の義母も悪いんですけどね。「お金払えて幸せでしょ?」「ちょ、ちょっとすごいこと言われたんですけどー!」
兄夫婦には、子供は何人か生まれてすくすくと成長してしまうのに、祥子とカナオの子供はすぐ死んでしまうわけです。
がんばっていて優しい人に幸福が訪れるとは限らないのは、現実も一緒ですね。残酷。

ずっと、祥子の兄を父親だと思い込んでいてちょっと話を見失いかけましたが、父別居、ガン、名古屋、了解。

祥子が精神科にかかっていた病名は鬱病なんですかね。
快活で強気だった祥子が弱り始めたのは、物語のかなり初期でしたね。
子供を失ったあとからもう壊れてました。
そこに仕事のストレスです。
あのクッソムカツク後輩的な編集者。彼みたいな人は意外と会社に残り続けて出世しちゃったりしそうです。
祥子は、後輩が作家の書評を勝手に書き変えた件の尻拭いで作家に頭を下げた挙句、そのことを非難されたんです。
かわいそう過ぎます。
あそこで後輩君が「祥子さん、僕の為に謝ってくれたんですね。軽率な行動をして申し訳ございませんでした、僕からもあらためて謝りにいきます。」くらいのことを言ってくれれば祥子も疲れなかったのにと思いますが、それだと映画になりません。
「それじゃ俺の立場ないですよね!グレちゃいますよ!」(机蹴り)という逆ギレ感があるあるという感じで、監督(兼 脚本)はどこでその現場を見たんだろうかと感心してしまいました。あれが完全な創作だったら天才ですよ。
祥子が、ていねいに指導する先輩じゃなくて、ガツガツしかりつけるような人だったら、言い勝つことはできたかもしれません。良いか悪いかは別として。

祥子は、子を失ってから、生き物の命を奪うことに敏感になっているようです。
カナオの友達による下ネタに笑うこともできず(普通に下の話が不快でひきつり笑いしかできない人も世の中多いでしょうが)、クモを殺すことにも反対するなど、周りから浮いた、異常っぽい言動が増えました。

カナオー、もっと早く祥子を守ってサポートしてクレー、なんかビシっと言ってさーと思いながら見てました。
カナオが柔らかい性格なのは幸いした部分ありますね。これで、「食事も満足に作れないのか!」とか、「なんだノリ悪いな!」とかツッコむ人だったら、祥子死んでたのではないでしょうか。それが冗談だったとしても。

心療内科に通う祥子に「そういう人が身内にいると入園に響くんだよねー」的なことを言う兄嫁。
本当に気持ちが底までいくと、むしろそういう心無い言動にも傷つかない気がします。この地獄を抜け出せるんならなんでもいいや、逆にいうと、抜け出せないなら何言われても同じだ感。
ただ、祥子の場合、鬱(?)の原因が「ちゃんとしたかったのにできなかった。赤ちゃんもだめになった。」「きっちりしなきゃだめなの。細かく決めて実行しなきゃいけないんだ。」という想いからきているので、「駄目になった自分のせいで、人の子供に悪影響を与えてしまうかもしれない」という状況はキツイ追い討ちかと思います。
兄嫁が精神疾患に偏見強いのも仕方ない、と思えるのは、その前に宮崎事件(田中ツヨシ)があったせいですね。

祥子とカナオが殴り合いの喧嘩をします。祥子から何発も叩いておいて、カナオが手を出したら、「叩かないでー」と泣いていました。
これもDVに当たるんでしょうか?カナオが叩いたことは、確かに妻に対する暴力なんですが、あんだけ叩かれたらそりゃそういう対応になるだろ、という感じです。正当防衛に近い何かですし、それで祥子のかんしゃく攻撃が治まったのも事実です。
イライラしてる時に、隣人の苦情。口汚く、しかも、今と関係ないこと(バイクの騒音)について罵る祥子。
これまた、こんな現場を見たことないのに、すごくリアルに感じられました。
祥子は、バイクに暴言はいてたことありますもんね。これも、心の状態が悪いから出てしまう言葉なんでしょうか。
それぐらいの勢いであの日の後輩編集者を罵倒しても罰当たらなかったと思いますよ。さらなる逆ギレを招きそうですが。

号泣する祥子が、上記の「ちゃんとしたかったのにできなかった」という吐露をします。
話の最初の方では下世話なギャグのようにすら見えていた、夫婦の営みに予定を立てそれを絶対に実行しなければ許せないという祥子のきっちりした性格ですが、これが災いして、病んでしまったんですね。
子供を産んで大きく育てるということに失敗した自分というのに耐えられなかったのです。
カナオは、祥子の側にいる理由を「好きだから」と言います。
大変シンプルかつ王道なセリフですが、色々あって、しかも「私が死んだら泣くか」という妻の問いに「『泣いたら優しい人』っていうのは違うんじゃないかな。」と答えるような人が言うからこそ、重みがあります。

明らかに心を病んでいて、本気で死を考えている人に「私が死んだら泣く?」って質問されたら、嘘でも「泣く」って言うんじゃないですかね普通。
そこら辺、カナオってふにゃふにゃしてるようで、自分の中の芯は曲げない、嘘を付かないタイプなんでしょうね。

泣きじゃくる祥子と抱き寄せるカナオ。
祥子が落ち着いてきたあたりにカナオが言った「手は小さいほうがいいよ。」の理由がまさかの下ネタ。でも、久しぶりにこの夫婦のこういう空気を見られた気がして大変微笑ましかったです。

祥子は、メンタルクリニックの紹介で寺(?)での茶道に通い始めます。
治療の一環なんですかね?
そこで祥子は、天井に日本画を描く事になります。参考に画集を見るんですけど、その時の後ろ姿が大変セクシーなんですよ。
彼女が再生していくとても良いシーンなのに、裸Tシャツから伸びる脚に見とれてすいません。
でも、この映画のテーマからさほど外れていないかもしれません。
生きることと食べることとエロスの繋がりというイメージから言って。

カナオは、美術大学出たことから直結している仕事をしていたわけです。法廷画家と絵画教室という。
でも、祥子は編集者になっていたので、直接美術の仕事はしていませんでした。
兄からも、美大なんてつぶしが利かないと言われていました。
そんな祥子が、絵を描くことで充実した穏やかな日々を送れているというのは、過去をも引き連れつつ再誕って感じで良いですね。

法廷画家の中でも、本当は、もっと高尚な芸術がやりたいんだ、俺の力はこんなもんじゃないだぜアピールとかあるんですかね。そういうの、どこの業界でもあるみたいですよ。

カナオがはじめて法廷画家の仕事をした時、てっきり最後まで被告の顔が見られなくて白紙で提出するんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ。

カツラネタしかないおじさん、人の収入をやたら妬んで嫌味を言う人、怪しいオカルト商売をする祥子の母、表面上笑顔で優しいけれど腹黒くて押しの強い人(八嶋智人)など、全員にモデルがいるのではないかという程の見事な人間描写になってます。

祥子の父の見舞いについては、直接描写ありませんでした。似顔絵と父が生きててがっかりな家族という会話だけで表現されています。カナオ、にこやかで軽いトーンではありますが、かなりの毒舌でした。聞いていて嫌な気分にはならない絶妙な、でも本気という。
ひょっとして、祥子とカナオが嘘ついていて、父親死んでるんじゃないかとも思いましたが、この様子だと、本当に元気なのかもしれません。
その場で最後に、性格の捻じ曲がった兄夫妻や母親が、素直なセリフを言います。
普段から穏やかな人が言ったら、特にフィクションの場合実に普通の言葉なんですが、彼らから出ると感動的です。

野菜を育てるシーンは、命と食べ物の繋がりやそれらの力強さを感じさせますね。
土から作物を作ることは、人間の子供を作り育てることの代替行為なのかもしれません。

カナオは感情の起伏のあまりないタイプな上、嬉しい、悲しいを表に出さないので、祥子は余計不安だったんですね。
DVDのパッケージにもなっている金屏風前の写真って、カナオ夫妻が名古屋に行った時、結婚披露宴やってた人達に撮ってもらったんですかね。もしくは、そこのカメラマンに。

お風呂シーンで、リリー・フランキーの尻、再び。

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2010/06/01(火) 12:00:31|
  2. 映画感想

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