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ジョン・ウィンダム「トリフィド時代」感想

トリフィド時代―食人植物の恐怖 (創元SF文庫)トリフィド時代―食人植物の恐怖 (創元SF文庫)
(1963/12)
ジョン・ウィンダム

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【あらすじ】
緑色の流星群が降り注ぎ、世界中の人々が世紀の天体ショーに魅入ったが、翌日異変が起こる。
主人公のウィリアム・メイスンは、トリフィドという植物の研究者なのだが、流星当日は目を怪我していて包帯で巻いていたため、流星を見ていない。
破滅していく世界と、不自由になった人類。

【途中まで、ネタバレなし感想】
この本を読んだきっかけは、友人がカラオケで、筋肉少女帯の曲「トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く」を歌っていたことでした。
「トリフィド」には元ネタがあるらしいということで、この小説を手にしました。

その曲の歌詞に「♪友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでた」という一節があったので、当然「トリフィド」も「変な本」なのだろう、B級ホラー映画的なものなのだろう、と思っていたのですが、予想外にしっかりとしたシミュレーションといいますか、こういう状況に陥ったとき人はどのような行動を取るのか?という思考実験でした。

トリフィドというのは、三本足を持ち歩行する植物で、鞭状の刺毛を持ち、それで人を刺したり殴ったりしては殺し、腐肉を栄養とする習性を持っています。
植物油が取れるため、人間によって剪定、管理、栽培されています。

本当は、もうすこし先まであらすじを書いた方がいいのでしょうが、何も知らないで読んだ方が、主人公と同化して楽しめると思います。
「この静けさはなんだ、一体何が起こったのか、包帯のせいで何も見えない」という。

流星の日、主人公が、「自分は世界からのけ者にされた」というような気持ちになっていたのが面白かったです。
全人類が招待されるパーティーに、自分だけ招待されなかったようだというのです。
翌日彼は、特別な存在になります。
このことは、普遍的な人生にも当てはまるかもしれません。元々変わり者でコンプレックスの強く、周りから爪弾きにされていた人が、それゆえに選ばれ、特別なことを成し遂げる的な。関係の劇的な逆転です。でも、現実には、そんなシンデレラストーリーに憧れてもうまくいかず、やはりあぶれ者のまま、ということが多そうです。
選ばれし者になったという罪悪感、優越感、開放感、使命感など色々な感情が書かれていました。

物語には、単なる破滅もののパニックストーリーではなく、国家論、社会学的な要素を描き出し、しっかりとした造りでした。
新道徳により、旧道徳により、キリスト教により、封建制度により、新しい世界を作ろうとする人々。
混沌から集落や国家が作られていく過程、指導者の生まれる様子が見られて興味深いです。

流星の降ったトリフィドの日、それまでの旧世界は壊れました。
法律や秩序が通用しなくなります。昨日までだったら悪いことだからしなかった、ということを皆普通に行うようになります。
また、一夫多妻を提唱するものが出てくるなど、人類を存続、子を生み育てることに重きを置く動きや、それに反対するものも出てきます。
トリフィドがいなかったら、もう少し動きやすそうなんですけど、それでも世界は混乱せざるを得なかったでしょう。

伝統的女性観について、きつい物言いながら割りと正論じゃないか?という事を言うキャラがいました。言われた女性はかなり不愉快になってましたが。
無知が魅力になる時代は終わったと。

【以下、ネタバレあり感想】

主人公は、包帯取っても目が見えないんじゃないか、と少し心配でした。
数年後に思い返して書いているような文章だったので、長いこと生き延びるんだなということは最初の方でわかってました。
ただ、パートナーとなるジョゼラについては、途中で死ぬと予想してました。外れましたけど。

流星を見た人が盲目になってしまうというのは意外でした。
全く、巻末のあらすじを読んでいなかったので。

てっきり、トリフィドが流星に乗って地球にやってくるお話かと思ってましたが、トリフィド自体は流星以前から生息していたんですね。
しかも、どうやら人間が遺伝子操作で造りだし拡散させたような疑いがあります。トリフィドが広く栽培されるようになったのは良質な植物油を採るためなのですが、その背景には食料不足と紛争危機がありました。
はじめの方を読み返すと、ウィルスを積んだ、生物兵器となりうる人工衛星を、直接攻撃の為に保有していることはない、みたいなことをアメリカ政府が言ってるんですね。
直接じゃないということは、本物の流星が衛星にぶつかるとか、誰かが衛星を攻撃するとかすれば、生物兵器が作動するわけです。
話のラスト付近で主人公が、流星は本当に流星だったのではなく、衛星兵器だったのかも、人類を襲った疫病も人工的なウィルス兵器かも、ということを示唆するんですけど、ずいぶん初期から伏線が張ってあったのですね。
まったく気づきませんでした。

流星もトリフィドも疫病も人間が作り出したものだとすると、人類は科学進化の末、自らの首を絞め自滅しかかっている、という話だととることができます。
全人類による自殺未遂、というのが、この「トリフィドの日」なのかもしれません。
その後、人類がどう再生し、また、トリフィドを殲滅するか、という最初の数年を書いたのがこの物語なのでしょう。

もし、後の人類に新しい宗教、神話を残すとすれば、その起点はイギリス本土から離れたワイト島植民地ということになるのでしょうか。
しかし、アメリカやアジアでも、それなりに国家ができてそうな気もします。やがてそれらはぶつかり合い戦争したりするのでしょうか。
それでは、旧世界の繰り返しになってしまいます。
トリフィドの日と同様の破滅を迎えないためにも、別のルートを選択すべきでしょう。

子孫を残すのは大事ですが、それが全てとなると人間らしくないような気もします。

先人の知恵や建物、畑、工場、技術のあるまま、原始に返った人々。そういったアドヴァンテージのある退化っていうのは面白い現象です。
いくら本に知識が書いてあっても、一からそれを学び実践するというのは非常に困難なものです。

この本における、目の見える人、盲人、もとから盲人だった人、という区分はどう解釈するのが良いのでしょうか。
目の見える人は、皆の利益を考えなければ、盲人を放っておいて、自分達だけ生き延びるということもできるのでしょうが、その絶対数が少なくてやがて行き詰るでしょう。
巨大な工場や経済を動かし、子を産み育て、人類を存続させるには、盲人も必要です。
人類なんてどうでもよくて、今が楽しけりゃいい、後の代の事なんか知らんという人もいるでしょう。それはそれで必ずしも間違っていないと思います。
が、トリフィドの存在がやっかいですね。トリフィドへの対抗手段を持っていなければ、自分だけ生き続けることも困難です。

トリフィド退治の専門家みたいになっている少女、スーザンがかわいかったです。子供が重火器もって植物に挑むとかかっこいいですね。

「トリフィド時代」をキリスト教になぞらえれば、ウィリアムとジョゼラがアダムとイブ的な位置づけになるんでしょうか。と言っても、彼らだけではなく、複数のカップルが同時に新世界の最初の世代になっていると思いますが。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/04/07(水) 07:38:20|
  2. 読書感想文(小説)

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