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東野圭吾「新参者」感想 

新参者新参者
(2009/09/18)
東野 圭吾

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【あらすじ】
小伝馬町で一人暮らしをしていた45歳の女性が殺された。
日本橋署へ異動になったばかりの警部補・加賀恭一郎は、日本橋の商店街で聞き込みを行う。

【途中まで、ネタバレなし感想】
帯に「このミス(このミステリーがすごい)2010年度版」「週刊文集ミステリー」ダブル1位と書かれていました。

ミステリーではありますが、同時に人情ものでもありました。

皆それぞれ、人に言えない事があるわけですが、何もそれが後ろ暗いものであるとは限らず、他人を思えばこその嘘や隠し事だったりと、優しさがもとになっているものが多かったです。
各章ごとに捜査対象人物が異なり、また、それにともない視点も変わっているのですが、この「隠し事」という点では共通していました。
警察の加賀は、深い洞察力と人を思いやりつつ鋭い所を付く話術で、人物関係の絡まりを解きほぐし、以外な真相を突き止めます。
それは、事件に直接関係がなかったりもします。むしろ、関係ないと証明することで、別の問題が解決していたりします。

新参者、直訳するとニューカマーですかね。
この物語の探偵役 加賀恭一郎 と、被害者女性が、共に日本橋に来たばかりの新参者なのです。
新参者でありながら、昔ながらの商店街をうまいこと捜査していく加賀さんの手腕が見ものです。事件だけではなく、関係者一人一人に対して向きあっているという印象です。
そして、被害者女性が日本橋に来た理由というのがですね、これが良いのですよ。いじらしいというか切ないというか。詳しくは、以下のネタバレゾーンで。

ハードカバーですし、ページ数もまぁまぁ多いのですが、会話文とト書き的説明だけで成り立っている部分が多く、実際の文字数は少ないので、見た目の厚さの割りに短時間で読めます。

舞台の一つになった、浜町。この辺り、他の東野作品でも出てましたね。作者にとって、土地勘のある場所なのでしょうか。

【以下、ネタバレあり感想】

「第一章 煎餅屋の娘」
サラリーマンの歩く方向と、上着の有無に注目し、外回りから帰ってきたのか、会社を出た直後なのかを推理するという着目点が面白かったです。
母親の本当の病名を伏せる為に偽の診断書を作成したことが、結果保険外交員田倉さんの疑いをすっきり晴らしてあげられない原因となりました。
田倉さんは、約束を守る義理堅い男だったのですね。そのせいで自分が犯人候補にされているとしても。

「第二章 料亭の小僧」
愛人の為に人形焼を買ってこさせる料亭店主とその遣いの小僧、の話でした。
女将には、全てお見通しなんですね。
店主も、自分の子供じゃないと知りつつ隠し子気分を味わったりと憎めない人です。
人形焼を自分で食べたと証言したのに、ブラックコーヒーを選んでしまう小僧。つまり、甘党ではない。それを見抜く加賀さんは、本当に切れ者だと感じました。
まさか第二章でいきなり犯人判明しないよね、と思いつつも、すこし店主を疑ってしまいました。
店主が買った人形焼(を女将がワサビ入りにすり替えたもの)が被害者女性宅にあったので。
人形焼の嫌いな愛人が、被害者女性におすそ分け、というか丸っと渡していたのが真相です。

「第三章 瀬戸物屋の嫁」
険悪な嫁姑が、本当は互いのことを想って贈り物をしようとしていたというのがとてもいい話でした。
姑は、キティちゃんパンフレット入りの封筒を見られたくなかったのですね。嫁へのサプライズプレゼントですから。それで、嫁を泣かすまで怒る所が性格激しいですが、お互いツンデレということで。
嫁も、歯の悪い姑がアワビを食べられるように器具を準備していたのです。ただし、自分でそれを買うをバレバレなので、他の人に頼んでいました。素直じゃない人達です。

「第四章 時計屋の犬」
犬の散歩中、被害者女性に会っていた時計屋店主のお話です。
駆け落ち結婚した娘とその旦那を許さないぞ!という頑固親父が、実は娘の妊娠を知り、子宝犬に祈祷しに通っていたのだという、これまたとてもよいお話です。
意地っ張りなお父さんの優しい一面です。
タイトルの犬というのは、飼い犬ドン吉のことでもあり、また、子宝犬のことでもあるのでしょう。
この時点で、何故被害者女性もこの神社に通っているのか疑問に思うべきでした。

「第五章 洋菓子屋の店員」
ここではじめて生前の被害者と、被害者の息子が登場します。
冒頭のケーキ屋、女の子が誰か男に売れ残りスイーツを持って帰ろうとしているってことしか覚えてなかったので、普通に被害者息子の彼女の店だと思ってました。
店名や店員名、彼氏の名前などまるで違ったんですね。はっきり書いてあるのに勘違いしてしまいました。これは、被害者女性・峯子が間違うのも無理ありません。
もちろん一番大きいのは、銀行合併というトラップのせいですけど。
被害者・峯子が引っ越してきたのは、この近くに息子の彼女が勤める喫茶店があると聞いたからです。
つまり、息子との繋がりを求めてこの町に来たわけです。
母親が、離婚後独立して一人暮らしする図を思い浮かべるとなんだか心もとないというか、頼むから頑張って幸せになってくれ感がありますが、この物語では思いっきり死んでしまいました。
母は、赤の他人を自分の孫を身ごもった女性だと思い、ケーキ屋に、そして子宝犬の神社に通い続けたんですね。悲しいことですが、彼女にとっては幸せだったのでしょう。
峯子が、「息子に子供が生まれるらしい」と思い込んだことは、結果としては、彼女の命を縮めることになりました。それで、金が要り用になり犯人に接触、犯人にとっては持ち出して欲しくないことに触れてしまい殺されたのです。
実に残酷なことです。

「第六章 翻訳家の友」
被害者女性・峯子の旧友で、離婚後仕事の面倒を見てくれていた女性・多美子の話です。
その翻訳家女性は独身で、被害者の第一発見者でもあります。
翻訳家は、日系外国人のコウジに、一緒にロンドンに来ないかとプロポーズされて舞い上がりますが、被害者・峯子からすると、ここでほっぽり出されるのは、えらく不安で不満なわけです。
そこで、心底自分のことしか考えず、結婚に猛反対したらちょっと嫌ーな感じですが、実はそうではなく、二人の為に夫婦箸を、しかも思い出の桜柄のものを贈ろうとしていたのですから、やはり他人を思いやられる良い人だったのでしょう。
多美子とのけんかのくだり、多少物言いがキツめでしたけど。
箸の話といい、時計屋の神社参りといい、嫁姑問題の真実といい、加賀刑事が動かなければ、判明しなかったことです。
加賀さんは、直接事件と関係なくても、人間関係を修復する、もしくは、すでに修復していることをそっと教えてくれる存在です。
ちょっとコウジが犯人なんじゃないかと疑ってしまいました。結婚とロンドン行きを邪魔する峯子を消そうとしたのかと。

「第七章 清掃屋の社長」
被害者・三井峯子の元夫・直弘(社長)が、銀座のホステス裕理を秘書に雇ったのだけれど、二人は愛人関係なのか?という話です。
結局、社長と秘書裕理は実の親子で、裕理は、被害者息子の腹違いの姉だったのです。
手作りシルバーアクセサリーから推理できる加賀さんはさすがです。
身に着けるものというのは、見る人が見れば、色んなことを読み取れるものなんですね。
ラスト付近でも出てくるセリフですが、本当に、離婚してからの方がむしろ家族というものを求めてる、という状態ですね。
峯子は、そんなに直弘のことをよく思ってはいなかったんですかね。直弘がもし浮気してたら、もっと金が取れる、とか思っていたわけですから。
息子(と彼女とその架空の子供)>>>>>>>>>>>夫 という感じでしょうか。
ここで、峯子殺しの犯人岸田要作が初登場ですかね。
岸田は印象が薄かったので、これまでに出てきた中で犯人っぽいのは弁護士かな?とか思っていましたが大外れでした。動機は全くありませんが意外性ということで。

「第八章 民芸品屋の客」
「義父の岸田要作」と書いてあるのに、すっかり前章を忘れていて、直弘(社長)の所の税理士と同一人物だということに気づかず、新キャラだと思ってました。
独楽には紐が必要なんですよね。当たり前のことですが盲点でした。
そして、絞殺にも紐が必要、と。

「第九章 日本橋の刑事」
タイトルから加賀メインかと思っていたら、もう一人のあまり推理力なさそうな年配刑事・上杉博史が主役でした。
彼からすると、キッチンバサミの件も人形焼にワサビが入っていた件も、よく分からないけど解決した、という状況だったようです。
加賀さんは、それらの真相を言っていなかったのですね。この章の後半で語りますけど。
独楽の紐と、独楽に付いた指紋が決め手になって、岸田要作が逮捕され、供述をしました。
が、実は横領の罪を犯している息子をかばっていて、そもそも自分の不正自体も息子の為にやっていたということは伏せていました。ギャンブルによる借金返済の為ではなく、息子に泣きつかれて金を工面していたのです。
その息子の嫁は、依存症かというくらい買い物をしていました。どこからそんな金が出てくるのだろうと、疑問に思ったりしなかったのでしょうか。かなり贅沢してたみたいです。夫は、それを止められなかったのでしょうか。
犯人に、息子の罪を含めた真実について話させたのが、上杉刑事でした。加賀さんに、背中を押されての説得でした。
上杉刑事は、数年間、息子が無免許ノーヘルでバイクに乗ろうとしていた件を警察の権限で見逃させていたのです。そして、その一週間後、息子は、バイクのオーバースピードで事故り亡くなりました。
このエピソードからも分かる通り、悪事を働いた子供をかばうことは、その子供を守ることにはならず、もっと悪い方向へ導くことになる、という意図が犯人に伝りました。そして、岸田は、全てを白状します。
ラストは、第一章の煎餅屋の娘(美容師の卵)が再登場します。

「全体の感想」
事件の核心だけを描くなら、第五章以降で事足りますが、現実の捜査というのは、地道に様々な線を潰していく作業なのでしょう。だから、なぜ、それらの物的証拠、目撃情報、不自然な点が、事件とは関係ないのかを明らかにする必要があったのです。
この作品は、事件をきっかけとして、人と人の暖かい関係を浮き彫りにする作りになっていたのが良かったです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/04/02(金) 15:41:18|
  2. 読書感想文(小説)

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新参者

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