野良箱

同人漫画サークル

夢野久作「少女地獄」

少女地獄 (角川文庫)少女地獄 (角川文庫)
(1976/11)
夢野 久作

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【あらすじ】
全ての患者に好かれる看護婦・姫草ユリ子は、嘘つきだった。
表題作他、数編収録。

【ネタバレなし感想】
ユリ子に虚言癖のあることが少しずつ明らかにされるのではなく、はじめの方から彼女が嘘つきであると書かれています。
嘘つきであるとわかってもなお、ユリ子は人を惹きつけるようです。
看護婦や他人と接触する才能が飛びぬけているだけに、嘘つきであることがもったいないです。

「少女地獄」のタイトルの中には、3作品入っています。
てっきり、全て姫草ユリ子に関する話だと思ってましたが、3作はそれぞれ別の話であるようです。

その他の話は、既存のジェンダー論に対する挑戦のような要素がありました。
また、異常性欲、加虐嗜好、サディズム、猟奇、といった部分もあったと思います。
苦手な人は注意してください。
私も苦手なはずなのですが、活字で読むのは大分慣れました。映像は無理です。

肺病の男が出てくる話は、不思議な読後感でした。
見知らぬ女に、乳母車を渡され、向こうの電車通りまで押してくれと頼まれる。というシチュエーションが、面白かったです。何かを象徴してそうな気もしますが、それがなんだか分りません。

複数の話で「アカ」(共産主義)って言葉が出てきました。
当時は、アカ狩りとかあったんですかね。

虚無主義っていうのは、作者の造語じゃなくて、元々ある哲学用語なんですね。別名、ニヒリズム。
wikipedeiaによりますと、「この世界、特に過去および現在における人間の存在には意義、目的、理解できるような真理、本質的な価値などがないと主張する哲学的な立場である。名称はラテン語の Nihil (無)に由来する。」だそうです。

本書と同名の成人コミックがある模様です。タイトルと表紙から想像するに、陵辱系だと思われます。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/03/20(金) 03:52:35|
  2. 読書感想文(小説)

夢野久作「ドグラ・マグラ」

ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)ドグラ・マグラ (上) (角川文庫)
(1976/10)
夢野 久作

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ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)ドグラ・マグラ (下) (角川文庫)
(1976/10)
夢野 久作

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【あらすじ】
男が目覚めると、窓に鉄格子のはまった部屋の中にいた。
男は、記憶喪失になっており、自分の名前もここがどこなのかも分らない。
壁の向こうから少女の絶叫が聞こえてくる。
「…お兄さま、お兄さま、お兄さま、お兄さま、お兄さま…お隣の部屋にいらっしゃるお兄様…あたしです。あたしです。お兄様の許婚だった…あなたの未来の妻でしたあたし…あたしです。あたしです。どうぞ…どうぞ今のお声をモウ一度聞かして頂戴…聞かして…聞かしてエーッ…お兄様、お兄様、お兄様、お兄様…おにいさまアーッ…」
「…タッタ一言…タッタ一コト返事をして下されば…モヨコと…あたしの名前を読んで下されば…ああお兄様」(以下略)

【途中までネタバレなし感想】
ヒロイン「呉モヨ子」の名が、オーケンが昔使っていた芸名の元ネタだそうです。

冒頭歌「胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか」は、聞いた事ありました。どこで知ったのかわかりません。
表紙に見覚えがあるので、書店で手にとって最初だけ立ち読みしたことがあるのかもしれません。

もっと、難解で読み進めるのが大変で意味不明な本だと思っていました。
しかし、実際には、するする頭に入ってきて、文章はわりと平易で読みやすかったです。
ところが、「で、結局どういう話なのか説明して」と言われると凄く難しいです。
睡眠中に見る夢みたいなもので、目の前に現れては消える数行は、確かにリアリティがあって明確に理解できているように思えるのに、全体を繋げると混沌とするのです。

作中に「ドグラ・マグラ」なる小説が出てきます。
この書き出しが、本書と同じであり、また、その要約から言っても、この作品と同じものだと言えそうです。
上巻の最初の方で、この先の内容を予告しているのです。
入れ子形式といいますか、マトリョーシカといいますか、考えているうちに頭がグルグルしてくるようなつくりです。

上記の作中作ほか、調査書や遺書、論文、新聞記事などが登場し、メタ・フィクション的な手法がとられています。
それぞれ、中身の文体が異なります。

「モット」や「トテモ」などの、カタカナの使い方が独特で面白いです。

「心理遺伝」や「脳髄は物を考えるところに非ず、全身細胞意識の電話交換手にすぎない」、「胎児の夢―胎児は母胎の中で、先祖代々の進化過程を夢見、その大部分が悪夢である」などの概念が出てきます。
「心理遺伝」で検索すると、出てくるのは「ドグラ・マグラ」に関する記述がほとんどでした。
夢野久作、独自の仮説だったのでしょうか。そもそも、作者はそれを本気で信じていたのでしょうか。

心理学、犯罪学、脳神経学、解剖学を絡めつつも、探偵小説、ミステリとして読める作品でした。
謎が段々解けてきたかと思うと、またわけがわからなくなったりで、どんどん次のページをめくりたくなりました。

腐乱死体、死体解剖、殺人など、グロテスクな要素や、変態性欲に関する描写が多いので、苦手な人は注意してください。
むしろ、そういうのが好物だという方には、オススメの作品です。

モヨコの美しい様の描写が大変可憐でした。

怪奇趣味やオカルティックな科学などが渾然一体となりストーリーと結びついていて、大変面白かったです。
【以下、ネタバレあり感想】
【“夢野久作「ドグラ・マグラ」”の続きを読む】

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:本・雑誌

  1. 2009/03/16(月) 16:21:32|
  2. 読書感想文(小説)

監修・糸井重里 編・ほぼ日刊イトイ新聞「オトナ語の謎。」

オトナ語の謎。 (新潮文庫)オトナ語の謎。 (新潮文庫)
(2005/03/29)
糸井 重里ほぼ日刊イトイ新聞

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【オトナ語の使用例】
「きんきんにとんとんにしたいのですがゴタゴタ続きでバタバタしておりましてカツカツだというのがいまの状態です。」

さくっと一日足らずで読めました。

サイト「ほぼ日」上でやっていた「オトナ語」企画をまとめた本のようです。
この企画には、多くの読者がメールで参加しています。

「オトナ語」とは、主に社会人が使う言葉で、業界用語やビジネス用語とかぶっている部分もありますが、もっと微妙なニュアンスのものです。

日本では、上司や目上の人に対して「あなた」と呼びかけてはいけません。ただの二人称なのに。
これが、オトナ語です。
また、この記事の始めの方で使った「さくっと」もオトナ語です。

各語に対する説明が、ユーモアに溢れていて面白かったです。

「午後イチ」「中長期的」「営業日」等、仕事上よく使われる用語が網羅されています。
また、「デフォルト」「世界」「にんげん」「ごめんなさい」「次元」など、もともと辞書にある普通の言葉だけれど、転じて別の使われ方になっているものがあります。

単語ではなく、話し言葉みたいな項目も数多くありました。
「その節はどうも」「すでにご存知でしょうけど」「それとなく」「そういった意味とは」「ボク的にはオッケーなんですけどね」「いいっちゃ、いいんですけどね」など。
用例もあります。

用例にしょっちゅう出来てくる「渡辺本部長」は、仕事ができなくて、態度もよろしくなく、部下に疎まれる上司として描かれているようです。

オトナ語成立の裏には、へりくだるべし精神や、責任回避、皮肉、妥協、その他様々な思惑があるようです。
含みが感じられる言葉が多いです。

「社会人あるある」として読むこともできます。

カタカナ語も多数収録されています。
カタカナ語の意味を今更人に聞けないという方にお勧めします。

名作や普段の会話や昔話をオトナ語に置き換える「オトナ語でアレンジコーナー」があります。
例【港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ】
元歌「アンタ、あの子のなんなのさ」
           ↓
オトナ語「失礼ですが、あなた様はあの方とどういったご関係で?」

こういうネタやる芸人いてもおかしくないですね。

2003年に出た本ということで、現在では、さらに新たなオトナ語が生まれているのでしょう。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

  1. 2009/03/05(木) 23:09:02|
  2. 読書感想文(小説)

天童荒太「悼む人」(いたむひと)

悼む人悼む人
(2008/11/27)
天童 荒太

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帯には、【第140回直木賞受賞作 聖者なのか、偽善者か?「悼む人」は誰ですか】と書かれています。

【あらすじ】
青年・坂築静人は、人の死んだ場所で「悼み」を行い、全国を訪ね歩いている。
静人は、「悼み」の前に、周囲に聞き込みをし、亡くなった人は、誰に愛され、誰を愛し、どんなことをして人に感謝されていたかを確認する。
そして、それを胸に死者を悼む。
左膝を地面につき、頭上に挙げた右手と地面スレスレに下ろした左手を胸の前で重ねるのが、悼みのポーズだ。
週刊誌でエログロな記事ばかり書いている男・蒔野抗太郎、末期癌を患った静人の母・坂築巡子、夫殺しの罪で服役を終え出所した女・奈義倖世、三者と静人をめぐるエピソードが描かれている。

【途中までネタバレなし感想】
静人も死んだ人も殺した人もその他の誰もが、完全に善であるとも悪であるとも、言い切れないように描かれていました。

静人の悼みの旅についての批判的な意見やデメリットについて十分に書かれており、決して手放しで賛美する内容ではなかったのが、変に宗教がかっていなくて良かったです。

静人の悼みは、人の亡くなった原因や状況をほとんど無視し、あくまでも、特別な人間がそこに存在していたのだという事実に主眼が置かれていました。

命の重さに優劣をつけるのは、当たり前に行われています。
有名人や重大事件に関わる死は重く、そうでないささやかな死は軽く扱われます。
人々が、ある死については、かわいそうにと言うのに、ある死については、死んで当たり前、自業自得だと言うのです。
それは悪いことでしょうか。
極悪人も善良な人も同じ重さの命として扱うことの方が間違いであるかもしれません。
特に不幸にも亡くなった善良な市民の遺族にとっては許せないと思います。
しかし、静人の場合は、全ての命を平等に扱おうとしています。
それには、賛否両論あるでしょう。

テレビで亡くなった人について、いい人だった、かわいい子だった、皆から好かれていたなどと報道されると、私は、チャンネルを変える事が多いです。
見ても、その側から忘れていきます。
事故にしろ殺人にしろ、必要以上に犠牲者や遺族に同調しないようにしています。
具合悪くなるので。

静人は違います。覚えきれるはずもないだろう死者に関する膨大なメモを読み返しては心に刻み忘れないよう努めているのです。

【以下、ネタバレあり感想】
【“天童荒太「悼む人」(いたむひと)”の続きを読む】
  1. 2009/03/04(水) 01:00:55|
  2. 読書感想文(小説)

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