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ヘブライ語アニメーションドキュメンタリー映画「戦場でワルツを」感想

WALTZ WITH BASHIR 戦場でワルツを 完全版 [DVD]戦場でワルツを 完全版 [DVD]
(2010/05/12)
不明

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【あらすじ】
映画監督のアリ・フォルマン本人が、レバノン内戦についての記憶を探るドキュメンタリー。ノンフィクション。
インタビューやその証言に基づいた、過去、夢などの再現映像は、全てアニメーションで表現されている。
フォルマンの内戦に関する記憶は失われている。
「その時俺はそこにいたか?」「俺は何をしていた?」
様々な人に聞くことで、兵士としての日々を思い出して行くフォルマンだが、パレスチナ難民大虐殺の日にとった行動だけは忘れたままだった。
抜け落ちた記憶を埋めるように、夜、戦友と海水浴をしていたイメージが残っている。

【予告編】
http://www.waltz-wo.jp/clips.html

【途中まで、ネタバレなし感想】
話は置いといて、映像を見てるだけでも面白い映画でした。

キャラクターの動きがリアルかつ滑らかなので、全面的に3Dモデルで、それをモーションキャプチャーか、実写映像のトレスでやってるのかと思ってましたが、ネットで見たところ、Flashアニメーションと古典アニメーションに3Dグラフィックを合わせたものだったそうです。

絵柄は、コントラストの非常に強いもので、影の部分がくっきりと黒いです。

人間の動きも細かいですが、見ていて特にかっこいいのは、戦車、機関銃、戦闘機などが、パーツごとに細かく振動したりする所です。
ガチャガチャ動く様は、実写よりリアルなのではないでしょうか。

背景は、実在の町や建物に基づいて制作されていそうです。
抑えた色調ながら、現実のように沈んで色褪せた感じではないので、見やすいし好感が持てます。
ギャルゲやアニメで、実際の背景写真をイラストに起こしたものに近いでしょう。

原題は「バシールとワルツを」です。
バシールは、キリスト教側ファランヘ党の若き指導者で、そのカリスマは圧倒的、彼を性的に好きという人すら居たかもらしいです。
町にバシールのポスターが沢山貼ってあります。
このタイトルの元になっているシーンは、狂気じみていて美しく、大変かっこいいです。

現実の悲惨な事件を取り扱った作品を「かっこいい」と褒めてしまうのは、本当は良くないんでしょうね。
戦争の悲しさや虚しさも伝わってはきました。
この人達が殺し合って、あの人達が死んだから、だから一体なんだったんだろう、という。

キリスト教徒とイスラム教徒が共存しているイスラエルにパレスチナ難民が入ってきたことで内戦になったのが、レバノン紛争らしいです。
詳しくは知りませんが、第五次中東戦争と呼ばれるなど、国内情勢と宗教がこじれにこじれ、一言では説明できない状況になっています。
主人公のフォルマンは、イスラエル軍に従事していて、キリスト教側を支援していました。

戦争そのものの説明も、フォルマンが戦争においてどういう立場の兵士だったかも、映画ではほとんど描かれていません。

個人の証言から映像が起こされているため、そこには記憶の脚色がありそうです。
事実が変形していたり、一部の印象や感情が誇張されていたり。
それが、色鮮やかなアニメーションでやられているので、とてもインパクトある映像となっております。
実写的でありながら、爽快感・疾走感・ダイナミズム、等そういったアニメならではの醍醐味があります。

流行歌やロック、クラシックと戦争場面をあわせた映像は、音楽PVのようでもあります。
向こうの軍歌は、歌詞が残酷で、曲調が明るいんですね。軍公式の歌なのではなく、替え歌なのかもしれません。

帰還兵の語りによると「誰誰は、一日中戦車から撃ちまくっていた」「戦車は死体を満載して走った」「それまで血さえ見たことなかった」というのがありました。
兵士というのはもっとこう、対戦相手の軍とか組織に対する敵意や怒り、思想上、宗教上の主張、みたいなものを持って戦っていそうなイメージだったのですが、兵士一人一人はあまり考えていないし、素人に近いのに、なんか殺していた、って感じに見えました。
外から大きく見れば、巨大勢力のぶつかる戦争なんですけど、一個人から見るとこんな感じだったのかもしれません。

元兵士が良く見る夢、というのも映像化されています。
女性の縮尺が大きいなど、明らかに夢映像なのですが、それが、現実パートと同じアニメーションという手法で描かれているので、同一ラインのものに見えなくもないです。
つまり、現実(現在)、記憶の中の過去、存在しなかった場面の嘘記憶、夢、を近いトーンで受け取ることができるのです。

カウンセラーも登場します。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)を扱った物語と言えそうです。
主人公のフォルマン以外の帰還兵も、未だに心がやられています。

記憶というものの説明で、10枚の写真に、1枚だけ偽の合成写真を混ぜても、見せられた人はそのありえない記憶を補完してしまう、という実験がありました。
行ったことない遊園地に幼い自分がいる写真を見ると、「そうそう、そこ行ったわ!懐かしいー」となるのです。
「覚えてませんね」という人にも、「本当に?」と念押しすると、「ああ、やはり行きました。その時父が~」と、ありもしない思い出を語り始めるのです。
いかに、記憶というものがあてにならないかが分かります。

上に載せたDVDジャケットは、主人公フォルマンが虐殺のあった夜について持っている偽の記憶、幻覚の場面です。
一緒に海に居たという仲間の兵士に、そのことは否定されています。
では、本当はその夜、フォルマンは何をしていたのか。
そういった点で、ミステリー要素もあります。

【以下、ネタバレあり感想】

フォルマンの上官シュミュエル・フレンケルが、(仲間から奪った?)機関銃でワルツのステップを踊りながら乱射するシーンが素晴らしいです。
このとき、ショパンのワルツが掛かっていて、後ろにバシールのポスターが見えることもあり、「戦場でワルツを」「バシールとワルツを」というタイトルになっているんですね。

途中、アダルトビデオかポルノ映画のシーンがあるんですけど、あのなんともアホな流れからのエロというのは、全世界共通の雰囲気なのかもしれません。

wikipediaを参照した所、カリスマ指導者バシールが暗殺された事件をPLO残党の犯行とみなしたレバノン軍が、その報復として、パレスチナ難民の虐殺を行ったようです。
主人公フォルマンの所属するイスラエル軍の黙視する中。

フォルマンは、虐殺の当日、ビルの屋上から照明弾を打ち上げていたか、仲間がそれをするのを見守っていたようです。
照明弾は、虐殺を行ったレバノン兵が行動しやすいよう援助するものでした。(?)

虐殺の実行犯ではなかったけれど、それを傍観していた自分に強い罪の意識を感じ、19歳のフォルマンは記憶を封印してしまったのです。

海の中から、照明弾の振る町を見ていたという幻覚も、それほど間違いではなかったんですね。
たしか作中で、水の中に居るイメージは、恐怖に浸かっていることを示していると、誰かが言っていました。
照明弾を打ち上げていた当事者であるという記憶を、海岸から離れて見ていた、と書き換えることで、少しでも虐殺の共犯から逃れようとしたのでしょう。
でも、その日の空を忘れていなかったのです。

てっきり、フォルマンも虐殺側の実行犯かと思ってました。
フォルマンの場合は、子供時代にナチのホロコーストの話を知って以来、虐殺というものは、よっぽど恐ろしく、愚かで罪深いものだと思っていたのでしょうね。
それで結果、虐殺の事実を受けて、自分はそれと同じ悪事に加担してしまった加害者なのではないか?とショックを受け、記憶を失った。この現実を抱えたまま生きては行けないと、脳が判断したのでしょうか。
直接手を下していなくても、これほど心を病む物なんですね、戦争というものは。

目の前で仲間が死んだり、自分が怪我をしたりして帰還した兵士は、いかにも大きなトラウマを抱えてそうですが、人を殺した場合や、殺しを見過ごしていた時すらも心の傷になるのですね。

監督のフォルマンは、事実を認識し記憶を取り戻したことで、これからどう生きていくのでしょうか。

ラストの実写部分は、本物の報道映像でしょうか?
DVDを再生したら、なぜかそこから始まって、スタッフロールが流れました。
ずいぶんとエンディングっぽいオープニングだなぁ、ここからはじまるのか?と思って見てたら、DVDが終わってしまいました。
前に借りた人の影響で、途中から再生されてしまったようです。いきなり死体の山を見てしまいました。
あれが、虐殺された難民なのでしょうか。

実際には、最後の最後に流れる実写です。
ずっとアニメーションで見ていていきなりコレというのは、実に残酷です。
当時のフォルマンにとっては、泣き叫ぶ女性達も沢山の死体も、自分が招いた現実に思えたのかもしれません。
そして、それを受け入れられなかったのでしょう。

戦争だから人を殺して当たり前だと割り切っていても、敵兵士を殺すのと、一般市民をむごたらしく殺すのは全く違うものなんですね。

テーマ:アニメ - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2010/05/25(火) 01:03:39|
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